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シスコン騎士団長~国王の伴侶になった妹を護ります~  作者: シール


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3/11

通常業務です

 指名した侍女を後ろに従えながらしばし歩き、途中で衛兵(男)の一人にも声をかけて一緒に来てもらう。重いものがあった時に力を貸してもらうため、という建前で。

 何も知らない彼は優しい人だったみたいで納得すると心良く了承してくれた。まあ、上司に当たる人物の願いを断る配下はいないが……いい人だ。

 あの団長ももう少しこういう優しさを見せたらいいのに。なんて、衛兵を見てもうひとりの騎士団長のことを考えてしまった。

 彼は責任感が人一倍強く王に忠誠を誓った時から王に関するものすべてを護ろうと努力しているすごい人なのだが、そのせいで他人にも厳しいからいまいち人気がない残念な人。

 私のことも女の時点で王妃を護るに値しない人物だとか言って、よくその地位を降りろと突っかかってくる。断固拒否だけど。

 これからやることにも関係してくるが、この城内の問題を解決しない限りは私はこの職を降りようなんて思わない。口には出さないが、クロードさんはそのあたりをわかっていない。女性というのは、時に恐ろしい面があるのだから。

 王妃宮から大分離れたところにある私専用の騎士団長室………の隣にある個室に私は二人を招き入れた。

 入った二人からはいぶかしげな表情がでる。

 疑問に思うのはもっともだと私も思う。なぜならこの部屋は棚や机などの基本的な家具はあるが、それらはホコリは被っていてもなにかが置かれているわけではない。誰がどう見ても散らかっていない部屋なのだから。


「あの、女団長様。こちらは……?」


 片づけてほしいと頼まれてついてきた侍女はどうしたらいいか迷っていた。もう一人も同様に。

 だから、私はにっこりと笑顔を向けて答えてあげた。


「片づけたいのはこの部屋の奥のものでして。こっちに連れてきたんです」


「そうですか。では、どれを片づければよろしいのでしょうか?」


 役目があるとわかってほっとした侍女は次の指示を伺う。

 だから私にとっての「ゴミ」を教えてあげる。


「片づけるのはあなたですよ」


「え……?」


 意味を測り兼ねている侍女がキョトンとしているその刹那に、私は彼女との距離を詰め腰にさしていたレイピアを抜いて白く細い喉首へと突き出した。


「キャアッ…! 女団長様、なにを!?」


 侍女が突然のことに驚き、顎下に止められたレイピアに怯える。衛兵も戸惑いを見せたが待機の指示をだして黙らせた。

 ビクビクして涙目になる姿をみせられても私の心はちっとも揺らぐことはない、むしろ警戒心がさらに湧いた。

 怯える様子をみせたが、最初の驚きは恐怖からではなく何かがばれたような驚きの方が強かった表情だった。すぐに切り替えたことは称賛するが、遅い。


「隠しても無駄だ。お前は王妃に毒を飲ませようとしただろう、気づかないと思ったのか?」


 そう、この女は王妃に毒を盛ろうとしていたのだ。

 紅茶に混ぜて飲ませようとしていたらしいが、直前に私が気づいて注意を紅茶以外に向けて飲ませないようにした。口をつけているならともかく、まだ飲んでもいないのに数分ですぐぬるくなったような茶を王妃は飲まない。彼女は熱い紅茶が好きだから。

 王妃の好みを知っているのにすぐ冷めるような淹れ方をしたこの侍女は私にとってその時点で怪しい人物枠に入る。結果は睨んだ通りだった。

 気づいたからよかったものの、もしもを考えると恐怖で体が凍り付く。

 そんな恐怖を与えた相手を、私が逃がすわけない。


「な、なにをバカな……」


 侍女はしらばっくれ、誤解があると叫ぶ。そんな反論無駄なのに。


「カップに紅茶を注ぐときか? それとも紅茶自体か? 混ぜた毒のせいで湯の冷める時間が本来の茶葉より早くなっていたな。おまけに上品な香りが売りなのに毒のせいで香りを損ねていた。王妃はお優しいから気づかぬふりをしていたが。国の象徴である王妃が飲む紅茶の茶葉をそんな中途半端な商品として売りに来る輩はいない、ならば淹れていたお前が途中から何かを淹れたと仮定できる」


「そんなっ! なにかの間違いです。私が妃殿下を暗殺しようなどと考えるわけ……」


 もうそこまでで十分だ。

 それ以上の言い訳を聞きたくなくて、レイピアをさらに近づけて言葉を飲み込ませた。


「……うるさいわね。王妃を狙った時点であなたを許す気は私にはないの、言い訳述べたところで時間の無駄。それになんであなた暗殺なんて言葉が出てきたの? 私は毒と限定して話していたけど、紅茶を淹れる侍女ならみんな知ってるはずよ。あの茶葉は時に湿気で香りを変えてしまう管理が大変な種類だと。なぜ先にそのことが出てこなかったのかしら、侍女なのに」


 ハッと何かに気づいた表情の侍女。忘れていたか、それとも知らなかったか。唯一の言い訳を返さなかったことで彼女の逃げ道は一気に狭まった。


「そ………れは……」


 反論できなくなった侍女、それでもう決定だ。

 こいつは確信犯だった。


「すぐにでも処刑したいところだけど、洗いざらい吐くなら生かしておいてあげるわよ? そっちの不意打ちを狙ってるあなたも」


「…チッ!! 死ねっ!!」


 脅していたのは侍女なのに、背後にいた衛兵から盛大な舌打ちと罵声がでた。

 何故、と驚いている暇もなく剣を抜いて迫る敵は下から切り上げる体制で向かってきた。

 反転しレイピアを立てて防御の姿勢をとるのと同時に相手の剣がレイピアとぶつかった。ギン、と重い金属音が室内に響く。

 ぎちぎちと耳障りな音が鳴る。

 拮抗した力と力に衛兵は筋力でもって打ち勝とうとさらに力を入れてきたが、そんなものをまともに受ける気はさらさらない。ほんの少し、レイピアを傾けて相手の剣を滑らせると、面白いくらいに相手は前のめりにのけ反り力のやり場を失って大きな隙をつくった。そこをすかさずレイピアで急所を突き、とどめを刺した。

 たった数秒の出来事。

 そのわずかな間に、男の命は散った。

この男も仲間だったか。怪しかったので反応を確認ついでに連れてきていただけだったのだが、とんだ偶然だった。


「あ、ああっ……」


 あっという間に倒されてしまった男を見つめて侍女は怯えの色を濃くしたようだった。そんなに怯えるくらいならなんで狙われるようなことを行うんだろう? 私はそこがいつも不思議でならない。仕事だとしても、少し考えれば命の危険ぐらい回避しようと思えるだろうに。

 侍女はじりじりと後ずさりながら距離をとり、すぐさま逃げようとしたが唯一の出入り口のドアはなにかで抑えられているようにびくともしなかった。ガチャガチャと何度もノブを回すさまは実に見苦しい。


「……………。」


「ヒッ……」


 無言で近づいただけで言葉がでなくなってしまった侍女はあからさまに全身を震わせ怯えるが、それくらいじゃ私から情を湧かせることはできない。

 だってそうでしょう、どこに身内を殺そうとした奴を見逃す家族がいるの?

 この、自身の危険に恐怖する侍女はさっき、毒を盛った。王妃に笑顔さえ向けて。私のたった一人の家族を、殺そうとしたのだ。


「あなた、どこの所属? まだちょっかいかけたりないの?」


 そんな怒りも込めて、冷酷な口調と低い声で問うと、侍女はボロボロと涙をこぼしてお許しくださいと土下座した。


「わ、私は家族を人質に取られて仕方なく………仕方なくなんですっ!本心で行ったわけでは……」


「関係ない。王妃を狙ったこと、それ自体が重罪だと知っているはずだわ。誰だろうと許さない」


 命乞いする侍女に一切の情けなく言い渡す。

 誰が家族を殺そうとする他人を許そうと思うんだか。誰かに聞いてみたいわ。


「仮に、貴女が本当に脅されているのだとして、私と同じ立場にいてあなたは自分の大切な人を殺そうとした人を目の前にして許せるの? できるならすごい聖人ね。私にはとても無理だわ」


 今すぐにでも殺してやりたいくらいなのに、情報を手に入れるために未だ生かしてやってる時点で慈悲は与えてると思うのに。これ以上が欲しいというの? 欲深いにもほどがあるわね。

 こんなことがもう起きないように元凶も突き止めないといけない、ああ、本当に面倒くさい。


「どこからの差し金? 言いなさい」


 赤いレイピアを侍女の喉元までもっていき、いつでも刺せるという風をみせると観念した侍女はびくびくしながら命令した貴族の名前を出した。その貴族とのつながりはなかったらしく、脅されてという言葉には信憑性があった。

 名前を頭に刻み、あとで宰相に報告しようとまとめてからもう一つ聞く。


「それと、彼は身内? それとも監視?」


 死体を指して問うと、侍女は青い顔で「監視の者です」と答えた。

 なるほど、本気で怖がってる様子から嘘は言ってないとみえる。となると、彼女は本当に脅されていたのか。

 どっかの貴族が王妃の侍女を人質で脅し、毒を盛らせて命を奪い、罪は侍女に被らせる。そしてほとぼりが冷めたころに自身の娘を妃にと謙譲する……なんて考えたんだろうな。自分勝手に。

失敗したときは監視していた男に命じて侍女を殺させ、侍女の死をもって自分たちには関係ないことにしようと。そんな計画だったのかな。

 本当に、毎度毎度迷惑な計画たてて飽きずに殺そうとするわよね、うちの妹を。

 捕まらないと思っての行動。王の力が行き届いていないせいでの暴挙。……はぁ、だから嫌いだわ。


 そろそろ………………………も、いいかな?


 本気で浮かぶ言葉に知らず目が細くなり、暗く笑いが漏れる。

 そうできたらどんなにいいだろうと魅力を感じつつも、いけないと頭を振って現状に意識を向けた。


「あなたをどうしようかしらね?」


 震える侍女を見下ろして、誰に預けようかと考える。


「普通なら宰相に突き出して、その時点で処刑ものなんだけれど。情報をとるために拷問にでもかけましょうか? 死なない程度にいたぶっていって、自分が犯したことをよくよく反省したほうが今後のためだし、家族に責任を持たせるようなことにもならないわ。それともあなたの前で家族に罪の問いかけでもしてみる? 心無い罵倒が来るかもしれないし、かばってくれるかもしれない。最悪縁を切るだろうけれど。ああ、もし助かっても城からは追放するから慣れない庶民生活には苦労するでしょうね、でも侍女なら働き口くらい探せるわ。でもこれだと罰がぬるいわねぇ、無一文で放り込むようによく言っておこうかしら…?」


「………っ……かっ………どうか、お許しくださ………どうか……」


「ああ、人質がいたんだったかしら。なら人質は助けておきましょう。でも会うことも話すことも禁じて二度とその目に姿を映させないようにするわ。それほどにあなたの罪は重い」


「そんなっ!?」


 提案のどれもが貴族令嬢には耐えがたい、というか将来が真っ暗になるようなものばかり。

 私の提案にがくがくと真っ青になって震える侍女はお許しくださいとしか言わなくなってしまった。光のない目で繰り返される呟きにもう彼女の心は折れてしまったようだと溜息をつき、そのまま放っておく。もう反撃するような意思はないだろう。

 さんざん脅しといてあれだけど、私に彼女の罪を決めることはできない。せいぜい強く主張して押し切ろうと説得するくらい………。

 報告して裁量を量るのは王だ。

 まずは彼と会って報告しなければと思っていると、閉めていたはずのドアが開いた。

 誰も来ないと思っていたので警戒心も露わに開いたドアの向こうを睨めば、そこに仁王立ちしていたのはたった今思い浮かべていたセイブル公爵その人だった。


「女団長、あとは我々が処理しましよう」


 なんともタイミングのいい時に現れてくれた。

 セイブル公爵が口を開いたと同時に後ろから近衛騎士たちがぞろぞろと現れ、死体(プラス血だらけ絨毯)と侍女を回収していった。取り調べでもするんだろう。

 手際の良さに公爵をちらと伺う。


「セイブル公爵、見計らってたんですか?」


 他がいなくなってからタイミングが良すぎるだろうと聞けば、悪びれた様子もなく頷かれた。


「ああ、実力を知っている私は貴女が殺されるような心配はいらないとわかっているし、任せた方が怒りも多少なりは収まるでしょう。貴女は妃殿下のこととなると人が変わりますからね、口もきけないほどに彼女の心を折られては情報が取れないので最後だけ介入したまでですよ」


 王妃に関することはだいたいセイブル公爵と動き回っていたため、私がとる行動はお見通しらしい。しかし心外な、私は別に心を折ろうとなんてしてない、あっちが勝手に落ち込むだけじゃないか。


「忠誠心ですよ。それに主に代わって多少意趣返ししたっていいでしょう?」


「洒落にならない意趣返しだから止めに入っているんです。まったく………途中から口調が変わった時は近衛を突撃させようか迷いましたよ」


 セイブル公爵の溜息に驚いた。

 あれ、私口調変えてたかな? 彼女の扱いについてを考えていただけだったのだけど。

 きょとんとしていると公爵から大きなため息をついた。


「気づかなかったとは………やはり介入して正解でしたね。もう少し融通がきくようになってくれればこちらも安心するというのに」


 私の驚きを察知したようで、公爵は安堵を浮かべている。

 どうにも王妃様のことになると思考が極端に飛んでしまう節があるようで、私の犯人への扱いにはよく注意が飛ぶ。今回もやってしまいそうになっていたようだ。

 王妃の無事と犯人の捕獲が確認できたことでもう私の中の仕事意識が消えた、体がだるく感じる。


「今日は忙しいですねー、もう体力残ってないので(王妃のそばに)帰っていいでしょうか?」


 朝っぱらから王妃様を狙われてもう今日の仕事が嫌になった。やる気のでない書類関係は副団長に任せて今日はずっと王妃様のそばにいよう。癒されながら彼女を護ろう。王妃様のそばが私の帰る場所。


「何をバカなこと言ってるんですか。これからですよ」


 セイブル公爵の一言に打ちのめされる。


「本当に、これから謁見やら会議やら予定が詰まっているというのに勇気のある方々ばかりでまいります。王も最近は妃殿下が狙われていることに苛立ちが顕著になってきていまして、臣下に当たらないようフォローするのが大変です。なのに妃殿下の話を出すと今度は落ち込まれてしまうし……」


 溜息セイブル公爵の話に私は内心ガッツポーズをとる。

 日頃八つ当たりの対象になっている私のように妹に手を焼いているのはいい気味だ、夫なのだから散々絞られてしまえ。


「女団長、声に出ていますよ」


「おっと、失礼しました」


 謝罪したけど、セイブル公爵は口調だけたしなめているが顔はとてもいい笑顔。彼も同じことを考えているようで。

 王は王で宰相に愚痴っているんだろうな、だから彼も相手をして疲れているとみえる。

 国王、おかわいそうに。今のところあなたに味方はおりません。


「さて、お喋りはこのくらいにして…………彼女の処遇はどうしましょうか」


 気持ちを切り替えて宰相の顔になったセイブル公爵は、連れていかれた侍女の扱いを悩む。

 普通に考えて処刑か、さっき私が彼女に提案したどれかが下されるだろうに何を悩んでいるのか。


「一応伝えておきますと、あの侍女は本当に人質を取られているようです。それらを助けてからのほうがよさそうですね。その方が侍女も安堵で口を割るでしょう」


「それは当然。だがあなたの考えほど単純にいかないんですよ。………まあいいです、この後のことは王が判断することですから」


 何かを悩んでいた彼はさっさと話しを切り上げてしまい、もう追及できなくなった。

 まあ私は王妃様の安全が守られるならいちいち深く知ろうとはしないので、聞くなというなら聞かないでおこう。関係ないことまで知ろうとするのは、城内では余計なもめごとに巻き込まれるのが落ちだ。


「そうですね、あとはお願いします。私は王妃様の元へ戻りますので」


「了解しました。ああ、ちゃんと私の部屋にも後で寄るように。気が乗らないというのはなしですよ、仮病もダメです」


 うう……先回りで言おうとしていた言い訳を使われてしまい、逃げ場を消されてしまった。こういうとき相手を知りすぎるのもよくないと思えてくる。


「わかりましたよ。休憩時間になってしまうかもしれませんが、それでもいいですか?」


「構いませんよ、どうせこの後からはひたすら書類仕事ですから。王に呼ばれるまでは部屋にこもりきりです。団長がいるので王の安全は心配ありませんし、あの侍女の処遇は明日以降に決めます」


 行かないという選択肢は選べそうになかった。


「そうですか。では、私はそろそろ戻ります」


「はい。ご苦労様です」


 互いに部屋を出て別々の方向へ進み、己の職務へ向かう。

 はあ。王妃を暗殺しようとする者が多すぎる。なんでみんなシアンを認めないんだろう。


 国の上位者である貴族たちに、シアンは王妃として認められていない。

 後宮時代の敵令嬢たちがしつこく狙うせいで、今も王妃は命の危険がある。

 早く、はやく全員消し………ごほん、捕まえて王妃が安心できる城にしなければ。

 私の頭はいつでもシアンのことばかり。

 予定を聞いた限り、今日だけであと何度かは王妃様を狙える機会がやってくる。彼女を護るためには一秒でも気を抜かず長く側にいなければ。

 護衛のことを考えると先ほどの侍女の顔が浮かんでくる。

 あんな風に、人質を使ってくるやつや本業の暗殺者を送り込んでくる奴はまだまだ城の中にはびこっている、憎たらしいことに貴族を護るだけのような法律があることでなかなか捕まえることのできない犯人たちがこういった機会を狙わないわけがない。

 次に仕掛けてきた者は、いったいどんな目にあわせてやろうか。

 怒りに染まっている頭はどんどん相手が苦しむような策を練りだすが、私から攻める気はない。なによりも大切なのは王妃……いや、シアンなのだから。

 襲い来る者は容赦なく、始末しよう。たった一人の家族を失わないために。

 変わらない決意を心に刻んで、私はまた王妃宮のなかに入る。


 まだまだ、一日は終わらない。

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