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第5章:人質少女

 絶えなく室内に鳴り響く銃声。今日の授業は射撃訓練施設で射撃訓練である。校長に言われたパンフレットの訂正はまずい部分を黒ペンで塗りつぶすだけという緊急処置でなんとかやり過ごした。


 射撃の授業は唯一シークが活き活きとする教科である。ただ机に座って生きていく上でなんの役にもたたない先生の話を聞いてるだけなんかより何十倍も楽しい。


 シークは機械銃片手に数十メートル先の的を打ち抜く。この程度の距離なら空中で一回転というアクロバチックなパフォーマンスをしながらでも打ち抜くことができる。


 シークは空き缶を三つ持ち、それを一斉に遠くに投げて、すかさず空中で全部打ち抜く。もちろんきっかり三発で。


「いやー、やっぱりシークはさすがだね」


 そう言ってやって来たのは風紀委員長のミツル・カミヤ。とある小国からフリーディアに入るためやって来たパラディンである。


 黒髪でスラッと背の高いミツルは性格も温和で女子生徒からは絶大な人気を誇っている。いつも傍らに2メートル超の機械刀ソードを携えている。


 あまり交友的なシークではないが、ミツルとは結構仲が良い。まずミツルはうるさくない。これはシークと仲良くなる上で重要な要素である。基本シークはうるさい人を嫌悪する。ラビィがいい例である。


「このくらいは簡単だ。誰にだって出来る。出来ないほうがおかしい」


「そうかなぁ。僕には出来ないよ」


 そしてなによりミツルはやさしい。こんな無愛想なシークの態度を見てると誰でもムカついてくるが、心の広いミツルは口ごたえしない。ラビィなら真っ先に「何様やねん!」とつっこんでるところだ。


「ほら、あそこにも一人出来ない人がいるよ」


 ミツルが指差した方を向くと、一人の男がうおりゃあと、声を上げながらバンバンと的目掛けて機械銃を撃っている。しかし、残念ながら弾は的にかすりさえしない。


 こちらに気づいたのか全速力で走ってやって来た。


「よう!二人とも調子はどうだ?」


 馬鹿でかい声でジェルド・ローザスが話しかけてくる。さっきも言ったが基本シークはうるさいやつを嫌悪する。


「うるさい。少しは黙れ」


「会って早々そんな返事はねぇだろ!?言葉の勉強はしてるのか?こんにちわって言ったらこんにちわ!元気?って聞かれたら元気!だろ」


「そうは違うと思うけどね」


 ジェルドもパラディンであり、機械拳ナックルという分けの分からないものを武器とし、銃器の才はまったくない格闘バカである。闘争心煮えたぎるという理由で赤く染め上げた髪はオールバックでまとめあげられている。


「コラ!ジェルド!少しは静かに訓練ができないのか!いくらパラディンでもあろうと、射撃能力の単位が足りないお前は留年だぞ!」


 うるさく騒ぐジェルドに先生がついに切れた。


「えぇ!そりゃないっすよ先生!」


「ならさっさと5メートル先の的を打ち抜くぐらいできるようになれ!」


「ウ、ウスッ!」


 ジェルドは全速力で元の場所に戻り、うおりゃあと、声を上げながら機械銃を撃ち続けた。


「なんで的に当たらないんだろうね」


 ミツルは苦笑いを浮かべた。


「それよりシークは知ってる?黒カラス強盗団」


「黒カラス強盗団?なんだそれは?」


 機械銃で的を打ち抜きながら聞く。


「最近出てきた強盗団なんだけど、銀行などを襲って金品を奪い取ってる武装集団らしくて、死者も出ているそうだよ。昨日街の警備隊と一戦繰り広げたらしく、人質を盾にその場から逃げて、いまだに逃走中なんだって」


「所詮はアマチュア集団だろ」


 シークは的確に的の真ん中を打ち抜いていく。


「それで人質に捕った人が変わった格好していたらしいよ。なんか修道服を着た少女らしくて」


 その時、シークが放った弾丸は的をはずした。


「修道服?」


 シークは撃つのやめ、聞き返した。


「そう、長い金髪の少女って言ってたよ」


 長い金髪で修道服・・・、シークの頭によぎるのは昨日少女だった。魔法の世界から来たと言い張る少女。いや十中八九ティルである。


「その子はほかに変わったところはないのか?」


「ほかに?」


「ああ、目の色が特徴的だったとか」


「ん〜そこまでは僕は知らないなぁ。でもなんで?シークの知り合い?」


「いや、なんでもない・・・。ちょっと出かけてくる」


 そう言いシークは射撃訓練施設を出ようとする。それをミツルは追いかけた。


「え?ちょっとどこへ行くの?授業は?」


「コラ!シーク!貴様どこへ行くというんだ!」


 ミツルに続き、あの怒鳴り先生もシークを引き止める。


「サボります」


 たったその一言だけであったが、その時のシークの迫力は異様なものだった。その迫力に先生は完全に畏縮してしまい、なにも反論することは出来なかっった。


 ミツルはこのシークの迫力を前に感じたことがあったのを思い出した。


 それはシークが戦場に身を投じる時の迫力と同じものだった。


「サダはいるか?」


 シークは授業そっちのけで開発部に訪れていた。ティルは昨日あげたサダのバッジを身に付けている。それならば、バッジのストーカー機能を使ってサダのパソコンを通してティルの状況を知ることが出来る。サダの作った物を認めたくはないが、今は頼るしかない。


「おうシークじゃねぇか。どうした?」


 相変わらずとぼけた面でサダがやって来た。


「昨日もらったバッジの映像が見たい。できるか?」


「おお!早速俺の発明品を活用してくれてるのか!よしこっちに来い!」


 サダはシークを自分のオフィスまで呼び込み、猛烈なスピードでパソコンのキーボードを叩く。すると、パソコンの画面に古びた廃ビルの中と思われる映像が映し出された。そして、映像の音声が飛び込んできた。


「ひゃほーーーーー!!!これでおれらも大金持ちだぜ!!!」

「おれなんか警備員が2人やったぜ!!!ざまぁーみやがれ!!!」

「おれら黒カラス強盗団はサイキョーだぁーーー!!!」


 多数の叫び声が廃ビルの中を縦横無尽に暴れまわり、パソコンに届いてくる。


「黒カラス強盗団?なんだそりゃ?シーク、こいつぁなんの映像だ?」


 サダがシークの方を振り向くと、シークは機械銃と弾のチェックをしていた。


「おい?どうしたんだ?そんなことして?」


「そこがどこだか分かるか?」


「あん?ここから南東10キロにある廃ビルだが・・・」


「今からそこへ機械二輪車バイクで向かうから、ナビゲートしろ。常時モニターを監視して何か動きがあったら連絡しろ。いいな」


 そう言いシークは開発部を飛び出した。


「お、おい!ちょっと待・・・なんだぁ?」


 取り残されたサダは呆然とする。


 シークは駐車場にある黒いバイクに股がり、エンジンをかけた。向かうはティルのいる南東の廃ビル。


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