知らなかった事
「さて、それじゃあ、冒険者ギルドから依頼された黒龍討伐の話だ」
クラン『赤竜の鱗』の会議室。広い室内の中心には、長方形の長いテーブルが置かれている。そこに集うは、『赤竜の鱗』の錚々(そうそう)たるメンバー。
レオの話の内容に、全員神妙な面持ちだ。
『赤竜の鱗』は、アーデルハイド王国の中で、指折りの実力を誇るクランである。設立されてから、わずか数年でその地位まで上り詰めたという実力と、依頼されたクエストを一度として、失敗させた事は無いという信頼。
現在最も注目され、期待されている、新進気鋭のクランだ。
この会議に集まる人数は、本来であれば33人だったが、この場には32人しかいない。
「……あれ? ねえ、レオ。アルトはどうしたの?」
その事に気が付いたノエル――可愛らしい軽装と、二つに結った茶髪の髪。それに、頭に付いているネコ科の耳と、尻尾が特徴的な獣人――は、周りの雰囲気など気にも留めず、レオの話を遮って質問する。
空気を読まないと言うか、他人の顔色を窺わず、言いたい事をハッキリ言ってしまうのが彼女の美点である。
「ん? ああ、そうだったな! お前達には話しておかなければいけないな!」
その質問を待っていましたと、言わんばかりに、レオは異様にテンションが上がる。そんな彼を、訝し気に見るノエル。
当然、レオは気にも留めない。
「アイツは『赤竜の鱗』から追放した」
会議室には、歓声の声が挙がる。それを、心地よさそうに聞くレオ。
「まあ、当然だろ? だって、アイツは『荷物持ち』。俺達、戦闘職の様に戦う訳でも無く、後方でのうのうとしているだけ。そんなの足手まといだろ? 無駄な金を払う余裕なんてない。だから、俺はあのカスを追放したんだ」
大半が、頷き、ソレに賛同していた。『荷物運び』は厄介者、と言う考え方はどうやら『赤竜の鱗』の中でも浸透していた様だ。
だが、ソレに賛同しないモノが一人、レオに対して不満をぶつける。
「ちょっと待って。それって一体どう言う事よ!」
無意識に、耳と尻尾は逆立つ。
「るせえな、ノエル。あんな『荷物運び』一人居なくなった位で、いちいち騒ぐな」
「アルトは、『赤竜の鱗』に貢献していた筈でしょ! あんなに頑張っていたし、努力だってしていたし、アンタだってそれは知ってる筈よ!」
ノエルに訴えに、レオは面倒くさそうに頭を掻くだけ。
まともに取り合ってはくれない。
「アイツは『荷物運び』だ。それ以上に理由が居るか? 確かに、今までアイツの世話になってきたが、もうメンバーも十分そろった。アイツは不要なんだ。分かるか?」
「なにそれ。まるで、アルトをモノみたいに! こんなの酷すぎるわ! ねえ、皆もそう思うでしょ!」
「何言ってんだ、アイツ」「そんな訳無いだろ」「アイツが頑張ってた? 目が腐ってるんじゃねえのか」「私は、むしろアイツが居なくなって、せいせいしたんだけど」「『荷物運び』何て加入させてたのは、そもそもの間違いだったんだよ」
ノエルの、必死の訴えに対する返答は、どれもこれもが否定的な意見。余りの冷たさに、ノエルは凍り付いてしまう。
『荷物運び』は厳密に言うと、『剣士』『魔導師』『弓術師』と言った職業ではない。成人し、戦闘職に適性が無かったものが、それでも夢を諦めきれずについた延命措置の様なモノ。ソレこそが、『荷物運び』だ。
後方で、戦う事も無く、雑務に明け暮れているのが嫌われる理由だ。
が、戦闘職でも無い奴がずうずうしく冒険者をやっている、と言うのも冒険者から嫌われる理由の一つになっている。
だからこそ、この反応はある意味普通だったのかもしれない。ノエルの方がおかしいと言われても、強く反論することは出来ないのかもしれない。
しかし、この反応は余りにも酷過ぎた。
「ノエル。さっき言った事は忘れてやる。だから、『荷物運び』のカスの事は忘れろ。だが、どーしても、って言うんだったら……クランを辞めろ」
クランを辞める。それは、冒険者にとっての稼ぎ場所を失うと言う事だ。何かを言い掛けるが、ノエルは口を噤んでしまう。
それを、肯定と受け取ったのか、レオはニヤリと笑う。
「さて、それじゃあさっきの話に戻ろうぜ」
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