第1章:機械の都
カージネスト大陸の西に位置する大国ラワルア。その首都リオルは別名「機械の都」と呼ばれている。
その名の通り、リオルの機械生産率・機械開発率は共に、他国と比べても群を抜いている。代表的なものは機関列車、海上船、飛空艇などの交通機関であるが、その技術を利用し、10年くらい前から機械兵器開発にも乗り出し、その軍事力を確固たるものにした。
その中核を成しているのが、傭兵育成学校フリーディア。これも10年前にリオルの郊外に1校だけ建設された。
13歳から入学を認められ、入学金や授業料などは全て学校側が負担。中高一貫して行われる一般カリキュラムに平行して、ここでは戦闘カリキュラムという風変わりなものが行われてる。
戦闘カリキュラムとは、フリーディア特有のカリキュラムである。その内容は射撃訓練や接近戦訓練などといった戦闘訓練であり、一通りのカリキュラムを受ければ、たいていの生徒は一般兵士より有能な戦士となることが出来る。
つまり、フリーディアの目的は幼いうちから生徒に戦闘訓練をこなし、戦闘においてのスペシャリストを作り出す傭兵育成プログラムなのだ。
別にフリーディアを卒業した生徒は強制的に傭兵になることはないのである。もちろんサラリーマンだろうがシェフだろうが、進路の決定権は生徒にある。
しかし、フリーディアの生徒である以上、いくつか義務がある。
代表的なもので言えば、生徒は傭兵として任務に借り出されることである。任務内容は生徒の成績によって難易度は異なるが、任務によってはテロリストや犯罪者などとの戦闘もありえる。つまり、任務によって命を落とす生徒も珍しくないのだ。よって生徒は入学前には任務により死亡しても学校側に責任を問わないと同意書を書いてもらうことになる。
このフリーディアの傭兵育成プログラムや機械兵器開発は有能な傭兵と兵器を用いて、敵国を支配するためではなく、あくまでも大国ラワルアの安全を保つための防衛システムである。
その根拠に大国ラワルアと敵対する国はどこにもないのだ。ではなぜこのような過度な防衛システムを行っているのか。
それは大国ラワルアと同等の規模を持つ東の大国フルブールが要因だ。フルブールは10年前に突然機械兵器の開発の開始などと不穏な動きを見しているのだ。表向きには自国の防衛のためだと言ってるが、定かではない。それを不信に思ったラワルアは追いかけるように、この防衛システムを開始したのだ。
ラワルアとフルブールは昔から長い付き合いであまり疑いたくもないのだが、もしもの時のために我々フリーディアが存在するのだ。
庸兵育成学校フリーディア 校長 ミミリィ・スパーク
「どう?」
「どうって・・・?なんですか?」
フリーディアのパンフレットを手にし、シーク・アルカムはめんどくさそうに聞き返した。
気持ちよく昼寝をしていた最中に校長室に呼ばれて何だと思って来てみたら、なぜかこのフリーディアのパンフレットを読まされたのだ。
「フリーディアの学校紹介パンフレットよ。新しくあたしが作ってみたんだけど、どう?」
「どうって・・・、こんなもん公に出したら、大問題ですよ」
「なんでよぉ?」
校長は不思議そうな顔をしてパンフレットを眺める。
こうして話していると、この人は本当にこの学校の校長なのか疑いたくなる。
ミミリィは35歳という若さで今年新しく就任した女校長であるが、どこか抜けいているところがある。元々は軍人であり、当時は大佐まで上り詰めたエリートらしいが、その風格など今となっては感じられない。
馴れ馴れしいその性格から逆に生徒から支持を得ているが、あまり人と接するのが嫌いなシークにとってはめんどくさい人ランキングにみごと一位に輝いている。
「こんなもんばら撒いたって、フルブールとの仲が拗れるだけですよ」
「えーだってホントのことじゃん」
(この人本当に大丈夫なのか?)
「それになんで生徒である俺がパンフレットの確認をしなきゃいけないんですか?こういうのは教頭にでも頼めばいいじゃないですか」
「あたしあの人苦手」
校長はツーンと、そっぽを向く。
(俺もあんたが苦手だよ)
「それにあんたはパラディンの中でもこういうの得意でしょ。報告書なんかもビシーっと書いてあるし」
パラディンとは成績優秀な生徒だけを選抜したフリーディアの先鋭部隊である。パラディンになれる生徒はごく僅かで、とても名誉な称号である。シークもまたそのパラディンの一人である。
「それでお願いなんだけど、このパンフレットの文を書き直してくれない?」
「嫌ですよ。なんで生徒がそんなことをやらなければいけないんですか?」
「あれれー?逆らっちゃっていいのかなー?あたしの一言さえあれば、あなたを落第させることだって出来るんだけど?まぁ無理にとは言わないんだよねぇ。再び学校生活をエンジョイしたいなら断ればいいし」
校長は机に肘をつき、ニヤニヤとシークを見つめる。
(最低な校長だ・・・)
「・・・わかりましたよ。やればいいんですよね」
シークは渋々了承した。
「あら、そう!助かるわー。あなたのように率先してやってくれる生徒がいて。じゃあ明日までに提出してね」
「はいはい」
シークは渡されたパンフレットを折り込み、ポケットにねじ込んだ。
「じゃあがんばってねー」と、校長に見送られ「失礼しました」と、校長室から出る。出た途端にシークはなんでこんなことを俺が・・・と、ため息を付いた。
「おーい、校長室に呼ばれてたんやろ?どないしたん?」
廊下を歩いてると声をかけられた。声のする方を振り向くとシークは再びため息を付いた。
「なんだお前か」
「お前ってどーゆーことやねん!アタシにはラビー・リリッツっちゅー可愛らしい名前が
ついとんねん!」
(めんどくさいやつの次にはうるさいやつか・・・)
ラビーもシーク同様にパラディンの一員で、フリーディアの風紀委員という一面もある。シークより一年下の後輩のはずなのだが、訛り言葉で繰り出される先輩を尊敬しない口調にシークは嫌気をさしている。今巷で有名な機械靴をいつも履いていて、プロ並みの腕前を持っている。
「それより校長室なんかに呼ばれてどないしたん?なんかやらかしたん?」
ラビーは無視して歩いてくシークを追いかけ、ニヤニヤと笑いながら聞いた。
「なんでもない。それよりなにか用があるのか?ないならついてくるな」
「相変わらず無愛想な男やな〜。せっかく伝言伝えにきたゆーのに」
「なんだ?」
「いや〜そんな態度じゃ言われへんな〜。人にものを頼むときは礼儀っちゅーもんがあるやろ」
(それが先輩に対する礼儀か?)
シークは立ち止まり、ラビーをキッと睨んだ。
「わかったから教えてくれ」
「はいはい。あんた開発部に機械銃をメンテナンスに出してたやろ?それが終わったから取りに来いってゆーとったで」
機械銃とはシークがフリーディアから支給された武器である。パラディンになると、その生徒の能力にあった武器がフリーディアの開発部から開発され支給される。射撃能力に特化しているシークは機械銃が支給されているのである。ちなみに、ラビーの支給された武器は機械銃である。
「わかった」と、早速シークは開発部に向かおうとしたが、なぜかラビーも後からついてきた。
「今度はなぜついてくる?」
再び立ち止まり、今度はため息まじりに聞く。
「アタシも開発部に用があるんや」
ある程度は予想できたが、まだこんなやつと話さなければならないと思うと嫌気がさした。