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龍の少女の後悔

「ん? クロエじゃねえか。お前、どうしてこんな所にいるんだ」


 聞きなれた声。

 恐怖に(おど)かされる様にして、身体をビクッ、と震わせる。それでも、もしかしたら、と言う淡い希望を宛にして、沈んでいた顔を上げる。


 そして、絶望した。

 強面な顔に、無精ひげを生やした中年男性。クロエが幸せになる理由を、キッカケを与えてくれた、大切なおじさん。


 が、手に持っていたのは、血が滴り落ちる肉片。

 違う、そんな訳無い。おじさんが、そんな事をする訳無い。眼球が映し出した余りにも残酷な光景を、拒絶した。


 震える声。掠れる声。けれど、聞いた。


「お、おじさん。その、肉って」

「もう気付いてるんだろ? お前の、友達だった奴の肉だ」


 豪快に、肉の塊を齧る。飛び散った血しぶきが、クロエの顔にかかる。

 目は大きく見開き、信じられ無い、とでも言いたげな表情をクロエは浮かべる。

 だが、現実だ。


「どうして。ねえ、どうしてなの!  どうして……どうして、皆を食べたの! おじさん!」


 それでも受け入れられなかった。受け入れるんだ。受け入れるしかない。そんな事を言われたって、納得できない。

 今だって、これは只の夢なんだと言う考えを、幻なんだと言う考えを捨てきれずにいる。だって、だって、こんなのあんまりだ。


「簡単な話だ。俺達は人を食うんだ」


 最初に見せてくれた、心が安心する笑顔じゃない。

 希望を儚く(はかな)摘み取り、恐怖心を嫌でも植え付ける、背筋が凍る笑み。


「あ……え……う。でも、だって、じゃあ私達を助けてくれたのは」

「食料は一つにまとめていた方が楽だろ?」


「じゃあ、私達に美味しい料理を食べさせてくれたのは」

「飢えて死んだら困るだろ? 後は、そうだな。肉付きが良い方が、後々食べる時に楽しみになってくる」


「勉強を教えてくれたのは!」

「実は、脳みそって言うのは結構旨いんだよ。だから、もっと上手くさせる為の、ある意味実験。まあ、余り意味は無かったがな」


「私達と一緒に遊んでくれたのは! 夜、寝る時に本を読んでくれたのは! 変な事を言ったり、おかしなジョークを言って皆を笑わせてくれたのは!」

「流石に、食料にストレスを与えちゃ、食べる時不味くなるだろ?」


 クロエは絶句した。

 ここまで現実を突きつけられてしまえば、もう受け入れるしかない。おじさん達は人を食べていて、自分たちはその食料なんだと。


 もう一度、目の前に広がる光景を眺める。

 建物に囲まれた広場。

 そこに並べられた友達の死体。頭と身体が切り分けられ、それを美味しそうに食べる人達。笑い声を挙げながら、肉に(かじ)り付いている。


 奇声を発しながら、血を(すす)っている。

 楽しくお喋りをしながら、眼球や脳みそを口の中で転がしている。

 恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべて、内臓を貪っている。


 ……化け物だ。ここには化け物しかいなかった。

 優しかった。楽しかった。嬉しかった。面白かった。

 そう言った感情の何もかもが、全て嘘に過ぎなかったのだ。


「さて、それじゃあ、そろそろ俺もお前を頂こうとしようかな? 確か、手を出すなとか言われてたけど、まあバレちゃったんだし殺しておくか」

「おじさん。最後に、ひとつ聞いていい」

「ん? 何だ」


「私の目が変じゃないって言ったの、アレ本当にそう思ったの?」

「プッ、そんなの嘘に決まってるだろ。馬鹿じゃねえのか、お前? あんな、気持ち悪いモノ、本気でそう言うと思ってんのか?」

「そっか」


 もう、何も感じない。

 友人を失った。大切だった人達が、その友人を奪った。その大切な人達が、今まさに友人達を嬉々として食している。


 そして、自分の信じていた何もかもが、全て嘘だった。楽しかった日々は、只の儚い夢だった。

 何を信じれば良いのか分からない。どうすれば良いのか分からない。



 だから、もう、全部無かった事にしてしまおう。



「来てよ、エルグランド」


 一言。

 パキッ、とガラスが砕ける音と共に虚空に亀裂が入った。

 一筋の亀裂は、網目状に広がっていき、虚空から生み出された虚無。そこから轟いた唸り声は、狂喜に満ちた宴を、満ち足りていた猟奇的な雰囲気も、全てを凍り付かせる。


 現れるのは、青白い龍。

 圧倒的な巨体に、身に纏うのは痛々しい鱗。

 腕や口には、命を刈り取る為の爪と牙が備わっている。鋭い赤色の眼光は、主の憤怒を体現させ様にしてギラギラと怪しく光り輝いている。


「なっ、ドラゴン⁉」


 驚き、戸惑う人々。だが、そんな猶予を与えはしない。


「全員、殺せ」


 冷たく、乾いた声で命令。

 主に従い、ドラゴンは膨大なエネルギーを内包させた黒い球を生み出し、吐き出した。湧き上がる、悲鳴や絶叫。


 大切なモノは、失った。

 信じていたモノは、裏切られた。

 大切だと思っていたのは、どうやら自分だけだった。


「ハハハハ。アハハハハ。アハハハハハ。皆死んじゃえ、皆死んじゃえば良いんだ」


 何もかもが終わった笑みを浮かべて、クロエは笑った。只々笑って。笑いに笑って、そして、唐突に意識が途切れた。




 写し出された映像を見ている感覚だった。


「これが……私の、記憶」


 ようやく思い出した。

 いや、正確に言うのであれば、思い出してしまった。と言うべきか。どうして、自身が忘れてしまっていたのか。

 その意味を知ってしまったのだから。


 多分、


「私は、この記憶を忘れたかったんだ」


 思い出してしまえば、今まで分からなかった事も、何となく察しがついた。朧気だった記憶も、段々ハッキリしてくる。


「……全部、お前のせいだ」


 声が聞こえて来た。聞き覚えのある声。

 ハッ、として振り向くと、そこには無精ひげを生やした強面の、おじさんが居た。


「お、じさん? でも、どうして」

「俺が死んだのは、全部お前のせいだ」


 その言葉は、ハンマーで頭を殴られるみたいに、クロエに衝撃を与えた。ああ、やっぱり自分は人を殺してしまったんだ、と。


「それは……そうだ、私が殺した」


 認めるしか無かった。

 今まで殺した人達が現れ、声高らかにクロエを糾弾していく。まるで、そうすることが当然の様に、皆口をそろえてこう言った。


――お前が悪い、と


「私が死んだのは、全部お前のせいだ」

「僕が死んだのは、全部お前のせいだ」

「俺が死んだのは、全部お前のせいだ」


「僕達が殺されたのは、全部お前のせいだ」

「私達が殺されたのは、全部お前のせいだ」


 友達が、大切だった人達が。


「私が、俺が、こんな所に迷い込んだのも、苦しめられたのも、全部お前のせいだ」


 そして、ノエルが、アルトが。


「生きれなかったのも」「幸せになれなかったのも」「笑い会えなかったのも」「殺されてしまったのも」「苦しめられたのも」「痛い思いをしたのも」「絶望したのも」「裏切られたのも」「こんな結果になってしまったのも」



「全部全部、お前のせいだ」



 殴られる様な感覚。

 言い返す事など、クロエには出来なかった。全部、クロエが悪かったのだから。友達だって、自分が早く気が付いていれば、殺される事は無かった。


 おじさん達だって、殺す以外の方法があったのかもしれない。

 ノエルやアルト達だって、この力に気付く事が出来なかったから。上手くこの力を扱う事が出来なかったから、この場所に迷い込んでしまった。

 挙句の果てに、沢山傷つけてしまった。


 もっと、上手くして置けば、もっとしっかりしておけば、裂けることが出来たのに。

 だから、その通りだ。


「ああ、そうだ。全部、私が悪……」


 周囲の言葉を受け入れて。そして認めて、その言葉を口にしようとしたその瞬間、



「いいや、俺はそう思わない!」



 クロエの声を遮って、突如現れたアルト。すぐ近くに居た、アルトの偽物にドロップキックを喰らわせる。

 ついでに、傍に居るノエルにも、今までの恨みとばかりに、軽快なステップを踏んでのドロップキック。


 二人は、霞みへと変わり、すぐさま霧散する。


「………………アルト、さん?」


 現れたのは、予想外の人物。

 驚きを隠せずにいるクロエ。

 そんなクロエに向かって、こう言った。


「良いか、クロエ。もう一度言うぞ。俺は、お前が全部悪い何て、これっぽっちも、全然全く思っちゃいない。だから、安心しろ」


 先程のクロエの言葉に対しての、真っ向からの否定だった。


「本音を言うと、面白いと思った」

「流石は、主人公、アンタなら来てくれると思ったよ!」

「畜生、クロエたんを慰めるポジションを俺達に変われ!」

「毎日投稿頑張ってるじゃねか、褒めて遣わす」

「さあさあ、次はどうなるのでしょうか」

 と思った方は、ポイントよろしくお願いします。それだけでも、励みになります。

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