クランのその後
所用で、今回は少し不出来になってしまっています。後ほど修正させて頂きますが、それでも良いよと言う方は、気兼ねなくご覧になって下さい。
レモナスの霊峰。
数多ある山脈の中でも、屈指の高さを誇っている。頂上に近づけば近づく程、雲に手が届きそうになっていき、赤茶色の大地は雪に覆われていく。
吐く息も白くなっていき、身体も次第に寒さを訴えて来る筈だ。
それもその筈、高度が高く鳴れば気圧は低くなる。気圧が低くなるという事は、気温が低くなっていく、という事だ。
その事を知っていれば、防寒具を準備するのは当然の事だった。
勿論、寒さに対して有効なアイテムを持っていくだとか、装備品が凍らない様に付与を施すのも、普通である。
下調べを入念に行い、クエストを成功させる為に尽力する。
冒険者にとっては当然のことだ。
もしも怠る冒険者が居れば、それは面汚しか、恥さらし。初心者位だろう。もっとも、数年冒険者をしていれば自然と身に付く。
だからこそ、ベテラン冒険者にしてみれば、あり得ない、事なのだ。
「おい、どういう事だ! 聞いてないぞ! ここがこんなに寒いだなんて!」
準備を怠った馬鹿の一人――レオが叫ぶ。片手剣を振るい、襲い掛かって来た魔物を一刀両断していく。
流石は腐っても『勇者』。その実力は本物だ。
服装が服装で有ればもう少し格好がついたかもしれない。豪華絢爛な鎧には沢山の雪が降り積もり、鼻からは鼻水を垂らしている。
身体は寒さに耐えきれないせいなのか、小刻みに震えている。
しかし、レオの職業は『勇者』。
恩恵はトンデモナイものだ。凍え死ぬ、何て間抜けな死に方はしない。凍傷にもならない。それでも寒さは堪えるらしく、暖をとろうと自分自身を抱きしめている。
「事前にミーティングで言った筈ですよ。レモナスの霊峰の頂上はとても寒いので、それなりの備えをしとくようにと。まさか、聞いてなかったんですか?」
対するレオの幼馴染(アルトとノエルの幼馴染でもある)サーシャは動きを阻害せず、尚且つお洒落にも気を遣った防寒具を身に着けている。
レオを見る目には呆れが含まれている。
思わず、溜息が出てしまい、口から出てきた息は白色へと変わる。
「はぁ⁉ そんな事聞いてないぞ!」
出鱈目を言ってるんじゃない。そう言いたげな顔で睨みつける。垂れた鼻水は凍って氷柱みたいになっており、思わず笑ってしまいそうになる。
「言いましたよ。話を聞いていなかったんじゃ無いですか。っと、ファイアーランス」
手に持った小さな杖を振るい、中級魔法を唱える。
サーシャの職業は魔法を扱う『魔術師』。
五本の炎の形容が変わり、槍の様な形に変わる。一本一本がサーシャの指示によって飛び出してきて、襲い掛かって来た魔物を火だるまにする。
「ふざけんな! お前、仮にも俺の幼馴染だろうが! そこはどうにかなんとかするのがお前の役割だろうが!」
「いや、無理ですよ」
黒龍討伐が決まった時のミーティング時。
良いですか、レモナスの霊峰の天辺近くはとても寒いです。確かに、今の季節は防寒具何て必要ではないかもしれませんが、絶対に防寒具や寒さに有効やアイテムなどは絶対に忘れずに持って下さいよ。
と、釘を刺した事のにも関わらずこれだ。
『赤竜の鱗』のメンバーの大半が、寒さ対策をしていなかった。
恐らく、と言うか確実に話半分……いや、もしかするとそれ以下で、サーシャの話を聞いていたのだろう。
呆れても言葉も出ない。言葉の代わりに溜息が出てしまう。
今の今まで『赤竜の鱗』がやって来れたのはレオの手腕のお陰、な訳が無い。そんな彼について来た幼馴染のアルト、ノエル、サーシャのお陰だ。
後は武力と言う名の実力しかない、有象無象の集団。
司令塔と言うか、参謀が極端に少ないのだ。この『赤竜の鱗』は。
レオにしてもそうだ。クランリーダーに課せられる雑務やら公務やら、そう言った面倒くさい事は全て幼馴染に押し付けてきた。
挙句の果てに、独断専行でアルトをクラン追放した。
そのせいでノエルもクランを脱退する羽目になって、今の今まで三人で頑張って来た仕事は全てサーシャにしわ寄せがやって来た。
(あ――、もう私も『赤竜の鱗』を抜けてしまいましょうかね。何か面倒くさいですし、全然私の思いも実らないと言うか、最悪良い様に利用されるだけかもしれませんし)
間違いなく『赤竜の鱗』は瓦解する。
それも、近いうちに。
アルトは『荷物運び』として、周りから無能だと無価値だと見下され、唾棄すべき存在として認識されていたがとんでもない。
『荷物運び』の主な業務内容は、パーティーメンバーの荷物を運んだり、魔物を倒した時の素材回収。
しかしアルトは違った。クエストを成功に収める為に、様々なアイテムを事前に準備したり、メンバーのケアも行ったりしていた。
雑務だってこなしていた。
一体彼がどれだけ『赤竜の鱗』に貢献していた事やら。
また、ノエルの存在も大きかった。
クランきってのムードメーカー。
雲行きが怪しくなって来た時や、険悪な雰囲気に陥ってしまいそうになった時は、いつも彼女に助けられてきた。
自然に明るく、前向きな気持ちにさせてくれるのは、ある種の才能だ。
要は、親愛なる幼馴染達がクランを纏めてくれていたのだ。誰が欠けても『赤竜の鱗』は存続する事が出来なくなってしまう。
二人も抜けてしまえば猶更だ。
「ちょっ、お前、一体何処に魔法を打ってるんだ!」
「黙れ! 魔法を打っているだけでも有難いと思え!」
「馬鹿、お前ら、喧嘩している場合じゃ……」
「「「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」」」
クランでクエストを行う時に最も重要なのは、連携だ。
幾ら途轍もなく強力な力を持っていようとも、互いが互いの足を引っ張ってしまえば、その力を振るう事は難しい。
尚且つ、場所はレモナスの霊峰。
地面は雪原に覆われ、冷気を発している。時折吹く風もそうだ。風邪と一緒に運んでくるのは冷涼すぎる風。
対策をしてなかったとしたら、寒すぎてどうにもならない。
襲い掛かって来る魔物よりも、絶え間なく邪魔をしてくる「寒さ」に意識が向いてしまうだろう。まともに連携など出来る訳もない。
ノエルがこの場に居れば、巧みな話術や、周囲を暖かな雰囲気にさせるある種の才能で何とか出来たかもしれない。
しかし、ここにノエルは居ない。
故に、クエストは難航していた。
「チッ、この『荷物運び』風情が! どうして、寒さに有効なアイテムを持って無いんだよ!
「なっ、そんな無茶言わないでくださいよ!」
メンバーの一人が、乱暴に『荷物運び』を扱う。
結局アルトは見つからず、その代わりに、パーティー募集をしていた『荷物運び』達を雇った『赤竜の鱗』。
しかし、クズで間抜けなアルトよりも手際が悪い。と言うのが、メンバー達の感想だ。当然そんな訳が無い。
本来の『荷物運び』の作業量であれば、十分。むしろ、働き者と言っても相違は無い。多くを求めすぎているのだ。
おまけに、ここは霊峰の山脈付近。
絶え間なく、寒冷な風は全身を撫でまわし、身体中の暖と言う暖を奪い取っていく。ソレに対する苛立ちも相まってか、当たりが強い。
とは言ったモノの、普段のアルトに接し方に比べれば幾分優しい。
それが『赤竜の鱗』の認識だった。
しかし『荷物運び』達はそうでは無い。自分たちはすべき事をやっているのだ。やっているのにも関わらず、あんな横暴。
腸が煮えくり返る気分だった。
「おい、さっさと行くぞ」
「はい、分かりました」
恭順な態度を取ってはいたが、瞳の奥では憤怒が灯されているのを『赤竜の鱗』のメンバーはサーシャを覗いて誰一人として気が付かなかったのだ。
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