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第4章:魔法少女

「私はこことはちがう世界からこっちの世界に来たんです。私のいた世界は魔方陣を用いた魔法を発動する魔法学を専行する世界、わかりやすく言えば魔法の世界からやって来た」んです。こう見えても私はあちらの世界では一国のお姫様なんですよ」


 ティルは誇らしげに胸を張る。


「こちらの世界に来た理由はある人を探すため。その人は銀髪の魔術師でして、数年前にこちらの世界にやって来たそうなのです。その人がこの世界にやって来たことはつい最近判明して、私は二人のお供とともにこちらにやって来たのですが、こちらの世界にあるキカイというものを初めて拝見して困惑してる間に私はお供の者とはぐれてしまったのです。とある部屋に入ると勝手に扉が閉まり、扉が開いたと思えば、さっきとは違う場所に瞬間移動してるなどと、理解に苦しむことばかりでした」


 それはエレベーターというものだろう。


「お供とはぐれて丸一日が経ち、私は空腹と孤独感で体力の限界でした。仕方なく私は最後の力を振り絞って転移の魔法陣を作成し、転移の魔法でお供のもとへ行こうとしたのですが、術を発動しようとした途端に地面が動き出し、魔方陣の方位がずれて術は失敗、目的地とは別の場所に飛ばされてしまったのです。それがこの部屋の前なのです。私は最後の力を使ったことにより、その場に倒れ込んでしまいました。そしてその場に現れたシークが私を助けてくれたのです」


 ティルはその場に立ち上がり、ベッドに寝そべるシークにニコッと笑った。


「最後まで聞いてくれてありがとうございました。こっちの世界に来てから、こうして人と話すことはなかったから、なんだかすっきりしました。これ以上ここにいるのはシークにとって迷惑だと思うから、私はこれで・・・」


 ティルが玄関に向こうとしようとしたとき「あ、そうだ!」と、なにかを思い出したように手を叩き、シークに駆け寄った。


「最後に聞きたいことがあるのですけど、よかったらこの世界のことを教えてもらえませんか?迷惑でしたら構いませんが」


「この世界のこと?」


「はい、ここ数年に起きた国の大きな出来事などを教えてもらえたらありがたいのですが・・・」


 シークは今日校長に渡されたパンフレットを思い出した。あれなら簡単に国に起きてることが説明できるだろうし、それに口で説明しない分めんどくさくはないだろう。


「それならこれがある」


 シークは体を起こし、ポケットにあるパンフレットを取り出そうとすると、中からサダからもらったバッジがティルの足元まで転がり落ちた。


 ティルはそのバッジを拾い上げ、興味深そうな瞳でしげしげと眺める。


「かわいいですねこれ。なんなんですかこれは?」


「それはバッジだ」


「バッジ?バッジとはどういうものですか?」


 ティルは首を傾げる。


「服に付けるアクセサリーだ」


「アクセサリーですか。シークにしてはかわいいものを持ってるんですね」


「別に俺が付けてるわけじゃない。ほしいならくれてやる」


「えっ!よろしいのですか?」


「ああ、どうせあとで捨てるものだ」


 ストーカー機能が付いているが、それはあとでサダにデータ消去してもらえばいいし、なにより捨てる手間が省ける。


「なるほど。この裏の部分を服に付けるのですね」


 ティルはバッジを胸元に付け、優雅にその場で一回転した。


「ありがとうございます。似合ってますか?」


「さあな。それよりこれ」


 シークは無愛想に答え、パンフレットをティルに渡した。


「これは?」


「とある馬鹿正直な人が書いた今の世界だ」


 ティルは折りたたまれたパンフレットを開き、読む。終始めんどくさげに読んでいたシークとは裏腹にティルは真剣な眼で文字を読み取っていく。


 読み終えると、ティルはパンフレットを折りたたみ、シークに聞いた。


「では私が今いる国はラワルアですか?」


「ああ、フリーディアの校内だ」


「なるほど・・・。ではフルブールが本命・・・」


 ティルはなにやらぶつぶつと独り言を言っている。それも真剣な表情で。


「ありがとうございます。これはお返ししますね」


 ティルはシークにパンフレットを返す。


「では私はこれで失礼します。何から何までありがとうございました。あのパン変な味がしましたけど、おいしかったです」


 アウトだったか。


 お辞儀をして部屋を出ようとするティルにシークは「おい」と、一声かけた。


 立ち止まり振り向くティル。


「何でしょうか?」


「・・・見つかるといいな。探してる人が」


 ティルはキョトンとする。会ってから間もない関係だが、シークがこんなことを言う人でははないこと思っていたティルは驚いた。しかし、それと同時にシークのやさしさを感じ、どことなく勇気が湧き上がってきた。


「はい!」


 はっきりした声でそう言い、ティルは部屋から出て行った。


 シークはベッドに寝そべり考えていた。なぜ自分が別れ際にあんなことを言ったのか?自分は彼女が魔法の世界から来たことを信じているのか?信じていたからあんなことを言ったのか?・・・分からない。


 どんな人間よりも自分を知っているはずなのに、どんな人間より自分に近い人間なのに、答えが分からなかった。


 信じているのか、信じていないのか。本当の自分はどちらなのか?今の自分が本当なのか本当ではないのか?そう考えるとちょっぴり怖くなった。


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