妖怪研究部 その一
こっくりさん、いや、狐原 由奈が転校してきたその日の昼休み。
狐原は、クラスのみんなの中心にいた。
「ねえねえ、狐原さんってどこからきたの?」
「えっと、遠くからですかね?」
クラスの女子からの質問に答えた弧原の言葉に、九鳥羽は「なんで自分のことなのに疑問系なんだ?」と思った。そんな弧原を囲んでいるうちの一人に、九鳥羽は声をかける。
「ちょっと弧原借りてもいいか?」
「いいけど、なんで私に聞くの?」
クラスの女子は、小首を傾げながら言った。
「OK。んじゃ、弧原ちょっときてもらってもいいか」
九鳥羽の呼びかけに対して、弧原は周りのクラスメイトたちに軽く手を振りながら
「おっけーです!じゃあみんな、ちょっと言ってきますね!」
その後、九鳥羽は一緒に廊下に出てきた弧原に質問した
「えっと、なんていうか、俺と君って会ったことある?」
九鳥羽の質問のこたえは、九鳥羽の予想どうりの答えだった。
「あるに決まってるじゃないですか!この間あなたの部屋であったじゃないですか。4人に色々されましたよ。もう忘れたんですか?」
弧原は、九鳥羽のことを心配するような声で答えた。だが、答え方が悪かった、廊下にいた生徒たちは
「転校生と部屋でイロイロ・・・」
「4対1で・・・」
「しかも忘れたフリ・・・」
「いや、ちょっと待て!!多分お前らが想像しているようなことはしてない!!てか弧原!お前、わざとああいう風に言っただろ!」
「いやいや、そんなことありませんよ。それより九鳥羽さん、何か私に用があるんじゃないですか?」
弧原は九鳥羽の言葉に少しふざけたような感じの声で返した。
「お、おう。お前がこっくりさんだったら、一緒に行きたい部活があってさ」
「へぇー。なんていう部活なんです?」
弧原がきくと、九鳥羽はなぜか自慢げにいう。
「妖怪研究部ってところだ。前から興味があったけどあまりの怪しさに手を出せなかった部活だ。だけど、2人なら安心だよ」
九鳥羽の言葉に弧原は顔をしかめたがすぐに元に戻って
「おっけーです!じゃあ、放課後に行きましょう!」
妖怪に会えるのが嬉しいのか、他に嬉しいことがあるのかわからないが、弧原は、上機嫌で言った。
「それじゃあ、そういうことで。そろそろ戻るか」
「そうですね!それじゃあもどりましょー!」
弧原は、満面の笑みを浮かべながらクラスに戻って言った。そのすぐ後に九鳥羽もクラスに戻ったが、クラスメイトたちの目線がいつもよりも冷たかったので、誰とも話さずに席に着いた。
その日の放課後、九鳥羽と弧原は妖怪研究部の部室を目指しながら歩いていた。
これは、その道中の雑談である
「そういえば、弧原って、こっくりさんできた時はタメ語だったよな?なのになんで今は敬語なんだ?」
「仕事のオンオフを切り替えるためです!あ、こっちからも質問しますね!なんで荒久さんは、あの時関西弁を使ってなかったんですか?」
九鳥羽は、驚いたような表情になり
「なんで荒久が、関西弁をいつも使ってるって知ってるんだ?」
「そりゃあ、こっくりさんですから!」
弧原は胸を張りながら言った。
「それで、なんで使ってなかったんですか?」
「ああ、なんか『標準語じゃないとこっくりさんに失礼やろ』とか言ってたな」
「逆にありのままの自分を出さないと私に失礼なんですけどね」
「そうなのか?」
「はい!やっぱり私の儀式って自分をさらけ出さないといけないですからね!」
「そうなんだ。今度荒久に言っておくよ。んじゃ、次俺が質問するわ。なんでこっくりさんっていろんな情報がわかるんだ?」
九鳥羽がきくと、弧原は少し恥ずかしそうにしながら言った。
「こっくりさんの能力です。こっくりさんは過去を見て、きかれた事にこたてるんですよ」
「へぇー、そうなんだな。それでなんで恥ずかしがってんの?」
「だって!能力とかいうの、恥ずかしくないですか!」
「いや、全然」
「・・・そうですか。まあ、男の子ですもんね!」
「おっ、見えてきたぞ」
「何がですか?」
弧原は小首を傾げながら言った。
「妖怪研究部だよ。ほら前に見えるだろ」
「はい、なにか見えますけど、アレじゃないですよね」
「残念ながらアレだ」
2人がアレというのは、『妖怪研究部』と書かれたお札が貼ってある教室で、ドアの上には『うぇるかむ』と書かれたアーチ状の看板がある。そして、ドアの隣には鮮やかな赤色をした木と、鮮やかな青色をした木があり、その木から甘ったるい匂いが出ででくるので、九鳥羽と弧原はその匂いに顔をしかめた。
「な、あまりにも怪しすぎるだろ」
「はい。すっごい怪しいです」
弧原は頷きながら言った。
九鳥羽は、一度深呼吸をしてから
「それじゃあ、行くぞ」
ドアに手を伸ばした。すると、ドアに手が触れる前に、ドアが開いた。九鳥羽と弧原は驚いた表情になったが、そのまま部室に入っていった。
「し、失礼します」
と九鳥羽。
「し、失礼します!」
と弧原。
そんな2人に返事をしたのは、パーカーを羽織った背の低い男子生徒だった。
「おっ新入部員スか。今の時期珍しいッスね。ねっ部長」
部長と呼ばれたのは、女子生徒だった。髪はオレンジがかった茶髪で、ふわっとしたロング。メガネをかけていて、胸が大きい。弧原が美しい系の美人だとしたら、この人は可愛い系の美人さんだ。
「え?新入部員?こんな夏休み直前に?」
と部長がいうと、さっきと違う男子生徒がこたえた。
「ああ、そのようだな」
こたえた男子生徒は、金髪の美形で外国人とのハーフのように見える。
「なるほどなるほど、じゃあ審査しなくちゃだね」
そういうと部長は弧原の目の前まで行き、弧原を色々な角度から見て
「うん、こっちの女の子は合格、じゃあ、次はあなたね」
と言いながら九鳥羽の目の前まで来ると、九鳥羽を色々な角度から見た。見終わると、部長は少し小首を傾げながら、右手を触り始めた。うーんうーんと唸りながら九鳥羽の右手を触っていた部長は、いきなり手を離すと
「君も合格!じゃあ、これから自己紹介を始めるわね。」
九鳥羽と弧原は、あまりの展開の早さについていけず、ポカンとしていた。
「それじゃあ、まずは、水谷君から」
と言われると1人の男子生徒が前に出る。出てきた男子生徒は、さっき九鳥羽と弧原が部室に入ってきた時に返事をしてくれた、パーカーを羽織った背の低い男子生徒だった。
「どうも、2年6組、水谷 水蔵ッス。漢字は、水着の水に谷間の谷、水場の水に蔵屋敷の蔵ッス。種族は、河童ッス。これからよろしくっスね」
九鳥羽と弧原は、自分の事を河童と言う先輩に、驚いたり目を輝かせたりしている。
「次は、ルシフェル君よ!」
次に前に出てきたのは、金髪の美形で、外国人とのハーフみたいな人だ。
「3年0組所属の山田ルシフェルだ。これからよろしく」
全く表情を変えないでしたルシフェルの自己紹介を、部長が捕捉する。
「この子はね、なんと!あの堕天使ルシファーの孫なのよ!いやーすごいよね」
部長の捕捉に顔をしかめたルシフェル先輩だったが、何も言わずに終わった。
「次は、雪野ちゃんよ」
雪野、と呼ばれて出てきたのは、黒髪ストレートで色白のどこか儚い女子生徒だった。
「こんにちは、私は2年0組の雪野 時雨ですわ。種族は雪女。これからよろしくですわ、後輩」
「よし、次は森さんね」
そう呼ばれて出てきたのは、黒髪がとても長い女子生徒だった。そのあまりにも長い髪の毛は、長すぎて森の後ろ1mくらいは伸びている。
「・・・森 貞子。一応3年0組にはいってる。種族というか私個人だけど貞子。これからよろしく1年生」
九鳥羽が予想していたよりも高い声で自己紹介をしてきた貞子は、九鳥羽と弧原を見てからテレビの中に入っていった。
「最後に私が自己紹介するわね。わたしは、伊上 桜。3年2組で、この部活の部長。種族は、人間です。これからよろしくね」
最後は、部長だった。ふわふわしているのに、どこか芯が通っている声で自己紹介してきた。
「じゃあ、次はあなたたちが自己紹介してね」
そう言われて、弧原から自己紹介する。
「私は、弧原 由奈です。1年1組で、種族は、」
とまで弧原が言ったところで、部長が割り込んできて
「こっくりさんでしょ、さっき見たからわかってるわ」
すごいことを言ってきた。
「え?なんでわかるんですか?」
弧原が驚きながらきくと、雪野が返した。
「部長は、相手を見るだけで種族をしることができるのですわ」
その後、九鳥羽を見て
「触る時は、その人に何かがある時ですの。うちの部活の中だったら、ルシフェル君が唯一触られたのですわ」
と、付け足した。
「じゃあ、俺は、何かあるんですか?」
九鳥羽がきくと、部長が答える。
「んー。今言うと面白くないなー。まあ、ヒントだけ言ってあげるね。空っぽのうちの一つ」
空っぽ?と九鳥羽が考えていると
「さて、1年生諸君!!ようこそ我が妖怪研究部へ。この部活は、何をするってわけじゃないけど、君たちみたいに何か持ってる人たちを集めて楽しいことしよう!って言うことを目的とした部活だよ。それじゃあ、6回目だけど、これからよろしくね、弧原ちゃんに九鳥羽君」