プロローグ「出会い、もしくは始まり」
明かりがロウソク一つしかない部屋で男4人が紙を中心に怪しげな儀式を行なっている。
「こっくりさんこっくりさん、おいでください」
4つの人差し指が置かれた10円玉がすすすっと動き出す。
『はい』
男たちが息を飲むのが分かる。
男の一人が一つ、質問した。
「こっくりさんこっくりさん、うちのクラスの山田透子の好きな人は誰ですか?」
『く、ど、う、は、る、せ、』
ものを聞いた男が静かに泣いているのが分かる。他の男達はその男を慰めたさそうだが、それをしない。なぜか。それは儀式中だからだ。
「こっくりさんこっくりさん、次のテストの数学の問題を教えてください」
次は別の男が質問した。
『(xy+2)(a+b+5r)(5√5)』
「こっくりさんこっくりさん、他にぐぉふぉ!」
他の男達がもう一度質問しようとした男に肘打ちをして止める。なぜか。それは儀式だからだ。
3人目の男が質問をする。
「こっくりさんこっくりさん、親にバレ無いエロ本の隠し方を教えてください」
『あ、え、て、わ、か、り、や、す、い、と、こ、ろ、に、お、く、と、い、い、た、と、え、ば、つ、く、え、の、ほ、ん、だ、な、』
この答えに反応したのは質問した男だけでは無い。4人の男全員がビクッと体を震わせた。だが誰も声を発しない。なぜか。それは儀式だからだ。
最後の男が質問をする。
「こっくりさんこっくりさん、あなたは何ですか」
『し、り、た、い、?』
「はい」
『じ、ゃ、あ、ち、ょ、っ、と、ま、っ、て、て、』
4人の男は、待つ、待つ、待つ。
何の反応もない...
「こっくりさんこっくりさん、まだですか」
『ち、ょ、っ、と、ま、っ、て、て、ち、ょ、っ、と、い、ま、』
次の瞬間ロウソクの上に人影が現れた。そのまま重力に従ってロウソクの上に落下した。
「あっつぅぅぅぅぅぅ!!!」
ロウソクの上に乗ったのでロウソクの火は消えてしまった。この部屋唯一の光源が、突然現れた人影によって消されてしまったので、真っ暗になってしまった。
「な、何だ!?」
真っ暗になって、何が来たのか見ることができない。だが明かりをつけることはできない。なぜか。それは儀式だからだ。
「え、なんで真っ暗なの?あ、儀式だからか」
女の声が聞こえる。多分現れた人影の声なのだろう。
「暗いな〜。もう明かりをつけてもいいよ」
「何言ってるんだよ!儀式の途中に明かりをつけちゃったら呪われちゃうだろ!あっ!」
儀式の途中で声を出してはいけない。出してしまったら呪われる。なぜか。それは儀式だからだ。
「大丈夫だよ、私がこっくりさんだから」
「はい?」
4人の声が重なる。そのあとしんとした時間が広がる。突然人影が現れたことにも驚いたが、その人影が自分がこっくりさんだと言い出すのだから仕方ないだろう。
「だーかーらー私がこっくりさんだから、明かりをつけてもいいって言ってるの!だから明かりをつけて!」
「あ、はい」
4人のうちの1人が立ち上がり明かりをつけた。
明かりをつけると4人の中心に女の子がいた。美少女だった。髪型は、茶髪のストレート。目は、くりっとてしていて髪と同じ色をしている。身長は目測160センチくらい。何より印象に残るのは尻尾。・・・尻尾。犬のような尻尾。なんでだろう。
「ねっ!ねっ!こっくりさんでしょ!で、質問したのはどの子だー?」
自称こっくりさんは、ここにいる男達を順番に見ていった。
「君かー?」
最初にこっくりさんは、朋屋新造を指差した。朋屋新造、夕陽高校1年5組の野球部。最初の質問をしたのはこいつだ。
「君は、あの山田透子さんの質問をした人だね。じゃあ君かー?」
次に指したのは、花田祐介。同じく夕陽高校1年2組の水泳部。この中では、1番頭がいい。
「違うねー。君は、数学の問題を質問した子だね。それじゃあ君かー?」
次に指したのは、荒久 土門。夕陽高校1年6組の美術部。いつも18禁ギリギリの絵を描いている。
「君も違うなー。じゃあ最後に残った君だね」
最後に指したのは、九鳥羽 暁。夕陽高校1年1組の帰宅部。オカルトに少し興味がある、ごく普通の高校生だ。
「はい」
九鳥羽が答える。
「君はこっくりさんとは何か?って質問したよね。」
「はい」
九鳥羽が答える。
「その答え・・・私!君の目の前にいる私!」
そう言いながらこっくりさんは自分の胸を叩いた
「どお?どお?本物のこっくりさんを見た気分は」
こっくりさんに質問された九鳥羽は、頭を掻きながら言う。
「いや、なんか人間っぽいなーって」
「あーなるほど。まあそう見えるよね。でも私はこっくりさんだよ。ここら辺の3つの町担当のこっくりさん」
「はい?」
「私はね、夕陽町と朝日町と月世町を担当しているこっくりさん何だ」
こっくりさんの言葉に対して九鳥羽は、
「ちょ、ちょっと待ってください。こっくりさんって一人じゃないんですか?」
「うん、全国にこっくりさんは、百八人いて、私はその中の一人。百八分の一のこっくりさんなんだ」
「そ、そうなんですか」
「そうだよ。じゃあそろそろ私帰るね」
「は、はい」
「それじゃあ、バイバイ」
こっくりさんはそう言うと、来た時と同じように突然消える・・・・・ことはなく、普通にドアから出ていった。こっくりさんが帰った後も、男4人は、動けずにいた。
「こっくりさんって本当に居たんだな」
朋屋がポツリと言った。それに荒久が返事をする。
「ああ、いたんだな。何だか不思議な感じだったな。てかお前、山田透子の事好きだったんだな。知らなかったよ」
「すすすすす好きじゃねえし!?ちょっと気になってるだけだし!?」
「いや〜、みんなが聞いてるところで気持ちを告白するなんて、俺には真似できねえな」
「だから、好きじゃないって」
2人が話しているところに花田が割り込む。
「まあ、それは置いといて、マジで何だったんだろうな?こっくりさん。どう思う、暁。今日のこっくりさんは、お前の為にやったようなものだからな」
「うん、多分本物だと思う。いきなり現れたし、尻尾あったし」
「満足したか?」
「うん。こんな事でわざわざ俺ん家まで来てくれて、ありがとな」
九鳥羽の礼に3人は返す。
「気にすんなって。なあ荒久?」
「おう、そこそこ気になって居たしよ。なあ、花田?」
「ああ、なかなか体験できないものだったよ」
その3人の言葉に、九鳥羽は
「本当にありがとな」
「「「だから気にすんなって」」」
儀式が終わり、3人はそれぞれの家に帰る。みんなが帰った部屋の中で、九鳥羽は1人物思いを巡らす。
「こっくりさんか。なんかまた会いそうなんだよな」
まあ、気のせいか。そう思い九鳥羽はその事を気にせずに、1日を終えた。
次の日
「今日夕陽高校に転校して来ました、狐原 由奈です。気軽にユナちゃんって呼んでください」
九鳥羽のクラスに転校生が来た。その転校生、髪型は、茶髪のストレート。目は、くりっとてしていて髪と同じ色をしている。身長は目測160センチくらいだった。・・・そう、多分ほとんどの人は気づいているとは思うが、こっくりさんである。ただ、尻尾はない。他人の空似なのか、本人なのかは、分からない。ただ、次に彼女が発した一言は、九鳥羽の興味を激しくそそった。いな、このクラスの全男子の興味をそそったのだ。
「私は、夕陽町3丁目の告李山と言うアパートに住んで居ます。いつでも会いに来てくれて結構ですよ。みんな、友達になりましょう!」
狐原由奈の発言は、クラス全体に衝撃を走らせた。九鳥羽は、何かが起こりそうな予感を感じていた。