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解かれた布

(マズイ。マズイ、マズイ、マズイ)


 ラムテールは内心焦っていた。


 魔物とは比べ物にならない強さを誇る『蠢くモノ』。既に死体となってしまったが、ラムテールの『死霊使い』を駆使すれば、その強さを再現する事も可能だ。


 もっとも、本来の強さよりも数段落ちるが。


 例えそうだったとしても、並みの人間で有れば余裕で捻り潰せる。だが、『蠢くモノ』には一つだけ欠点があった。


 それは、死体となった今でも只の死体では無い、という事。


 生きていた時に行使していた能力は、死体になった今も尚健在と言う訳だ。その上、制御が聞かない。だからこそ、外套を身に着けていた。


 外套は『抑圧の衣』を用いて作られている。最上級の封印術式が施された、特注品だ。ソレがある限りは、暴走はしない。


 だが、今まさにその封印を解除しないといけない状況に陥っていた。


(どうすれば良い。俺が、アイツの妨害……いや、無理だ。それは出来ない)


 ラムテールとて、好きで高みの見物を決め込んでいた訳では無い。『蠢くモノ』を操るのに、力を全て使い果たしているのだ。


 ソレを悟られない為の、高みの見物。


 しかし、戦況は覆された。


 優勢だと思っていた筈なのに、ノエルが――ラムテールがゴミクズと呼ぶ少女が、出鱈目な力を駆使して、優勢を劣勢に変えた。


(クソッ、クソッ、クソッ)


 アイツさえいなければ、アイツさえいなければ。何度呟いたのかも分からない恨み事の果てに、ラムテールは決心した。


「『蠢くモノ』封印を、解除する」


 自身の魔力が、全て奪い取られる感覚を感じ、ラムテールの意識は無理矢理途切れた。



「封印を解除する」


『蠢くモノ』が身に纏っていた、外套に切れ目が入る。


 真っ二つに割れて、外套は地面に落ちる。


 隠されていた全身が、露わになった。


「……流石に、これはキッツいわね」


 クロエは口元を抑え、ノエルは苦々しくそう呟く。


 はみ出ていた触手の行き着く先に合ったのは、真っ黒で無骨な石柱。只の柱なのか、と思いきや切れ目が入り、そこから無数の目が浮かび上がる。


 口は無い。鼻は無い。耳は無い。


 おおよそ、生物らしい容姿をしておらず、全く別次元の生物。醜く、おぞましく、身の毛もよだつ稀代の怪物。


 ソレこそが、『蠢くモノ』と言う化け物なのだ。


 目の一つが明るく光る。


 触手を束ね、作られるのは無数の手。掌から浮かび上がるのは、メラメラと仰々しく燃え盛る無数の火の玉。


 クロエのファイアーボールよりも、数倍は大きい。


 投げ入れられる。


「避けて!」


 二人は咄嗟に避ける。


 茶髪の髪と、紫紺の髪を少し焦がした火球達は、見当違いの方向へと命中し、爆裂。反動で、術式は消え去り、肌を焦がす熱波が覆いかぶさる。



――勝てない。



 ノエルは悟ってしまう。


『蠢くモノ』に対して、殴りはとても有効だ。だが、それは相手が接近戦であればの話。『蠢くモノ』は魔法を使って来た。


 であれば話は違ってくる。


 幾ら距離を詰めようと画作しても、魔法を打ち出されれば手も足も出ない。近づいたとしても、距離と取られて魔法を打ち込まれるのが関の山だ。


 もしかすると、魔法も殴れる可能性もあるが、それは危険な賭け。


 流石に、踏み込む勇気は無い。


 おまけに、クロエとノエルは連戦に次ぐ連戦で疲労困憊。出来る事なら、家に帰りたい所である。

 

 よって、取るべき方法は、


「ノエル。さっきの火球で、術式が……」

「ええ、分かってる。逃げるわよ!」


 向かうべきは、樹海の中。


 木々に紛れ『蠢くモノ』をかく乱し、距離を離すほかない。


『隠密』を解いて、傷ついたアルトを回収。幸いにも、まだ息はある。足は既に疲労感を訴え、棒の様になってしまっているが、気にも留めずに走る。


 ザンッ。


 不意に、頭上を通過した何か。


 気が付けば、樹海の大半が、切り裂かれていた。恐らく、行使されたのは風の魔法。ドラゴンの腕を行使した時とは比べ物にすらならない。


「まさか、アイツ……こっちの狙いが読めてたのか」


 驚きから、クロエは目を白黒させた。


『蠢くモノ』を見ると、愉快にそうに目を細めている。


 火の魔法を展開させながら、一瞬でクロエとノエルの目の前に。恐ろしい身体能力は未だに健全。まるで、此方を嘲笑っているみたいに、狡猾で残忍。


「これは、負けたわ」


 笑うしか無かった。


「『蠢くモノ』が気持ち悪いと思った」

「ラムテール何時の間にか倒れてて草」

「毎日投稿頑張ってるじゃねか、褒めて遣わす」

「続きが気になった」

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