白磁の部屋にて2
「まあまあ、どうぞ座ってくれ。お菓子は気軽につまんでも良いが、味は保証しないから、そこら辺の所はよろしく頼むよ」
いつの間にか、少女と向かい合う様にして、置かれた椅子。
少し小さめで、シンプルなデザインだ。
「さて、それで君はどうしてここに来たんだ?」
「ソレは俺自身が知りたい事なんだけど……知らないか?」
いいや、知らない。と少女は肩をすくめる。
もしかしたら、この場所から出る方法を知っているかもしれない、と言う希望はあえなく潰えてしまった。
ガックシと肩を落とすアルト。
となると、この場所で少女と永遠に過ごさないといけないのだろうか。まあ、美少女だし、嫌でも無いわけでは無いが、出来れば抜け出したい。
「まあまあ、そうやって暗いなったって、何も起こらないぞ」
テーブルに置かれて菓子を口に摘み、美味しそうな顔をする。
その光景につられて、アルトも菓子に手を取って口にする。
「………………ッツ!」
口に広がるのは、未知の味。
甘くも無く、かと言って辛くも無く。苦い、と思えば酸っぱくなって、臭いと思いきや、しょっぱいさを感じる。
それぞれの悪い所が、奇跡的に噛み合った味。
簡単に言うとマズイ。
思わず吐き出してしまいそうになるが、人から頂いた手前、流石にソレは失礼だ。粟立つ全身を抑えながら、何とか飲み込む。
「ううぇ……マズイ」
口から漏れ出た感想は仕方が無い。
それ程に不味いのだから。
「クッ、クククククク。アッハッハッハッハッ!」
アルトの慌て様を見て、少女は大笑いする。
口を開けて、腹を抱えて、椅子が倒れるのでは無いかと言う程傾けながら。
「……何が可笑しいんだよ」
「いや、失礼。まさかそんなに面白い反応をする何て、全く予想できなくてな。いや、久しく笑いと言うのを忘れていたが、おかげで思い出せたよ。不味さに耐えた甲斐があったというモノだ」
やっぱり不味かったのかよ。
一度は自身の味覚がおかしいのでは無いか、と疑いを持ったアルト。しかし、少女の口から出たカミングアウトに、ジト目で睨む。
「許してくれ。ああ、もう、こんなに笑ったのは久しぶり過ぎて、まだお腹が痛い。ちょっ、ちょっと待ってくれ」
笑い過ぎて、過呼吸気味になっている。
「こっちはやられ損なんだけどな」
不満げに、アルトは口を尖らす。
申し訳ないと思ったのか、笑いが収まった少女はこんな事を口にする。
「ふむ。だったらそうだな。君の隠された能力でも教えてあげようか?」
「えっ⁉ 本当に!」
隠された力。何とも、良い響きである。
即座にアルトは食いつく。
「じゃあ、僭越ながら私が、君の隠された能力をお教えしよう」
もったいぶって、一拍置く。
アルトは真剣そうに耳を傾け、少女は中々口を開かない。
暫しの静寂。
しかし、満を持して明かす。
「君の隠された能力はズバリ、『共鳴者』だ」
「へ――。『共鳴者』かぁ……ん?」
一度は納得しかけたが、聞きなれない言葉だ。
思わず耳を傾ける。
「因みに、それって使い方も分かる?」
「ああ、勿論だとも。私にかかれば、すぐにでも分かる」
こめかみ当たりを両手の人差し指で抑え、目を瞑って少しの間唸る。
数秒後に目をカッ、と見開く。
「分かった。君の能力は、大前提として、強い『思い』が必要となる」
「『思い』?」
「そうだ『思い』だ。どんなものでも良い。例えば、誰かを守りたい、だとか助けたい、っていう『思い』。英雄になりたい、って言う強い『思い』。何なら、美味しいモノを沢山食べたい、と言う『思い』でも良いし、好きな女の子と仲良くなりたいって言う『思い』でも良い。とにかく『思い』が大切なんだ」
「なる……程……?」
丁寧に説明してくれているが、いまいちピンと来ない。
『思い』の力が大切になる、何て聞いたことも無い。魔法にしろ、アーツにしろ、『思い』の力と全く関連性が無いのだから。
「まあ、分からないのは仕方が無い。この力は個人的には珍しいからね。使っていく内にコツを掴むしかないさ」
「珍しい……のか?」
「恐らくは、なんだけど。しかし、様々な人を見てきたが『共鳴者』何て能力は見た事が無いし、ソレに似た能力も見た事が無い。間違いなく、新種だろう」
「新種かぁ、何か喜び辛いけど、教えてくれてありがとな」
「例には及ばないさ。と言う訳で、どうだい? お菓子でも一つ」
何食わぬ顔で、差し出すお菓子。
件の、余りの不味さに悶絶したお菓子だ。
今もまだ舌に居座っている、呪いとも取れる味は、脳裏に完全に刻み込まれている。間違っても、食べる事はしない。
「いらねぇよ! って言うか、どうして取り出した! 俺さっき不味いって言ったよな!」
「ハハハハ。いやいや、すまない。もう一度、さっきの反応が見たいと思ったのでね。で、どうだい? 食べてくれないか?」
「絶対に嫌だ」
「それは残念」
自身が途轍もない発言をしているにも関わらず、何食わぬ顔だ。ある意味、その胆力には恐れ入ったかもしれない。
「……ああ、そうだ実はもう一つ……」
何かを思い出し、アルトにソレを伝えようとした時、白磁の空間が歪んだ。不意に、吹き荒れる風。
白磁が取り除かれ、虚無。そこから現れたのは真っ黒な手。
手、と言ってもアルトや少女の様な、小ぢんまりと大きさでは無い。二人の全身を掴んで、捻り潰す事が可能な程に大きい。
「うわっ! 何だ、これは!」
余りの大きさに、そんな言葉を口に出す
。
「おやおや。まさか、こんなにもお迎えが早いとはな」
対する少女は、どうやら知っている様だ。靡いて、散らばる黒髪を抑えながら、俯瞰的に黒い手を眺めている。
「いや、悠長に眺めてる場合か! 速く逃げないと!」
「逃げても良いが、アレは何処までも追いかけて来るぞ」
余りにも冷静な意見。
「やってみないと分からないだろ。最初から諦めてたら何も始まらないし、と言う訳でさっさと逃げるぞ!」
「全く仕方が無いか。少し付き合ってあげよう」
「そう来なく……って、うわぁァァ!」
いざ逃げだそうとした時には、既に黒い手に捕まえられてしまっていた。がっちりホールドされており、抜け出せない。
「おやおやもう終わってしまうとは、少し口惜しいな」
気だるげな、黒目に映り込むのは捕まれたアルトの姿。
ソレを流暢に、面白そうに少女は眺める。
「普通ここは助ける場面だと思うんだけど!」
「安心しろ、別にそいつらは君に危害を加えない。只、元居た場所に戻るだけだ。この出会いも、ある意味奇跡に近いからね」
いや、そんな事を言っている場合か! アルトの口から文句が垂れてきそうだが、ムゴーとか、ウゴーと言ったうめき声しか聞こえない。
黒い手の指の一つが、アルトの口を塞いでいるのだ。
そうこうしている間にも、黒い手は虚無の中へと戻る。
アルトは必死にもがくが外れない。
少女は、そんな光景を口の端を吊り上げて、楽しそうに。しかし何処か、少し寂しそうな陰りを帯びながら。
「そうだ一応言っておくが、君の『共鳴者』はね、自分自身に関わらず、他者の『思い』にも関係しているんだ。これは大切だから、覚えておいてくれ!」
声を大きくして、アルトに伝える。
「じゃあ、俺は一応名前を名乗っておく。俺は、アルト! 忘れんなよ、名乗るべき名も無いさん! 俺は覚えておくから!」
自身の口を塞いでいた指にかみつき、抑えを解く。
少女の声量に負けじと、声高らかにそう叫ぶ。
「……ッツ! ああ、そうか。だったら、精々覚えさせてもらうとしよう。後、言っておくが、私の名前は、名乗るべき名も無いさんでは無いぞ!」
気だるげな眼は、衝撃を受けて大きく見開く。
気が付けば、大きな声でそう叫んでいた。何故か、すしだけ心臓は大きく鼓動していた。何故か、少しだけ身体は興奮の熱を帯びていた。
虚無の中に消えた、手とアルト。
居なくなり、白磁の色に戻っても、暫くはその場所を見つめていた。
「お菓子の味がどれだけ不味いのか気になりました」
「新キャラは可愛いと思いました」
「と言うか、新キャラは一体何者何だ?」
「毎日投稿頑張ってるじゃねか、褒めて遣わす」
「続きが気になった」
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