第12章:港町ティエローニ
翌日になると、ついに乗客の怒りが爆発した。理由は、アルディリアに行くための機関列車が夜の一本だけしか出ていないからだ。その間はゼロ。つまり、乗客は夜まで飛空船の中で過ごさないといけない。いくら田舎町といっても、機関列車が夜間に1本だけしか出ていないとは余程のものだ。これに納得のいかないラビーは、「ど田舎のしょーもない町」やらと、込み上がる怒りを言葉に発し、ティエローニを罵倒した。女とは思えないほど汚い言葉を巧みに使うラビーにティルは少々驚きの表情を見せた。
さすがに乗客を1日中飛空船の中に閉じ込めるのは暴動の危険があると判断したためか、外に自由に出入りが出来るようにはなった。しかし、こんな田舎町では気分転換になるようなものは一切なかった。
昨日見たときは暗くてよく分からなかったが、この町には民家とお店だけを除いて、他にはなにもない。娯楽の娯の字も見当たらない。これにはラビーがあんなに怒るのも納得がいく。ど田舎のしょーもない町と言いたくもなる。
こんな町で時間を潰すのなら、飛空船の中にこもっていた方がずっと有意義である。シークも部屋の中で時間を潰そうと考えていたが、ティルが町を見てみたいと言い出してきた。町にはなにもないからつまんないぞと言ったが、それを了承しなかった。
依頼人が外に出るのなら護衛をしないわけにもいかない。仕方ないと思いながら、シークたちは外に出ることにした。今はまだ午後1時。列車の時刻までまだまだだ。
外に出ると、目が痛んだ。思った以上に陽の光がまぶしかったのだ。シークは目を細め、片手を額の上へ持っていき、陽の光を鬱陶しそうに遮った。そんなシークとは裏腹に、ティルは両手を広げ、気持ちよさそうに全身に陽の光を浴びた。
光に目が慣れたシークは陽を遮る手をどかすが、目は細めている。それはまぶしさのせいではなく、気分の問題だろう。めんどくさい、ただそれだけが心の中で叫んでいる。
昼間の海はずいぶんと波が荒かった。白い泡を沖の方から小波が来る度、来る度巻き起こしていく。この町の唯一の娯楽とも言ってもいいこの海だが、こうも波が荒いのでは心も落ち着かない。よく旅番組でリゾート地の海の映像を目にするが、あれとでは全然比べものにはならない。あちらが癒し系の海と言うのならば、こちらは本格派の海とでも言えるだろう。ビギニ美女ではなく、モリをもった漁師だ。
空を仰ぐと雲ひとつない青い空が広がっている。が、遠くの方では黒い色をした雨雲が見える。上空の風の方向によってはこちらに来る可能性もあるとだろう。
飛空船の周りでは町の子供たちが輝きの眼差しで飛空船を眺めている。皆無地のシャツに無地の短パンを着ている。リオルですっかり見なくなった格好だ。しかし、その格好がしっくりくるというのは田舎者の特権と言えるだろう。
ティルの後ろに付きながら、町の中へと歩いていく。町の方は相変わらず活気のない幽霊屋敷のような感じだった。活気というより人気がないのかもしれない。今いる人と言えば、町の中をゆっくりと歩くおばさんか、飛空船を目の当たりにしてはしゃいでいる子供。その中間である大人をまだ見ていない気がする。大人のいない町?いや、たしか昨日の夜、外に出たときはちゃんとした大人はいた。じゃあ今いないのはなぜ?
シークはそこで考えるのを止めた。らしくない。そんなこと考えて何になるというんだ。大人は家に引きこもっているか、他の場所で働いている。ただそれだけだと、シークはそう割り切った。
町の中にあるお店のほとんどは老人が店主だった。お店と言っても、家の壁を切り取って取り付けたかのような売台である。売台の上には商品が並んでいて、商品が盗まれないか見張っているのか、ただ純粋に立ちながら寝ているのか、どちらかは分からないが店の中で老人の店主が立っている。あるいは店主ではないのかもしれない。
とあるお店でティルの足は止まった。見たところ果物屋らしい。決して瑞々しいとは言えない果物が売台の上に並んでいる。新鮮に見えないのは果物もそうだが、この町の雰囲気も原因なのだろう。
ここの店主は起きているようだった。鼻の上にちょこんと乗っている老眼鏡を通して、くりくりとした愛くるしい瞳を覗かせている。
「おや、見ない顔ですなぁ」
老人の店主が垂れ下がった老眼鏡を指で持ち上げて、そう言うと、ティルは頷いた。
「はい、わたくしたちは旅の途中でトラブルにあってしまいまして」
「ほう、ではあなたたちは例の飛空船の乗客ですか」
ティルは微笑んだ。そのまま率直に「はいそうです。昨日墜落しました」なんて言うのには少し抵抗があるのだろう。”例”ということはこの町では情報伝達するほどの人と人との親しい繋がりがあるようだ。まぁ、さすがにあんな騒動のことがこんな小さな町全体に行き渡ってない方がおかしいとは思うが。
「それにしてもおっちゃん。この町はどうも活気ってもんがないなぁ」
ラビーが売台に置いてある果物を1つ手に取り、まじまじと眺めながら言った。見ている目つきからすると、買うつもりはさらさらなく、暇つぶしに触っているだけなのだろう。店主もそのことは気づいているだろうが、やさしく対応してくれた。
「まぁ、あんたら都会者から見たら、こんな所はど田舎ですわ。でも、こんな所でも昔はけっこう活気があったんですよ。フルブールきっての漁師町でいつもお祭りのようでしたからねぇ」
「なにかあったのですか?」と、ティルが聞くと、寂しくなった自分の頭を手で撫でた。
「原因は色々とあるんですが、ここティエローニは都市開発に乗り遅れた町なんですわ。ほら、ここからじゃ都心からかなり離れているでしょう。都市開発に乗り遅れたのもそのせいですわ。それに、ここより都心に近いところに新しい港町が出来てからは、需要は全てそちら側にいってしまったんですわ」
「全部吸い取られちゃったわけやな」
「あんたの言うとおり、ほんとそうですわ」
愛くるしいその瞳を細め、笑った。
「まぁあんなのが来てからは、ここも活気がなくなっちまったんですわ」
店主はどこか遠くの方を見つめながら言った。
「あんなのとは?」
ラビーは聞いた。
「ああ、あんたらは知らないだろうけど、この辺を統括しているフォーボーンというヤツがおってな。どうも軍人の者らしくて、フォーボーンが来てから町にはちらほらと軍人たちが見えるようになったんですわ。そしたら、その軍人たちが権力を振りかざして、町で暴力やらなんやら好き放題やらかしているんですわ。いくらお上に申し立てても門前払いされるし、歯向かうと公務執行妨害で捕まっちまう。いわゆる圧政ってやつですかい?フォーボーンが来てからは町は滅茶苦茶ですわ」
「やっぱおるんやな。そーゆー悪代官みたいな輩が」
店長は垂れ下がった頬を持ち上げ、笑った。
「悪代官か。それは違いないな」
「そのお方は今この町におられるのですか?」
ティルが聞くと、店長はかぶりを振った。
「いんや、フォーボーンは森の奥の方にあるどでかい別荘に住んでおるよ」
「町がこんなんでも、自分はええとこに住んでるわけやな」
店主は頭を手で撫でた。
「一度見たことがあるけど、あれはかなり豪華な別荘でしたわ」
この話にティルが少し興味深そうに目を輝かせているのを見たシークは、念のために「別荘には行かないぞ」と、言っておいた。別荘を見るだけのために森の中を歩くのは正直めんどくさい。
ティルは「大丈夫です」と、返してきた。どうやら森の中を散策することはなくなったようだ。
店長は何か気づいたように老眼鏡をしっかりと掛け直し、店の中から身を乗り出し、ティルの顔をまじまじと眺めた。
「な、なんですか?」
ティルは少し身を引いた。
「お嬢さん、変わった目をしてるねぇ」
この発言にラビーは引っかかり、顎先に手を添えながら考え、ぶつぶつと独り言を言った。
「あれ、たしかさっきあたしのことあんた呼ばわりしてたっけ?なんでこのコスプレ少女にはお嬢さんなん?」
考えるラビーにミツルが後ろからそっと助言した。
「ラビーのことはお嬢様って言ってたよ」
「ほんま?そうや、そやな。あたしがこんなコスプレ少女なんかに劣るわけないもんな。あたしは世界最強の美少女やもんな」
ラビーはご機嫌に手に持っている果物を宙に投げた。さすがミツルである。ラビーの扱いには日ごろから慣れているだけのことはある。本当はさっきラビーのことを店主はあんた呼ばわりしたのだが、そのことが知られれば、キレるのは目に見えている。
「お嬢さん、どこから来た人なのかい?」
店長は興味深そうに聞いた。
「リオルからです」
「リオルからかぁ。ふむ、綺麗な目をしてるねぇ」
店長の黒い瞳にティルの青い瞳が映っている。
「あの、私の目はあまり見かけないものなのですか?」
今度はティルが聞いた。
「私は長年生きてきてるが、世界中を見てきたわけではないからねぇ。私が知らないだけかもしれない」
「じゃあ、私のように青い目を持った人をお目にかかるのは?」
店長は自分の頭を手で撫でた。どうやら、何かを思い出すときに頭を撫でるのが癖なのだろう。頭の奥深くから特定の記憶を引きずりだしているように見える。
店長は首を傾げた。
「見たことはないねぇ」
どうやら頭の中にはなかったらしい。
「おら!小娘!どこ見て歩いてんだ!」
すると、店に向かって右の方向から、大人の怒鳴り声が聞こえた。シークたちはすぐにその方を向いた。店主も見えるように店から身を乗り出した。
そこには軍服を着た軍人らしき男が地面を睨めつけている。その地面には無地のワンピースを着た少女が尻餅をついて、男を仰いでいる。
「またあいつらか」と、店主は眉間に皺を寄せた。
「あれが例の軍人さん?」
ラビーが男の方に指を差し、そう言うと、店主は慌てた形相で何度も頷いた。
「そうさ、あんたらも絡まれないようにさっさと逃げるといい」
そう言って店主はさっさと店の中へと退散していった。
「おら!小娘!さっさと謝らんかい!」
「ご、ごめんなさい・・・」
怒鳴る男にすっかり怯えた少女は涙で顔がぐしゃぐしゃになっている。少女は震える口で何度も謝るが、許す気配を見せない男は怒鳴り散らしている。そして、男は少女の髪の毛を鷲掴みにし、男の目線と釣り合わせるようにに少女を引き上げた。この光景に見兼ねたティルはめずらしく眉を吊り上げた。
「なんてことを。私、止めに行ってきます」と、ティルがそこへ向かおうとすると、手首を掴まれた。咄嗟に振り向くと、手首を掴んでいるのはシークだった。なにやら険しい顔をしている。
「な、なんですかシーク?」
「やめとけ」
素早くそう答えた。
「え?」と、聞き返すと、今度はしっかりと聞こえるようにゆっくり言った。
「やめとけと言ってるんだ」
「な、なぜです?」
「俺の任務は護衛だ。あんたの身に何か危険を及ぼす行動は俺が許さない。それがあんたのだとしてもだ」
「じゃあ、あの子を見捨てろというわけですか?」
「見捨てるんじゃない。元々関係のない人物だ。助けたところでなにも得はない人物なんだ。だから助ける理由もない」
「人を助けるのに理由なんていりません!」
ティルは声を荒立て、手首を掴むシークの手を振りほどいた。感情的になっているのか、拳はぎゅっと握り締められていて、肩で呼吸をしている。
「人を助けるのに、理由なんていりません」
もう一度そう言い、ティルは足早に男の下へ向かった。その跡を追うようにして、シャーロンとレオルドが男の下へ向かった。シークは額に手を当て、ハァとため息をついた。
「おら小娘!痛いか?なら泣き叫んでみろよ!誰も助けてくれねぇがな!」
男は少女の髪の毛を掴みながら、空に高らかと笑った。
「やめてください!」
その一声により、男の視線はティルの方へと向けられた。めずらしく強張った表情をして、しっかりと大地を踏み締め、佇んでいる。後ろにはシャーロンとレオルドが並んでいる。
男は首を傾げながら、ティルの体を上から下までじっくりとなめまわした。
「なんだぁ?あんたら?」
ティルは片足を一歩前に踏み込み、その勢いに乗せて、口を開いた。
「その子を離してください!」
男は視線を一旦少女の方に向けた。そして、ティルに向き直したかと思うと、再び高らかと笑った。
「面白いお嬢チャンだねぇ!離してください!こりゃ傑作だ!」
「その子が嫌がってるじゃないですか!早く離してください!」
男は笑うの止め、視線を地面に落とした。そして、視線をゆっくりと這い上がらせ、ギラリとティルを睨んだ。
「お嬢チャン。俺はうるさいのが嫌いなんだよ。それに俺を誰だと思ってるの?この服が分からないの?軍人よ。軍人」
「貴方が何者でも悪事が許されることはありません」
男はその場で考えるそぶりを見せ、
「悪事ってことは、俺のことを悪人呼ばわりしたってことだよねぇ」
そして、ニヤリと笑った。
「俺傷ついちゃったなぁ。名誉毀損よ。これは。お嬢チャンには少しお仕置きをしてあげないとね」
男は少女の髪の毛を離し、少女は地面に落っこちた。男はそのままティルへと近づこうとすると、後ろにいたシャーロンとレオルドがティルの前に踏み出し、体を使って男を通せんぼした。
「な、なんだよ?」
男はレオルドを見上げた。背の低い男はレオルドを見上げる形になってしまい、その光景は明らかに弱者と強者の関係を表していた。
「私たちはただの従者ですよ」
レオルドは男を見下ろし、ニッコリと笑った。
「うるせぇ!邪魔するな!」
男が拳を振りかざし、レオルドへと拳を放とうとしたが、強い力で腕が押さえ込まれていて、動かなかった。男ははっと横を向くと、シークが男の腕を片手で掴みながら、蛇のように男を睨んだ。
「な、なんだよ・・・」
男は蛇に睨まれた蛙のように怯えていたが、声を荒立て、続けた。
「お前ら分かってるのか?俺は軍人なんだぞ!こんなの公務執行妨害だ!」
「関係ないな」
シークは小さくそう言った。「え?」と、男が聞き返す前にシークは続けた。
「お前が誰だろうと関係ない。俺の依頼人に危害を加える者は誰だろうと俺はそいつを殺す。お前は死にたいのか?」
シークの問いに男は答えようとしなかった。軍人ともなれば、死の一線など何度も見てきたことだろう。男もこのシークの問いに死の一線を感じ取ったに違いなかった。
シークは男の腕を放し、「失せろ」と、睨んだ。男は「お、覚えてろよ!」と、なんともみっともない捨て台詞を吐き捨て、足早に退散していった。「おやおや、なんとも格好悪いことですか」と、レオルドがダメ押しの一言を言った。
ティルはすぐに少女の下へ駆け寄り、地面に座り込んでいる少女と同じ目線になるように身を屈め、肩に手を置いた。
「大丈夫ですか?」
少女は体をひくひくさせ、目に涙を浮かべてはいるが、泣き声をあげたりはしていなかった。少女はコクリと頷いた。
「あ、ありがとう・・・・・・」
少女は小さくそう言った。
「いいのですよ。それより立てますか?」
ティルの手を借りてもらった少女はゆっくりと立ち上がった。
「貴方のお名前はなんですか?」
「ピピ・・・・・・。お姉ちゃんは?」
「私のことはティルとお呼びください。それよりピピ。辛い目の遭いましたね」
「うん・・・・・・。怖かったよ・・・・・・」
少女はそう言い、ティルの懐へ飛びついた。ティルはそれを快く受け入れた。
シークは少女を見下ろしたとき、ふらりとくるめまいとともに、1つの光景が頭の中に差し込んできた。腕の中に眠り込む少女。そして、頭の奥底から這い上がってきた女性の声が聞こえた。
(その子を連れて逃げなさい!)
「大丈夫?」
ミツルがシークの顔を覗いた。シークは額に手を当て、映像が吹き消すように頭を左右に振った。
「大丈夫だ。少しめまいがしただけだ」
「めまいってのはやばい病気の予兆って言われてるらしいな」
ラビーがそう言った。シークはキッと睨み「何が言いたい?」と、聞くと、ラビーは「別に〜」と、そっぽを向いた。
「おーいピピ。ここにいたのか〜」
すると、町の住民だと思われる男が1人こちらに走ってきた。その声に反応したピピは飛び跳ねるようにティルから離れた。
「ディバインおにいちゃんだ!」と、先ほどまで怯えてたのを吹き飛ばすほどの元気でディバインおにいちゃんと呼ばれた男に向かって、大きく手を振った。
男はこちらまで走ってきて、手を腰に添え、息を整えた。上下揃った作業着のような服を下はしっかりと履いて、上は着ないでそのまま腰から垂らしている。上には無地のタンクトップを着ていて、額には迷彩柄のバンダナ。体は筋肉質で、日焼けをしているせいか、全体的に黒い。野生児と言うにはもってこいの男だ。
「まったく、探したぞぉ。急に走ってどっかに行っちまうんだから。心配したんだぞぉ」
「えへへ」と、ピピは舌を出した。
この男の私生活はどんなものかは知らないが、ピピに対するこの男の声色からして、子供好きだと分かる。そのでなければ、この風貌からこんな声色はギャップがありすぎる。
「グンジンさんにいじめられてたけど、ティルおねえちゃんたちが助けてくれたんだよ」と、ピピはティルを紹介した。
「ティルおねえちゃん?」と、男は先ほどの軍人同様にティルを上から下へとなめまわした。視線をティルの目へと向けると、男はニカッと笑った。
「いやぁピピを助けてもらってありがとう。俺はディバイン・クローク。あんたたちはここらで見たことがないが、例の飛空船の乗客かい?」
ティルは頷くと、ディバインは西へ降りようとする太陽へ目をやった。
「列車の時刻にはまだ時間があるな」
ディバインは向き直り、
「ピピを助けてもらった礼がしたい。どうだ?列車が来るまで、あんた俺の家に来ないか?」
「おいでよティルおねえちゃん!」
ティルを家へと誘うディバインとピピとは裏腹に、気の乗らないシークは口を開いた。
「断る」
「ん?」と、ディバインはシークの方を見る。
「お生憎だが、今は護衛任務中なんだ。ティルを1人で行動させることは出来ない。あきらめてくれ」
名目上護衛任務としてはいるが、実際はこの男の家などに行きたくないだけなのだ。この町の家ならば、どうせ高が知れている。それなら、飛空船のゴールドルームの方がよっぽどマシである。
「護衛任務ってことは、あんたら傭兵か?」
ディバインの問いにラビーは胸を張って答えた。
「フリーディアのパラディンや」
「そりゃすごい」
「だから―――」
無理だ、と言いかけたとき、気が付くとピピがこちらを見上げていた。
「おにいちゃんも来てよ!」
ピピはそう言い、ディバインの方を振り向き、続けた。
「このおにいちゃんにも助けてもらったんだよ!」
ディバインはニカッと笑った。
「決まりだ」