目覚め
遅れました。すいません。
目覚めは唐突に。
無理矢理叩き起こされるみたいに、目を見開く。
やって来たのは、腹部に感じる衝撃。内側に有るモノを全て押し出す様にして、腹を殴られたのだ。
「……ゲホッ、ゴホッ!」
次に感じたのは、宙を浮く感覚。
飛んでいる、と感じた時には既にアルトは何度か跳ねて、無様に地面に転がっていた。
「い、一体……何が?」
突然の事に、まだ脳は処理をし切れていない。
断片的に起こった事を繋ぎ合わせても、現状が全く見えてこないのだ。
「何なんだ、あの魔物……いや、化け物?」
視線が一番最初に捉えたのは、柱に何本もの触手が引っ付いた、得体の知れない生物。恐らく、と言うか確実に、殴ったのは奴だ。
「…………!」
視線を落とすと、その傍には倒れたノエルとクロエが居た。
瞬間、頭に血が上る。
「テメェ、ノエルとクロエに一体何をした!」
節々の痛みなど気にしない。
怒りによる後押しに、立ち上がる。
目の前の化け物を倒す策などは考えてなどいない。それでも、自身の胸の内で燃え盛る憤怒に促され、『蠢くモノ』に詰め寄る。
『蠢くモノ』は、目を細める。
少しの砂埃をその場に残し、気が付けばアルトのすぐ近くに居た。
「……なっ」
攻撃に有効なアイテムも、気を逸らすのに有効なアイテムも、既に無い。故に、アルトからのアクションは、『蠢くモノ』を殴ることしか出来ない。
大ぶりな一撃。
簡単に避けられる。
大きな隙が出来、『蠢くモノ』の触手がアルトの腹部にめり込む。ズブズブと触手は腹の中へと沈み、勢いよく吹っ飛ばされる。
先程と同じ様に、宙に浮かぶ感覚を味わった後に、何度かバウンド。そのまま地面の土臭い匂いを味わいながら、寝転がる。
完全に遊ばれていた。
当たり前と言うべきか、当然と言うべきなのか。そもそもアルトは戦闘職では無い。だからこその『荷物運び』。
魔物などに襲い掛かられても、道具が無ければモノの数秒で命を散らす。
にも関わらず死んでいない、という事はそう言う事だ。
「だから、だったら、どうした」
だが、アルトは諦めたりなどしない。甘んじたりなどしない。弱音を吐いて、無様に地べたを這いつくばる事はしない。
数回、呼吸を楽にするために咳き込む。身体は痛い。一発一発が重く、途轍もなく強烈だ。ソレを何度も喰らっている。
それでもアルトは立ち上がる。
『蠢くモノ』は目を輝かせる。面白い玩具に出会えた、と言いたげな表情。
「来いよ、化け物。例え何度お前に殴られようとも、絶対に俺は屈しない」
屈しない。倒れない。諦めない。
仮にそうだとしても、攻撃できなければ何の意味も無い。だけど、だけど、たった一発でも良いから、殴りたい。
まずは最初の一発。
勝てないかもしれない。だけど、勝てるかもしれない。
無理だと思っても、嘘でもいいからそう信じ込み、アルトは立ち上がって一歩一歩歩みを刻んでいた。
無駄なあがきとは思わない。いや、やっぱり心のどこかで思っていた。
「んな事分かってんだよ。……だけど、ぜってぇ諦めたくない」
結局の所分からない。
何度殴られようと、痛めつけようと、立ち上がる。いや、正確に言えば、立ちあがることしか出来ないのだ。
幾ら近づこうとしても、何度近づこうとしても、結局最後は殴られてしまう。
やっぱり遊ばれる。
『蠢くモノ』にも、アルトを見て呆れた様子。
諦めが悪いとか、悪あがき、と言う領分は既に超えている。身体中を何度も何度も痛めつけられ、何度も何度も地面に這いつくばらせているのに、何故かアルトは何度でも立ち上がって『蠢くモノ』を倒そうとしていた。
瞳の奥に潜んでいるのは、狂喜、と言っても過言では無い執念。ゾワッ、と柱の中心に寒気が走った気がした。
ソレが恐怖だという事に気が付くのは、アルトをまた殴り飛ばした後。
自分がアレに恐怖している、という事が気に入らなかった。
例えアルトが何年経とうとしても、決して勝つことが出来ない存在。ソレこそが『蠢くモノ』だ。
逆立ちしたって、工夫を凝らしたって、裏を読んだって勝てっこない。ソレが事実。ソレが真実。ソレが現実。
小物にもならない雑魚に、魔法を使う何て『蠢くモノ』には我慢ならない。しかし、そろそろコレにも飽きた。
さて、どうするべきか。
触手を用いて周囲をまさぐると、何かにぶつかった。
目玉の一つを動かせば、ボロボロになった獣人の少女。
――ああ、そう言えば、コイツが居たか。
内心で、下卑た笑みを浮かべる。
「おい、何やってんだよ。止めろ……止めろ!」
最初から、見せしめに殺しておけば良かった。触手で足に絡みつき、ぶら下げて持ち上げる。後は、胸を貫けば、アルトの絶望を浮かべた表情が見れる。
『蠢くモノ』は心が躍った。
さて一体どんな反応をしてくれるか。楽しみだな。
そう思っていた。
不意に、雷鳴の様に、全身に駆け巡る鋭い痛み。
一体、どういう事なのだろうか。『蠢くモノ』は自身が見ている事実が、信じられ無かった。切り裂かれ、断面を晒す触手。
獣人の少女は居ない。
では、何処に行ったのか。視線を巡らせて、捜す。捜す。捜す。
見つけた。
『蠢くモノ』は素直に驚く。
少し離れた距離に抱えられた、獣人の少女。
抱えていたのは、何を隠そう、さっきまで自分が遊んでいたアルトだった。手に持っているのは、鈍く輝く水晶の剣。
「何か、カッコいい」
「『蠢くモノ』性格悪!」
「毎日投稿頑張ってるじゃねか、褒めて遣わす」
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