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第7章:紅蓮の魔術師

 シークが機械銃を構え廃ビルに突入すると黒カラス強盗団と思われる集団が出迎えてくれた。人数は・・・10人。機械銃も持ってるようだ。奥には縛られた状態のティル。目を大きくしてシークを見つめている。シークの登場にそうとう驚いているらしい。


「あんだぁおまえ?俺らになんかようか?」


「あんたらを捕まえにきた」


 そう言うと、一味は一斉に笑い出した。


「あんたバカかぁ?一人でなにするってんだよ?こっちは10人だぜ?お前なんか一瞬にしてハチの巣にしてやんよ!」


「んーんーんー!!!」


(逃げて!!!)


 ティルは必死に身を乗り出し声を出そうとするが、ガムテープで塞がれてるため声が出ない。


「うるさいよお譲ちゃん!」


 ティルに襲い掛かろうとした男がティルをおもいっきり蹴り飛ばした。吹っ飛ばされたティルはビルの支柱に体を打ち付けられ、その場で動かなくなってしまった。


「ありゃりゃ。気絶しちゃったか」


 そう言い、男は嘲笑った。


「んじゃ今度はあんたの番か。大丈夫じっくり遊んでやるよ」


 男は機械銃をシークに向ける。敵は10人。普通なら勝ち目すらない喧嘩だが、パラディンのシークなら話は別である。この程度の修羅場なら何度も乗り越えてきた。シークはこの10対1という負け試合にも勝つ自身があった。


 機械銃を握る手に力をいれる。


 刹那、黒カラス強盗団の一味を上から雨のように降り注ぐ赤い閃弾が襲う。赤い閃弾は小規模な爆発を起こし、一味を一掃した。爆発の余韻を示す黒煙と灼熱の火炎が廃ビルの中に吹き荒れる。爆発に巻き込まれた一味は痛みに苦痛の悲鳴を上げながら倒れている。 


 違う。これは俺の仕業ではない。シークは咄嗟に上を見た。


 すると、二階の割れている窓の前に一人。窓から差し込む光を遮り、燃え続ける火炎に照らされた白人の男性が見えた。


 ティル同様、現代に似つかわしくない服装をしている。軍服らしき服の上には漆黒のマントを羽織り、ふちなし眼鏡をかけている。


 腰にはサーベルのような刀剣を差し、左右両方の手の甲には魔方陣?とでも言えばいいような丸い紋様が刻まれていて、左右10本の指全てに赤い宝石の指輪がはめられている。


 そして、腰までありそうな長い銀髪。そう。まるでティルが探してるという銀髪の魔術師とでも言うような風貌をした男だった。


 男は手すりから身を乗り出し飛び降りた。銀色の長髪をなびかせ、男は静かに一階に降り立つと、先ほどまで轟々と燃え続ける炎が同じ極の磁石同士が反発するかのように男に道を空けた。それはまるで炎を自在に操ってるかのように見えた。


 男が現れたことにより、この廃ビル内の空気は異質なものへ一変した。


 シークは幾多の戦場を経験する中で敵を二つに区分することを覚えた。それは強者と弱者の二つ。たとえどんなに強い化け物と出会ったとしても、シークは迷わず強者の区分する。それ以上なにも相手のことは考えない。自分がどうやったら勝利するかだけを考える。なぜなら、相手のことを考えたところで、そこから勝利は生まれないからだ。


 しかし、この男をどちらにも区分することは出来なかった。この男から発せられる空気や雰囲気が今まで見てきたもの全てに属さない異質なものだとシークは感じとった。


 こいつは何者なんだ?あの赤い閃弾はなんなんだ?こいつと戦うのか?そんなことが頭の中で血管を流れるごとく、ぐるぐると駆け廻る。身体から吹き出た嫌な汗が頬を伝い、顎先から地面に滴り落ちる。これは恐怖からの汗だった。


 人は誰しも未知であることを極端に嫌う。未知という恐怖に怯えながら、常に答えを探して生きている。死がいい例である。死んだ後に何が起きるか知らないから人は死を嫌う。答えがないから恐怖におののく。今シークが感じ取っているのも、その未知からくる恐怖だった。


 そんな中、シークの目に奥の方で横たわるティルが映った。どうやら爆発の被害には巻き込まれなかったようだが、服や顔は埃などでボロボロで、とても疲れ切った顔をしている。それを見たシークは心が動いた。


 なんのために自分がここに来たのか?黒カラス強盗団を捕まえるため?ティルを助けるため?自分でもまだ分からないが、今やらなければいけないことは確かにある。


 相手のことを考えたところで、勝利は生まれない。


 シークは勝利を掴むため、シークは地面に埋め込まれた重い足を一歩前に踏み出し、機械銃を男の方へ突きつけた。


「両手を上げろ」


 未知なる者への恐怖を吹っ切ったシークはその堂々とした威厳を取り戻していた。


「・・・・・・」


 意外にもその男はすんなりと両手を上げた。


 シークが男に近寄ろうと、もう一歩足を踏み込んだその時、


「紅蓮の炎よ。我に仇なす敵を焼き払え。イレーラ」


 男がそう呟くと、手の甲の方が赤く光りだした。その光は10本の指を這うように移動し、指一本一本にはめられた赤い宝石の指輪に赤い光が集まった。そして、人差し指をこちらに向けるように折り曲げた瞬間、赤い光は先ほど一味を一掃した赤い閃弾の一つと化し、シークの頬をかすめた。


 爆発とともに吹き荒れる衝撃と黒煙に怯むシークに、すかさず二発の赤い閃弾が放たれる。


「クソッ!!」


 シークは転がるようにして赤い閃弾をかわし、横合いにある支柱まで男に向けて弾丸を撃ちながら走り切り、柱を盾に身を潜める。


 どうやら、あの男もこちらに敵意満々のようだ。いくら小規模な爆発とはいえ、あれをまともに食らったら即アウトだ。気が付くと、焦げ臭い匂いがした。さっき閃弾を頬にかすめたせいで、頬が焦げたらしい。


 やはり、あれが魔法というものなのか?


 一瞬そう考えたが、シークは考えるの止めた。今成すべきことはあの男を倒すことである。


 シークは支柱から顔覗かせ周囲の状況を見てみると、男もシークの攻撃に警戒したのか、支柱を盾に身を潜めている。


 すると、痺れを切らしたようにシークに向かって何発もの赤い閃弾が放たれた。それは柱にぶつかり爆発を起こす。柱のおかげで直撃はしなかったが、爆発の熱気と黒煙がシークを襲う。


「紅蓮の炎よ。我に仇なす敵を焼き払え。イレーラ」


 先ほどと同じ呪文のような言葉が終わると、再び赤い閃弾がシークを襲う。シークも機械銃で応戦するが、爆発で酸素も消耗され、さらに辺り一面を覆う黒煙のせいでまとも息をすることもできない。


 盾にする支柱が爆発を受ける度にピシッとひび割れる音が聞こえる。このまま攻撃を受け続けるのはまずい・・・。


 そう思ったシークは意を決して、黒煙で渦巻くこの支柱から飛び出した。とりあえずもう一つの支柱に隠れて体制を整えようと、反対側の支柱目指してダッシュする。向かう途中、赤い閃弾に襲われると思いきや、意外にも閃弾の猛攻はピタリと止まり、難なく反対側の支柱にたどり着けた。


「紅蓮の炎よ。我に仇なす敵を焼き払え。イレーラ」


 再び呪文のような言葉が聞こえると、赤い閃弾の攻撃は再開された。爆風と黒煙が吹き荒れる中、シークは疑問に思った。先ほどから言っている呪文のような言葉、時折止まる攻撃。二つの行動が意味することは・・・。


 リロード。


 瞬時にシークはそう判断した。考えれば簡単なことだった。どんな銃にも最大連射数があるように、あの男にも赤い閃弾の最大連射数が存在している。それをリロードするために、男はあの呪文のような言葉を唱えてるに違いない。


 シークが思うに、赤い閃弾の最大連射数は男の指にはめてる赤い宝石の指輪の数の10発。それが男の最大攻撃回数。男は攻撃を終えると、再び攻撃を行うためにリロードをする。そのリロードという空白の時間こそが男の最大の隙。その隙を突く!


 苦戦を強いられている中でもシークは勝機を見出した。


 熱波に体力を削られる中、シークは支柱を破壊しようとする赤い閃弾の爆発音に耳を傾ける。男の攻撃がピタリと止まる。・・・10発。確かに最大連射数は10発だった。次が勝負。次のリロードで勝負が決まる。


「紅蓮の炎よ。我を仇なす敵を焼き払え。イレーラ」


 男のリロードと同時にシークは機械銃に弾を装填する。


 そして、攻撃は始まった。


 シークは機械銃で応戦しながら、赤い閃弾の爆発音を数える。弾は3発残しておけば問題ない。


・・・・・1・・・・2・・・・・・3・・・・・4・・・・・・・5・・・・・・・6・・・・・・・・・・・7・・・・・・8・・・・・・・・・・9・・・・・・10!


 10発目の爆発音が響いたと同時に、辺り一面覆う黒煙の中央から波を打つように気流が乱れ、雲を貫く飛空船のごとくシークは現れた。燃え盛る炎をかき分けて、シークは男に向かってまっしぐらに駆け出した。


「なっ!?」


 突然のシークの突撃に男は驚きの色を隠せないでいた。男は格好の的であるシークを迎え撃とうとはしなかった。いや、することが出来なかった。弾切れだからである。


 射程圏内に入った男にシークは機械銃を向けると、男は胸元に手を入れ、一枚のカードを取り出した。


 シークは男の行動力を削ぐため、足を狙って2発弾丸を撃ち込んだ。それと同時に男はカードを宙に投げた。


「聖なる光の加護よ!我を守れ!ハイゼル!」


 男がそう叫ぶと、カードに刻まれた魔方陣が光りだし、透明のバリアのようなものがシークの放った弾丸を遮った。弾丸の衝撃を受け止めたバリアは水面に石を投げ入れたかのような波紋を描いた。それはまるで空間が波打つように見えた。


 衝撃を吸収された弾丸はチャリーンと音をたて地面に落っこちた。


 弾丸を防いだ男は腰に差してある刀剣を抜き、シークの懐に踏み込んでいった。


 シークも男同様に機械銃を構え、踏み込んだ。


「動くな!」


「動かないでください」


 それはほぼ同時であった。喉元に剣先を突きつけられたシーク。頭に銃口を突きつけられた男。二人は互いに牽制し合い、ピタリとその場で制止した。


 近くになってようやく気づいたことだが、この男の瞳は灼熱の炎のように紅く、それでいて、氷のようにとても冷たい目をしていた。シークにはそれに見覚えがあった。自分と同じ人殺しの目をその男は持っていた。


「二人ともやめてください!」


 それはティルの声。シークと男は首だけ動かし、声のする方を見ると、これまたおかしな格好をした男に肩を支えてもらって立っているティルがいた。


「姫。お怪我はありませんか?」


 銀髪の男はシークの喉元に剣先を突き刺したままそう言った。


「レオルド。そのお方は敵ではありません。私を助けにきてくださったのです。剣を収めてください」


「・・・そうですか。かしこまりました」


 そう言い、男は刀剣を鞘に収めた。シークも機械銃を下ろす。


「私はレオルド・ギュンハットと申します。これまでのご無礼お許しください」


 レオルドは礼儀正しくお辞儀する。


「シーク。この者たちは前に私が言ってたお供の者です。ご安心ください。こちらはシャーロン・ハギです」


「・・・・・・」


 ティルを支えている男は首だけ動かし、無言でお辞儀する。


「お供の者?じゃああんたが探してるっていう銀髪の魔術師はこの男じゃないのか?」


 シークはレオルドを指差した。


「いえ、私が探してるのはレオルドとは別の人です。でも覚えててくれてたんですね。なんだかうれしいです」


 ティルは埃で汚くなった顔で精一杯笑った。すると、遠くから警察のサイレンが聞こえてきた。


「なんの音かしら?」


 ティルは辺りをキョロキョロと見渡す。


「・・・警察のサイレンだな」


「警察とは?」


 ティルは首を傾げる。


「このままじゃ、あんたらは事情聴取やなんやらで警察に捕まるぞ」


「えっ・・・。捕まるのは懲り懲りです・・・」


 ティルは苦い顔になった。


「なら行け」


 シークはティルに背中を向け、声を小さくして言った。


「え?」


「捕まりたくなかったら、さっさとどっかに行け」


「・・・よろしいのですか?」


 シークの顔色を伺うように問う。


「俺はこいつらを捕まえに来ただけだ。それ以外のことはなにが起きようが俺には関係ない。だから行け」


 身体をティルの方に向き直して、気絶して倒れこむ黒カラス強盗団を示した。


「姫。早くここから逃げなくては・・・」


 レオルドがそう言ったように、サイレンの音はさらに強くなった。あと数分でここに到着するだろう。


「シャーロン。私はもう大丈夫ですから」


 ティルはシャーロンの支えなしに一人でシークのそばまで歩み寄り、シークの頬に出来た焦げ跡をやさしく触った。


「な、なにをする?」


「私のせいでこんな怪我までさせてしまって・・・」


 見ると、ティルの青い瞳が涙で潤んでいた。


「や、やめろ。この程度の傷など・・・」


「動かないでください」


 く・・・と、シークの言葉が詰まる。


 ティルは息を整え、頬の焦げ跡に手をかざした。


「――――」


 綺麗な歌が廃ビルの中に響き渡る。聞いたこともない言葉。聞いたこともない音調。それは未知と呼べるものだったが、そこから恐怖などは生まれず、逆に、聞いていて心地よい気分にしてくれた。


 歌い終えると、ティルは続けて唱えた。


「天界に宿る三大天使の一人ミカエルよ。彼に安らかな癒しを。ブレシング」


 ポッと暖かく小さな青白い光がシークの頬を包む。その光は頬の焦げ跡をみるみると吸い取り、不浄の気と共にすうっと消え去った。


「本当はもっとお礼をしたいのですが、今の私に出来ることはこのぐらいしか・・・」


 ティルの顔が俯く。シークが綺麗に治った頬をそっと触れると、それはそこの部分だけがとても暖かいように感じた。


「・・・用が済んだならさっさと行け。もうすぐ警察がやってくるぞ」


「姫。早くこちらへ」


 レオルドがティルを手引きする。


「・・・本当にありがとうございます」


 深々と頭を下げるティル。その青い瞳からは大玉の涙が滴り落ちていた。


「さぁこちらへ」


 レオルドとシャーロンに導かれ、ティルはビルの奥の方へ消えていく。


 シークはもう一度頬を触れた。やはり、まだそこは暖かかった。


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