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プロローグ
何にでもなれると思っていた。
外でベースボールをして遊ぶ子らとは目も合わせず、まっすぐ家に帰って自分の部屋のカーテンを閉めドアに鍵をかける。
学生の頃の俺は、シェイクスピアの悲劇を演じることに夢中だった。
学校の宿題は授業中に済ませるのはこの為で、決して周りが言うような「つまらねぇヤツ」ではなかった。
でもそんなことをわざわざ話して聞かせる必要もないと思ってた。
一度本を開けば、俺は俺じゃなくなる。
この肉体に別の魂が宿ると、本気で信じていた。
「この世は舞台、男も女もみな役者だ」
物語の中の登場人物たちのように、心がヒリヒリとあつく燃えて、怒りも悲しみも喜びさえも超えて、あんな満ち足りた顔をしてみたい。
あわよくば、それを見て昔の自分のように心を震わせる人がいてくれたら、その時初めて俺の人生に意味が見いだせる。
そう、あの日見た、煌々と輝く瞳。
命を燃やして別の誰かの人生の一幕を懸命に生きるあの人のように、いつか俺も−−…。