1.朝の風景
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「おはよう、蒼空。」
「んー・・・。」
私立黒白学園の敷地内にある屋敷の寝室、暁烏潤也はキングサイズのベッドの上で気だるげに自分の腕枕で眠っている恋人、梟無蒼空の耳元でそう囁いた。
吸血鬼らしく朝に弱い蒼空は潤也の胸板へ顔を埋め、起きようとはしない。
伝承にあるように太陽、十字架、教会、にんにくなどが弱点とする吸血鬼はいない。
いたとしても、苦手なものとして上げられるぐらいで生死に関わるものではないのだ。
蒼空の朝に弱いのもそれである。
「起きよう、蒼空。」
「んんっ。」
毎朝、ベッドから出るのに時間がかかるため、出席日数に響かない程度に学校を休むこともあるほどだ。
潤也は特別蒼空に甘いため、布団から無理矢理出すようなことはせず、布団の中で微睡んでいる内に2人揃って二度寝をしてしまうのがいつものパターンである。
「そーら。」
「んぅ・・・。」
「学校。」
「めんどー。」
やっと目を開けたものの、まだ微睡の中にいるようで間延びした甘い声を出す。
ぐりぐりと潤也の胸板に額を擦り付けるようにして甘える蒼空。
潤也はふふっと笑いながら、蒼空の頭を撫で、顔を上げるように言う。
顔を上げた蒼空の額、続いて瞼、鼻、頬、最後に唇へ口付ける。
「ほら、蒼空。」
「潤也。」
「今日は学校に行こう。」
「・・・ん。」
少し考えて頷いた蒼空はギュッと潤也に抱き着く力を強くする。
潤也もそれに応え、蒼空を抱きしめ返す。
2人は満足したところでベッドから起き上がり、ベッドの下に散らばっていた寝間着と下着を回収しながらバスルームへと向かった。
「今日、何かあったっけ?」
「入学式だよ。」
「ほとんどメンバー変わんない。」
「外部生がいるだろ?」
「関係ない。」
「まぁね。」
私立黒白学園、それが2人の通う学校である。
幼稚舎から大学院まであるエスカレーター式の広大な敷地を持つ学校で主に吸血鬼の上流家庭の子息や令嬢が通っており、本当に一部だが吸血鬼、人間の一般家庭の生徒も存在している。
吸血鬼と人間、どちらにも影響力を持つ名門一家「梟無家」と「暁烏家」の初代当主が設立した学校で代々の当主が理事長を務めてきた。
つまり、この学園には2人の理事長がいるのだ。
切磋琢磨してきた両家はいいライバル関係を築き、互いに苦手なところをフォローしながら学校を経営・運営してきた。
しかし、現当主であり現理事長、つまり蒼空の父と潤也の父は幼い頃に出会った時から何かと張り合い、競い合い、それは現在でも続き、蒼空と潤也が中二の時、ついに学園が真っ二つに割れた。
梟無家の白と暁烏家の黒、両家の持つイメージカラーで管轄が分かれてしまったのだ。
校舎は暁烏家が管轄する黒の校舎と梟無家が管轄する白の校舎に分かれ、各学年に同じクラスが「1年1組(黒)」、「1年1組(白)」のように2つ存在している。
「面倒だ。」
「すぐ終わるよ。授業もないし。」
「ずっと潤也にくっついていたい。」
シャワーを浴びながらため息を吐いて蒼空は呟く。
潤也がそれを宥めながら蒼空の髪を洗う。
気持ちよさそうに蒼空が目を細めた。
「はぁ・・・。」
「学校でも一緒だから安心してくれ。」
「また、親父たちがうるさい。煩わしい。」
「うるさくしたら、また何か手酷く仕返ししてやろう。」
「・・・うん。」
この2人、自分たちの邪魔をするものに対して容赦がない。
それは身内にも適用され、特に自分たちの関係をうるさく言ってくる父親たちにはかなり辛辣だ。
自分の管轄内に息子を入れたい父親たちに対抗して、蒼空と潤也は自分たちの側近となる家柄の子息、令嬢を巻き込み、「黒白」という中立地帯を作った。
それまでどちらか一方に仕方なく所属していたもの、黒と白の対立に巻き込まれたくないもの、途中から入学してきた外部生などが所属しており、蒼空と潤也、側近4人によって守られているこの地帯はいくら理事長と言えども簡単に手を出せない。
息子たちからの仕返しが何かとえぐいからである。
一度、無理矢理引き離しにかかった父親たちは危うく自分たちが離婚させられる破目になった。
2人の仲を認め、祝福している母親たちが父親たちに条件をつけたのだ。
「2人を無理に引き離そうとしたら離婚する」、愛する妻と離婚することに耐えられない父2人はすぐに白旗を上げた。
そのため、父親たちはうかつに2人に手を出せないのである。
「ほら、上がるよ。」
潤也も髪と身体を洗い終え、シャワーを浴びながら待っていた蒼空へ手を差し出す。
蒼空がその手を取り、潤也がエスコートするようにバスルームを出た。
お互いに身体を拭き、下着を履いたところで蒼空にバスタオルを羽織らせ、脱衣所の椅子に座らせてドライヤーで髪を乾かしていく。
アッシュグレーの猫っ毛を丁寧に梳かしながら、そのふわふわの感触に潤也は思わず微笑む。
鏡越しに見えていた蒼空が、ん?と首を傾げた。
「潤也?」
「いや、相変わらずふわふわだなと思って。」
「ハネ易いから嫌だ。」
「丁寧に梳けば大丈夫。」
「面倒。」
「俺がやるから。」
粗方渇いたところで潤也は自分の髪を乾かし始める。
蒼空はその間に制服に着替え、じっと潤也を見つめる。
「何?」
「潤也のほうが髪、羨ましい。」
「そう?」
「黒くて直毛で。」
「何の面白みもない髪だと思うけど。」
「潤也の髪、好き。」
「髪だけ?」
「もちろん、潤也も。」
「蒼空・・・。」
ドライヤーを置き、潤也は蒼空を抱きしめる。
蒼空も微笑みを浮かべ、潤也の首に手を回す。
こうして朝から仲睦まじい交流が繰り返されるため、学校を休むというのがもう一つのパターンである。
2人だけの世界に入った彼らがキスを交わした時だった。
「そこまで!てめぇら、入学式の日までその調子で休むつもりか!」
「「錦。」」
「文句もてめぇらのえぐい仕返しも受けつけねぇ。さっさと準備しろ!」
止めに入ったのは2人の幼馴染であり、将来的に側近の一人となる存在、白鳥錦。
2人を止めることの出来る数少ない一人である。
何かとやりたい放題の2人をフォローすることが多い苦労人である。
「分かった、行く。」
「潤也。」
「学校から帰ってきてからね。」
錦には冷たい声で返し、蒼空には特別優しく甘い声で言う。
蒼空は一度ため息をついて、頷いた。
「潤也、早く服着ろ。」
「分かってる。」
「蒼空はもう着てるな。なら、こっちに来てろ。」
「えー。」
「一緒の空間にいたら、また盛るだろ!てめぇら!」
「盛るなんて言い方するな。愛する人と一緒にいるなら、むしろ健全だろ。」
「てめぇらは時と場所を選んでいない時点で発情期の獣と同じだ。」
「失礼な。」
「いいから、早く制服着ろ。」
会話するのに疲れたと言いながら、未だに不満げな蒼空をベッドルームへ引っ張ってくる。
蒼空に鞄を持たせた後、バスルームから出てきた潤也にも鞄を持たせ、2人を引っ張って玄関ホールへ下りる。
そして、玄関前に待たせていた錦が乗ってきた車へ2人を乗り込ませた後に自分も乗り込んだ。
敷地内と言えども校舎までは少し距離があるために車で移動することが当たり前である。
「はぁ・・・。」
「朝から随分と疲れてるな。」
「てめぇらのせいだ、てめぇらの。」
学校に行くときは大体、このパターンが多い。
お互いのことにしか興味を持たず、それ以外はどうでもいいと思っており、うるさく煩わしいものは滅べ、を地でいっている2人を学校に連れて行くのは錦にとってかなりの重労働だ。
錦は再び長いため息をつき、痛むような気がする頭に手をやる。
自然とまたため息が出た。
説明が多かったかもです。
散らかった文になってしまったような気がしますが、ここまで読んでいただきありがとうございます。