クラン追放
連載物初投稿です。よろしくお願いします。
「おい、アルト。テメェは、今日を持って俺達『赤竜の鱗』から追放だ」
豪奢な鎧を身に纏い、クラン長の執務室にふんぞり返っていた美丈夫。名前をレオと言う青年は、赤い前髪をかき上げながら、吐き捨てる様にそう言った。
「は? え? ちょっと待ってくれ。いきなり呼び出して、突然何なんだ? 何かの、悪い冗談だろ? 全く、止めてくれよレオ 」
黒目で、黒髪の少年――アルトは苦笑する。
「冗談? 何言ってんだ、お前。言っておくが、これはお願いじゃない。クラン『赤竜の鱗』のリーダーの命令だ。つまり、リーダー命令。言っている意味が分かるか? お前はもう不要なんだよ」
「何だよ、それ。全く、意味が分からねえよ‼」
自身がクランに何かしらの害を及ぼしていて、それで追放。だったら話は別だった。だが、突然、お前は不要。だから出ていけ。
何て言われても、納得など出来る訳が無い。
それゆえの抗議だ。
「お前、分かって無いのか? 自分が、クランのお荷物になっている事。只の『荷物運び』を『赤竜の鱗』に所属させてやったんだ。もう良いだろ? そろそろ夢は諦めて、現実を見る時だ。違うか?」
痛い所を突かれ、アルトは何も言い返せない。
『剣術士』『槍術士』『弓術士』と言った、数多の戦闘職がある中で、アルトにはそれらの適性が無かった。
それでも、冒険者になりたい、と言う思いを捨てきれず、彼は「荷物運び」になった。
やる事と言えば、魔物討伐に必要な道具を運んだり、魔物討伐時の素材の回収。クランメンバーのサポートをしたりする事だ。
冒険者内では、後方でのうのうとしている存在、として白い目で見られがちの不人気な役割、もとい職業である。
「第一なんだ? 皆が魔物と闘っている中、お前は何をしていた? 素材の回収やら、何やらって楽ばかりしてるじゃねえか。不愉快なんだよ。お前みたいな足手まといが、俺達のクランに居る事自体が!」
余りの物言いに、アルトは歯噛みする。
確かに、レオの言っている事は的を射ている。
だが、『荷物運び』には『荷物運び』の仕事がある。戦闘職の仕事も大変なのかもしれないが、『荷物運び』の仕事だって決して楽では無い。
当然、アルトは、自分を迎い入れてくれた『赤竜の鱗』に恩義を感じている。だからこそ、『荷物運び』の仕事を全うし、それ以上の働きもして来た筈だ。
全ては、皆の力になりたい、と言う思いの為に。
レオはその事に気が付いていない、と言うのだろうか。
別に、誰かに褒められてやっていた訳では無い。けれど、気付かれないと言うのもそれはまた、少し悲しい。
口を開いて、自身の思いを吐き出そうとした時、
「一体何なんだよその……」
「ああ、そうだ。言っておくが、これは『赤竜の鱗』メンバー全員の意思だ。別に、俺だけがこんな事を言っている訳じゃない。分かるだろ? お前は、他の奴からも足手まといだと、要らない奴だって、思われてんだよ」
胸が抉られた。
「…………え?」
侮蔑と嘲笑をタップリ込めた、レオのその言い様に、アルトの何かはプツンッ、と音を立てて千切れてしまった。
今まで繋ぎ止めていた何かが、切れてしまったのだ。
――やっぱり、見捨てられてしまっていたのか。
それは、信じたくなかった事実。目を逸らしたかった事実。考えない様にしていた事実。だが、レオによって、その事実は突き付けられてしまった。
「もうお前に伝える事も無いし。おーい、コイツ連れて行け‼」
レオがそう叫ぶと、執務室に数人の冒険者たちがやって来る。抵抗などろくにしていない、アルトを羽交い絞めにする。
彼らは全員『赤竜の鱗』のメンバーだ。
全員が全員、レオに勝る下卑た笑いを浮かべている。当然、そんな光景を眺めている、レオもそうだ。
「ああ、そうだ。今までの迷惑料として、お前の装備とか色々貰っていくわ。当然だろ? だって、お前足手まといだったんだし」
レオの声は、アルトにはもう届いていない。虚ろな目、虚ろな表情。
そのまま、アルトは外へと連れて行かれる。
「……ほらよ‼」
アルトは、雑に投げ出される。
「ははっ、全く『荷物運び』如きが、俺達のクランに居ること自体、我慢できなかったんだよ」
「マジで、ホント。哀れだよな」
そう言うと、男達は大笑いをしてクランの中へと戻る。残されたのは、装備品や所持品を全て奪われたアルトのみ。
時間も、もう夜になってしまっている。空に登っている月も、まるでアルトを嘲笑するかのように、青白く輝いている。
「……ちくしょう」
漏れ出た言葉。
周りを行き交う人の目など、気にしない。
「ちくしょう。ちくしょう。ちくしょちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょうちくしょう、ちくしょう‼」
それは、溢れ出る悔しさだった。
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