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4.風隼星華

風隼(かぜはや)星華(ほしか)、彼女のこれまでの人生はただただ普通、あるいは平凡といった言葉が似合うものだった。

両親も普通、一般家庭で特に目立ったところはない。

父はサラリーマン、母は専業主婦、兄弟姉妹は無し、裕福でも貧乏でもない本当にどこにでもあるような家庭だ。


「だったんだがな・・・。」


星華の目の前には立派な門と広大な土地。

私立黒白学園、上流家庭の子息、令嬢が通う有名な名門校。

そして唯一、人間と吸血鬼の両方が通える学校である。

一応、一般家庭の人間や吸血鬼にも門戸が開かれているが、学費もかなり高く進んで入ろうとするものはかなり少ない。

他の名門校から編入するなどはありえるのだが、全く縁のない学校からというのは珍しい方だ。


「まさか、あたしがここに入ることになるとはな・・・。」


普通、平凡といった人生を歩んできた星華に転機が訪れたのは今年に入ってから。

つまり三ヶ月前、彼女の人生は目まぐるしい勢いで変わり始めた。




「出世?急に?」

「そうなのよ。色々おかしいわよね。」


今年に入ってすぐ、父親が出世した。

父親は優秀ではないが、仕事をきちんとやる人ではある。

しかし、係長から課長へ昇進するならともかく、それを飛び越して部長とは異例だ。

母親はおかしいと言いながらも喜んでいるが、あたしは裏に何かあるのでは、と疑ってかかってしまう。

そんなフィクションにありがちな展開は滅多にないだろうとは分かっているのだが。


「今夜はお赤飯ね。」


おかしくないか、と突っ込む前にそう話を打ち切られ、あたしは口を噤んだ。

喜んでいる母親に水を差すのは無粋だな、とも思って。

当の父親も不自然だと感じているが、断ることも出来ずに結局話を受け入れた。

それからすぐ、あたしにも転機が訪れた。


「黒白学園?」

「あぁ、社長に勧められてな。推薦枠が1つ、空いているんだそうだ。」

「空いてるって、あの人気校が?」


見目が整っている男女が多い、優秀な人材を輩出している、制服がかわいいなどの理由があるからなのか、黒白学園は人気校だ。

最も一般家庭から入学しようと思うものはほとんどいないだろう。

縁がないと学園ではやっていけないという噂があるのだ。


「元々、社長の知人の子のものだったんだそうだが、家庭の事情で黒白学園に通えなくなってしまったそうだ。」

「それで、あたしに?」

「この時期になって、推薦がダメになったでは色々とまずいらしくてな。興味があるなら、行ってみないかと言われた。」

「でもな・・・。」


この時期に急な進路の選択肢が現れた。

別に特別頭がいいわけでも、悪いわけでもない平凡な成績。

普通に友達と一緒の高校を受験して、平凡な高校生活を送る予定だった。


「学年で一番になれという条件はないらしい。もちろん、ある程度の成績をキープする必要はあるけどな。」

「・・・分かった。」

「助かるよ、星華。」


社長から勧められては断り難いだろう、と少し考えて話を受けた。

父親が礼を言ったところから予想通りだったようだ。

少々、呑気なところがある母親はあたしが名門校に通うことを素直に喜んでいる。

通う本人であるあたしは不安だ。

そんな気持ちを抱えながら、担任やクラスメイトに驚かれ羨ましがられながら中学を卒業。

無事に合格し、色々と入学の準備をするだけで春休みはあっという間に過ぎていった。



「風隼星華さんですね。」

「はい。」


校門が開いたところで星華を待っていた男性、錦の父親であり理事長の秘書(お守り役)を務める白鳥(ひとし)だった。

星華は返事をし、頭を下げた。


「校舎まで案内します。乗ってください。」


平は星華をエスコートし、車へ乗せると校舎へ向かって発進した。

星華は慣れないことに居心地悪げにしながら窓から景色を見る。


「風隼さんは寮に入る予定でしたね。」

「は、はい。」

「荷物は既に届いていて、寮の部屋に運ばれています。入学式後、寮まで案内しますね。」

「ありがとうございます。」


全寮制ではない黒白学園だが、寮暮らしをする生徒が大多数だ。

そのほうが通学がしやすいのが理由である。

そして、一部の生徒は学校の敷地内に屋敷を持っている。

潤也と蒼空もその一部であり、あの屋敷は2人が建てた屋敷である。

父親の金で建てるのは癪だからと、ポケットマネーを元手に株で稼ぎ、元手は父親に返金した上で建てたものである。

そのため、2人の理事長も2人がそこで暮らすことにとやかく言えないのだ。

閑話休題、校舎に到着し平はそこで車を止める。


「風隼さんが通う校舎はあの校舎です。」


白い校舎と黒い校舎の間に挟まれたグレーの校舎を指差し、平は言う。

クラスは既に通知で知らされているため、問題はない。

星華は車を降り、平に礼を述べて頭を下げた後に校舎へ歩いていく。


「礼儀正しいお譲さんだ・・・あの理事長共に爪の垢煎じて飲ましてやりてぇ。」


敬語を崩し、憎々しげにいう平。

白鳥家は側近の中でも長く両家に仕えていることから、何かと苦労性だ。

親の代でも子の代でもそれは変わらず、それが遺伝子に組み込まれているのか白鳥家には白髪(はくはつ)のものが多い。

生まれつき色素の薄いアルビノではなく、ただ単に白髪で生まれてくるだけで身体は至って健康体だ。

平と錦も例に漏れず、白髪である。


「さて、あの理事長共、大人しく仕事してるだろうな?」


車を駐車場に止め、白と黒、両方の理事長室に顔を出すため、平は速足で歩き理事長室へ向かった。

ヒロインは男口調ですが、かわいい一面を持つ女の子です。

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