表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/11

第9話「逃亡勇者と姫さまの『履行宣言』」

「よくぞ無事で戻った、アリア!」

「お父さま!」


 王都についたのは、その日の夕方。

 そのまま城の謁見の間に通された俺とアリアを迎えたのは、初老の男性だった。


 白いヒゲを生やして、頭には王冠をかぶっている。

 あれが王様、アリアの父親か。


「そして、よくぞアリアを連れ帰ってくれた、勇者よ」

「……どうも」


 それ以外にセリフが出てこない。

 まわりは鎧とかローブ着てる人ばっかりだし、中世ファンタジー世界にふさわしい言葉なんかわからないし。転生したばっかりの異世界人に、気の利いたセリフを要求するのは無理だよな。


「お父さま。覚えていらっしゃいますか、アリアがさらわれた後、国中に出されたというおふれを」

「ああ、覚えているとも。アリアを助けたものを、アリアの婿とする、であろう?」

「はい。それでは、コーヤをアリアの旦那様にしてください!」

「それはなしで」

「………………は?」


 アリアの表情が固まった。

 俺だってびっくりだ。


 え? そういうおふれが国中に出てたよな。俺も羊皮紙が貼ってあるの見たぞ。

 それなのに、どうしてまわりの人は平然としてるんだ? 王様が約束をチャラにしようとしてるのに?


「お、お父さま!?」


 アリアが俺の隣で立ち上がる。

 にらんでる相手は王様と──その隣にいる王妃さまだ。

 王妃様は小さな少女の手を握ってる。あれがアリアの異母妹か。


「話が違います! お父さまは、アリアがいらないのではなかったのですか!? だからアリアを報酬にして、勇者さまを集めようとしたのでは──?」

「状況が変わったのだ。アリア」


 王様は「わかってないな、こいつ」って顔でため息をついた。


「お前は勇者とともに魔王城から戻ってきた。しかも、ただ助けられただけではなく、その知識で勇者を助け、辺境ではともに魔将軍を退けた。そういう報告が入っている。それに間違いはないな?」

「……それがどうかしましたか、お父さま?」

「お前たち2人を結婚させるのは、もったいないのだよ」


 王様は俺とアリアを見据えて、言った。


「アリアと勇者は常人には不可能なことをなしとげたのだ。そこまでの実績を上げた者同士を結婚させて、国にどんな得がある? それだけの価値がある者たちならば、それぞれ別々の相手と結婚させれば、利用価値は2倍になるではないか。勇者はスーリア──お前の妹と結婚させて、お前は他国の者と縁づける。それが政治判断というものだ!」

「な……?」


 アリアは絶句した。

 震えながら、唇をかみしめてる。


 …………へー。

 ………………ふーん。

 ……………………そういう奴か、王様。


 だったらこっちも、遠慮する必要はねぇな。


「悪いが王様。それは話が通らない」


 俺は立ち上がり、アリアの手を握った。


「アリアと俺はもう、話をつけてある。それに、国中にだしたお触れを反故にしたら、国民にも示しがつかないんじゃねぇか?」

「反故にするわけではない、スーリアを与えると言っている」

「俺はそれを望んでいない」

「お前は異世界から来た者というではないか、そんな者が、このナルンディア王家と縁続きになるのだぞ。これ以上の厚遇がどこにある?」

「俺はアリアをもらうって決めたんだ」


 王宮全体に響き渡るように、俺は宣言した。


「アリアはかわいい。かしこい。すぐに照れるのも気に入ってる。小さいけど母性を感じるし、その包容力は他の姫君なんか相手にならないほどの価値がある。それにアリアは魔王に対して一歩も引かなかった。俺はそんなアリアをもっと知りたいと思ってる。今のところわかってるのは、アリアが可愛いってことと、肌がすべすべしてるってことと、足の付け根に十字のほくろがあるってことで──」

「わ──────っ!」


 アリアが俺の両肩を掴んで、変な叫び声を上げた。


「やめてとめてだめです、コーヤっ!」

「なんだよアリア」

「そ、そういうこと人前で言ったらだめでしょう! コーヤっ」

「一番無難なところを言ったつもりだけど」

「コーヤだって! 胸の下に小さなアザがあるじゃないですか!」

「あれは小学生のとき、ブランコから垂直ジャンプして、そのまま落下してぶつけた跡だよ。別にどうでもいいだろ? お風呂のとき、うれしそうになでてたアリアがおかしいんじゃないか!?」

「アリアしか知らないコーヤの印だって思ったら、うれしかったんです! コーヤだって、アリアの胸とお腹をさんざんなでたじゃないですか!?」

「洗っただけだろ! じゃあアリアはなんで、俺の背中を洗うとき、胸を押しつけてたんだよ!?」

「そ、それは、好きな人の背中はそういうやり方で洗うと、幼なじみが言ってたから……」

「その幼なじみを呼んでこい話がある! ちっちゃい子になに教えてるんだ!」

「ちっちゃい言わないでください。アリアは、コーヤの子だって産めるんですから!」

「でも、まだ試してないからな!」

「試せばいいじゃないですか!」

「それはアリアの領土に行ったあとのことだって言っただろ!?」

「行きましょうよ! いますぐ行きましょう!」

「よっしゃ表に出ろ!」


 俺はアリアの、アリアは俺の手をつかんだ。





「お前たち、ここをどこだと思っておるのだ──っ!」


 王様の絶叫が、玉座の間に響き渡った。

 うっさい、今とりこみ中だ。


「お、王の目の前で、なにをいちゃいちゃしているのだ、貴様らは! いちゃつきたければその前に結婚しろ!」

「「え、いいの!?」」

「許さぬ!!」


 どっちだ。


「お前らの行いを問題にしているのだ。余が触れを出したのは、勇者となる者を集めるため。本気にする奴がどこにいる!?」

「ここにいるんだよ。王様」


 俺はアリアを背中にかばいながら、王様を見返した。


「言いたいのは、俺はアリアが欲しいって思ってて、アリアは俺にもらわれたいって思ってるってことだ。それだけなんだよ」

「(こくこくこく)」(真っ赤になってうなずくアリア)


 さぁ、どうする王様。

 こっちが言ってるのは100%正論だ。

 これをねじ曲げるのは、かなり無理がある。王様、臣下の前でどこまでできる?


「……よかろう。ならば勇者よ。貴様に機会を与えよう」


 王様が指を鳴らすと、臣下の間から、青白い甲冑を着た騎士が進み出てきた。

 女性の騎士だった。青色の髪を、ポニーテールにしてる。

 彼女は俺とアリアをちらりと見てから、玉座の間に敷かれた絨毯の前で膝をついた。


「この者は、王国随一の剣士、青銅騎士のディムニスである」

「ディムニスと申します。勇者どの、お見知りおきを」

「この者と戦って勝ったら、アリアとの結婚を認めてやろう!」


 王様は胸を反らして宣言した。

 おおおおおお──、っと、玉座の間がどよめいた。


「魔王から姫を取り戻した勇者と、青銅騎士との決闘!?」「これは見ものだ」「後生への語りぐさになるぞ」「吟遊詩人を呼べ!」

「どうだ勇者よ。儂は最大限の譲歩(じょうほ)をしておるのだぞ」


 確かに。

 この勝負を受けることに、俺はデメリットがない。


 勝てばアリアと結婚。負けても、まぁ、殺されはしないだろ。そうなったらアリアの妹と結婚することになる。俺の『完全逃走』スキルを使えば、相手が誰だろうと勝機はある。手元には聖剣ガラドがある。魔物を倒したことでレベルも上がってる。うん。悪くない条件だな。


「では聞こうか勇者よ! この決闘を受けるか否か! いかに!?」





 うける。

 ことわる。

>逃げる。


 俺は『絶対逃走』を起動した。






『勇者とアリア姫は逃げ出した!』





────────────────────





「え………………?」


 玉座の間に残されたのは、目を点にした王様と貴族たち。

 全員が、ぽかーんと口を開けたまま、突如としてコーヤとアリアが消えた場所をじっと見つめていた。

 

 それから、右を見て、左を見て──

 2人が完全にこの場から消えたことを確認して、そして──




「「「「「「え──────────────っ!!!!!???」」」」」」





 全員そろって、玉座の間を震わせるほどの叫び声をあげたのだった。





玉座の間から脱出したコーヤとアリアが向かった先は……?

第10話は今日の夕方の更新になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作、はじめました。

「竜帝の後継者と、天下無双の城主嫁軍団」

うっかり異世界召喚に巻き込まれてしまったアラサーの会社員が、
正式に召喚された者たちを圧倒しながら、異世界の王を目指すお話です。
こちらも、よろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ