第8章:護衛任務
翌日の新聞の見出しには『黒カラス強盗団逮捕!』と、大きく書かれていた。
ティルたちが去った後、警察が廃ビルに訪れて、めでたく黒カラス強盗団はお縄についたのだが、現場からは盗まれた金品などは見つからなかったという。まぁ、あんな爆発が飛び交う中で無事にいれられると思わないが。
あの後、バッジの事でサダの所に訪れてみると、どうやらバッジのストーカー機能はなんらかの衝撃で壊れてしまったらしく、シークとレオルドの戦いは映像に残ってないという。どうやらティルが蹴り飛ばされた時にバッジが故障したらしい。
まぁ、そのおかげでサダにややこしいところを見られなくてよかったわけだが、なくなったんならと、サダから新しいバッジを渡された。その時は「いらない」とはっきり言って、サダに投げつけてやった。
しかしこの数日間はとても不思議な出来事だった。魔法の世界から来た行き倒れ少女に出会ったり、紳士的な爆発魔と戦ったりと、魔法という世界に誘われた。
赤い閃弾やら治療術などを見せ付けられては魔法という存在を認めざる終えない。ただそれだけ。確かに魔法という存在を認めたが、これ以上彼女たちと関ることはないだろう。これからはいつもの世界で生きていくのだ。魔法など存在しない世界で。
『パラディンのシーク・アルカム、ミツル・カミヤ、ジェルド・ローザス、ラビー・リリッツ、以下の4名は至急校長室まで来てください。繰り返します―――』
校内アナウンスが聞こえた。なんだと思って校長室のドアを叩くと「どうぞ〜」と、校長の腑抜けた声がした。
「失礼します」
そう言って入ってみると、校長室にはすでに他の3人が居て、机に肘をついて居座る校長の前で整列していた。シークもその列に加わる。
「これで全員揃ったわね。それじゃあ、これより貴方たち4名に任務を言い渡す。任務の内容は依頼人の護衛」
「護衛?どっかのお偉いさんかなんかか?」
ラビーが聞くと、校長は手を横に振った。
「いや、普通の一般人よ」
「一般人?なんでそないな任務にパラディンが4人も必要なん?」
確かにその程度の任務にパラディンが4人も参加する程のものではない。ましてや一般人の護衛ともなれば、パラディンなど不必要である。
「ん〜金額が金額なだけにねぇ」
校長は意味深なことを口にする。
「話を戻すけど、目的地はフルブールの首都アルディリア。手段は問わないわ。アルディリアに依頼人を無事に送り届けるのが今回の任務よ。この任務の班長はシークに任命するわ」
「わかりました」
シークはそう応えたものの、この任務の内容は理解しがたいものであった。アルディリアに行くのならリオルから飛空船に乗れば、二日程度でアルディリアに到着する。護衛なんて必要なものではない。
「アルディリアまでの護衛任務にパラディンが4人。さらに、依頼人はただの一般人とは謎だらけですね」
ミツルが首を傾げる。
「行きと帰りを合わせて4日間も飛空船で過ごさなきゃならねえのか。護衛任務つっても、ただアルディリアに行くだけでなにに襲われるっていうんだよ」
文句を言うジェルドをラビーはひと睨みした。
「文句ばかり言うなや。あんたと一緒に任務しないといけないあたしの方が最悪なんやから」
「オメェは先輩を敬うということを覚えろよ!」
ジェルドは頭から湯気が出るように顔を赤くした。
「せんぱーい?そんな人この部屋のどこにおんの〜?」
ラビーはとぼけ顔で辺りをキョロキョロと見回す。それを見たジェルドはギギギ・・・と、奇妙な音を立て、顔をさらに真っ赤にした。
「ラビー。それは僕らにも失礼だよ」
ミツルがニッコリと笑いながら指摘する。
「冗談や冗談。委員長のことじゃなくて、この熱血体育会系サルのことを言ってるんや。このバカザルのことや」
ラビーはジェルドを指差しながらケラケラと笑った。これにはジェルドの怒りも最高潮に達し、今にも血管が破れてしまいそうな勢いで地団駄踏んだ。
「こんのぉ・・・!言わせておけば!」
「うるさい。少しは黙っとけ」
怒りに悶えるジェルドをシークが一喝する。
「そうだよ。校長の前なんだから」
「せや。うるさい男は嫌われるで」
「これ以上騒ぐと落第させるわよ」
次々に飛び交う非難の声にジェルドは「そんなぁ・・・」と、意気消沈気味に肩をがっくりと落とした。
「まぁ詳しいことは貴方たちの方から依頼人に聞いといて。依頼人はそこの待合室にいるから」
校長は部屋の隅にあるドアを指差した。
「それじゃあ、依頼人はまかせたわよ」
「はっ」
ジェルドを除いた3人は動きをそろえて校長に敬礼した。当のジェルドは意気消沈と視線を床に落としたまま、手だけ敬礼のポーズをとるだけというなんとも残念な姿であった。
シークたちは早速依頼人に会おうと、依頼人のいる待合室のドアを叩いた。
「失礼します」
そう言いドアを開けると、シークは目を見張った。
「シーク!またお会いできましたね!私とてもうれしいです!」
「おや、これは奇遇ですね」
「・・・・・・」
そこに居座るのは、ついこの間黒カラス強盗団に人質にされたところを助けてやったティルとそのお供のレオルドとシャーロン。
「な、なんであんたたちが・・・」
思ってもしなかった登場人物にシークは一歩退いた。
「なんやシーク。このコスプレ少女と知り合いなんか?」
ラビーがティルを指差し、そう言った。
ティルがこの場にいるということは、ティルが今回の護衛任務の依頼人となる。またこの魔法集団と関らなければならないと思うと、めんどくさいことになったなと、シークは頭を抱えながらため息をついた。当のティルはコスプレとはどんなものかと頭を傾げていた。