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第3章:行き倒れ少女

自分の部屋の前に知らない女の子がバッタリと倒れている。それも明らかに怪しい格好をした女の子。こんな不可解な状況の中でもシークは冷静さを保っていた。


とりあえず、俯きになってる女の子の口元に手を当てる。呼吸はしているようだ。生きているなら後は勝手に起きて自分の家に帰っていくだろうと、女の子の存在を完全に無視して家に入ろうとすると、ガシッと足を掴まれた。


正体はこの行き倒れ少女。顔を俯きながら、か細い腕で足を掴んでいる姿は正にホラー映画である。まためんどくさいことに巻き込まれたと、シークはため息をついた。このままバレなければよかったのだが、正体が気づかれたのなら助けない訳にはいかない。


仕方なく「大丈夫か?」と、少女の肩を摩った。すると、微かに少女の声が聞こえた。


「・・・・・・さい」


「なんだって?」


「・・・けてください」


 なにを言ってるか聞き取れなかったのでシークは少女の口元に耳を寄せる。しかし、次に少女から発された音は口からではなく、別の場所だった。


ぐぎゅるるるるるるるるるるる


 少女は本当の行き倒れだったのだ。


 行き倒れ少女を家に運び、なにか食べ物はないかと家の中を散策する。たまたま押し入れの中からあんぱんを見つけた。賞味期限は・・・まぁ大丈夫だろう。


「ほら、これを食え」


 テーブルに顔を伏せている少女の目の前にそのあんぱんを置く。


それにしてもこの少女はおかしな格好をしている。腰のあたりまである長い金髪、服装は純白のワンピースの上に青いカーディガンを羽織っている。修道服?とでもいえばいいのか。多分そうなのだろう。


 それに少女はどこからやってきたのだろう?部外者では学生寮に入ることすら出来ない。もしかしてこの学校の関係者?それにしては変な格好をしている。この子は一体・・・?


すると、少女は食べ物の気配に気づいたのか、むくっとゆっくり起き上がった。身体を起こすと、サラリと長い前髪が左右に分かれて、少女の顔を初めて拝見したとき、シークは少し驚いた。


純白の白い肌に青い瞳。歳はシークと同じくらい。しかし、少女の青い目は異様な存在感を示していた。なぜなら、この大陸のどこを探しても少女のような青い瞳の人種は存在しないのだ。


「気がついたか。腹が減ってるならそれを食え」


少女にテーブルに置いてあるあんぱんをすすめる。


「あ、ありがとうございます」


 少女は「いただきます」と、手を合わせてから、不慣れな手つきであんぱんの袋を開け、一口大にちぎり食べる。なんとも礼儀正しい食べ方だ。


 一人で何もすることがないシークはベットに仰向けで寝始めた。


「あ、助けていただきありがとうございます。私はティルリーティルム・アルフェーナセレルージュと申します。ティルとお呼びください。貴殿のお名前は?」


「シーク・・・。シーク・アルカムだ」


 仰向けで寝たまま答える。


「シーク殿ですね。私が倒れているところを助けていただき、本当にありがとうございます」


「シークでいい」


「あ、分かりました。シークありがとうございました」


 それっきり会話は途切れた。チビチビとあんぱんを食べるティルは「今日は天気がいいですね」とか「この食べ物おいしいですね」と色々と問い掛けてみるが、「ああ」とか「そうだな」という返答しかせず、会話が続かない。


「あの・・・?不思議に思わないのですか?」


「なにをだ?」


「なんで倒れてたのかとか、なんでこんな格好をしてるのかとか・・・」


 自覚はしていたようだ。


「それを知って、俺になんの得があると言うんだ?あんたがなにをしようが俺には関係ない」


「アハハ。それもそうですね」


「それよりティルリーティルム・アルフェーナセレルージュさんとやら。それを食い終わったら帰ってくれよ」


「わっスゴイ!」


 ティルは驚きの表情を浮かべた。


「なにがだ?」


「私の名前。一度しか言ってないのに間違えずに言えた人はシークがはじめてだよ」


その時、ティルはシークと出会ってから、初めて本当の笑顔を見せたような気がした。


「仕事上慣れてるからな」


「仕事ってなにをやってるのですか?」


「それを聞いて、あんたは得するのか?」


「もちろんです。シークのことを少し知ることが出来る。私はシークのことをもっと知りたいのです」


シークはティルに不思議なものを感じていた。それを魅力と言うのかもしれないが、なにか引きつけるようなものをティムは持っていた。


「・・・学生。それから傭兵もやっている」


「シークは学生さんなのですか。あとヨーへーとはどういう職業なのですか?」


 傭兵をしらないとはどういう教育を受けてきたのだ?シークはそう考えながらも答えた。


「金さえくれればなんでもやる。そういう職業だ」


「なんでも?」


「ああ、人殺しでもなんでも」


「ひ、人殺し!?」


ティルはキャッとその場で飛び跳ねた。


「わ、私にはちょっと縁のないご職業のようですね・・・。で、では今度はシークの番です!」


 ティルはシークを指差した。


「なに?」


「私はシークに一つ質問しましたから、シークも私になにか質問してください」


「質問?」


「はい。聞きたいことならなんでも聞いてください。でもエロいのはNGです」


シークは身体起こし、ベッドを椅子代わりにして座った。


「じゃあ聞くが、あんたはどこから来たんだ?その青い目、この大陸の人じゃ持っていないものだ」


シークがこのように他人に質問するのはとても珍しい。常に他人への興味のないシークが質問するということは、ティルに興味を抱き始めていることだった。


 ティルは俯き、少し考えたのちに上目遣いに答えた。


「言っても、信じてもらえますか?」


「いいから言ってみろ」


「・・・私はこの世界とは違う場所から来ました。俗に言う異世界という所から」


「そうか」


 シークはそう言い、再びベッドに寝そべった。そう、ただそれだけ。


「・・・それだけですか?」


「なにがだ?」


 「そんなわけあるか!」と、否定されると思っていたティルはシークの素っ気無い返答にキョトンとした。


「信じてもらえるのですか?こんな馬鹿げた話を」


「信じてなどはいない。俺はあんたに頼まれたからただ聞いただけだ。あんたが異世界から来た人間だろうがただの行き倒れだろうが、俺にはなにも関係ない」


「やっぱり変な人」


 ティルはクスッと笑い、すぐにそれを訂正するように手を横に振った。


「あ、すみません!私悪い意味で言ったんじゃなくて、その・・・」


「慣れてるから平気だ。気にしてない」


それは慣れていてはいけないような気がする・・・と、ティルは苦笑いを浮かべる。


「でもうれしいです。信じてもらわなくても、私の話に耳を傾けてくれるだけで。もしよかったら、私の話をもっと聞いてもらせませんか?ただ聞いてくれるだけでいいんです」


「・・・ああ、構わない」


 寝そべったまま、そう答える。


 ティルの傍らには空になったあんぱんの袋が一つ。このことにシークはとっくのとうに気付いていた。


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