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仮性彼女な私とボクと  作者: オーシャン
9/10

杏の異変

もう11月も半ばで、日が沈むのも早くなったなぁ。


職員室で貰ってきたパンフレットを片手に俺は放課後の教室で楓とライトの到着を待っていた。

2人は同じクラスだけどライトは委員会の活動が長引き、楓は休みの間に出れなかったぶんのテストの補習を受けていた。


どーせ杏も来るだろうと思って、特に待ってなかった。


「翔ちゃん。それ国際大付属のパンフレット、もらってきたのか」


廊下から声をかけてきたのは、杏じゃなく男子だった。


「ヒロちゃん」

「猫、元気してる?」

「ああ、もう元気元気。体重ももうじき2キロくらいだし、おかげさまで年明けには避妊手術受けれそうだ」

「そかそか。そりゃ良かった」


彼は輪島史浩わじまふみひろ

先祖代々、獣医の家系で、成績優秀、コミュ力抜群、さらには高身長で顔立ちも整っていて、女子人気も高いという絵に描いたようなイケメン生徒会長。

そんな彼も杏に一目惚れして告白〜玉砕した男子のうちの1人であり、傷心の際に声を掛けたのがきっかけで関わり、

夏休みに助けた子猫の室内飼育方法などを相談するうちにちゃん付けで呼び合う仲になった。


「あのさ、このプリントを、一之瀬さんちに届けてくれないか。何か、午後から具合悪くて早退しちゃったんだ」


今朝の杏は楓と一緒に、いつも通り学校来てたけど、そもそもあの元気娘が早退なんて初耳だった。


「いいけど、俺が引き受けていいのか?こういうのって同じクラスの役目なんじゃ……?」

「それがさあ、一之瀬さん、先週あたりから急にそっけなくなって、他の子が理由聞いても『べつに』みたいな返答しかしないんだよ」

「なんだ、それ。誰かと仲違いしたとか?いじめとかあるのか?」

「まさかぁ。そういうのが無いから余計に困ってるんだ。180°キャラ変で急に壁ができちゃって」


たしかにそれは変だ。

杏はマイペースなやつだけど、意味もなく無作為に他人を不安にさせるようなことはしない。

裏表なく心根の優しさが伝わるからこその人気者なんだろうしな。


「クラスのみんなも困惑してるし、何とかしてあげたいと思ってるんだよ」

「おお、なんとかしてやれ」

「では、がんばってくれたまえ。王子様」


ふぁっ???


◇◇◇


「ふられたばかりの身で声かけに行くのは傍目に見ても未練がましい」

そーゆう外の評判気にするタイプなん?


「じつは一之瀬さん以外の子に新しい恋をした」

切り替え早すぎぃ


「けっきょくエンドフラグの多い幼なじみに任せるのが一番丸く収まる」

どんなエンドを見立てられてんの!?


ヒロちゃんと不毛な問答を重ねても時間が勿体ないので、俺はおつかいを引き受けて楓達と一緒に杏の家に着いた。


杏の母、柚葉さんが営むクレープ屋Fairies CAFE2階に杏の部屋はあるのだが、店内は学生を中心に多数の客で溢れていた。


「いらっしゃいませ。あ、翔太ちゃん。楓ちゃんも、いらっしゃい」

「ど、どうも」

「おじゃまします…」

「はじめましてお母様。この度は杏ちゃ、杏さんのクラスの配布物をお届けに…」

『すみませーん。バナナクレープとコーヒーのおかわり良いですかー』

『こっちも。アイスクレープまだですかー』

「はーい。いま行きますー!」


店内はかなり立て込んでて、頼人の挨拶は客の声に遮られた。とても俺達の応対までしてられる様子ではなかった。

それを察して楓が動いた。


「柚葉さん。あの、杏ちゃん2階ですよね?裏からあがって渡しに行っていいですか」

「ありがとう。そうしてもらえると助かる〜」

「この頼人くんはここでお手伝いします」

「お、お手伝い?おいおい、翔太。そんな流れは聞いてな……」

「ポイント稼ぐチャンスだぞ」

「(未来の)義息子むすこです。何なりとおつかいください」


一言ぼそっと耳打ちしたら即座にキリッとした。

男ってチョロい。

男って哀しい。


◇◇◇


「小椋くんはここ、慣れてる?」

「俺は小4以来だから4年ぶりかな。色々あってしばらく来れなかったし」


話しながら家の中を進んでいく。


「杏ちゃん性格からして多少体調わるくてもカラ元気で誤魔化しそうなのに」

「楓は、何か心当たりない?その……女の子には、色々あるだろうし」 

「女の子には……?」


言ったあとに、はっとした。

楓が元男だという認識と理解が伴ったとしても、男女の身体の変化だとか成長期の性差だとかはセンシティブ。

同い年の中学生同士で気軽に問うて良いことでもないような……


「あっ!もしかして生理のこと?」

「……」


楓の口からその2文字が出てきて、俺は固まってしまう。


「人によっては凄く重いし、明らかに体調崩して早退する子もいるけど、杏ちゃんは違うんじゃないかなあ。ボクたちと話してる時は普通だったでしょ?」

「そういえばそうだな……」

「なんとなくわかるんだ。『女の勘』かなあ」


ボクっ子で男の子同士みたいな気軽さなのに、女子界隈の話や女の勘を語る楓に、またひとつ困惑しながらも、部屋の前まで来た。


「杏ちゃん。いま大丈夫?」


楓がドアをノックして話しかけるも反応はない。


「寝てるのかな」

「仕方ない。プリント類はドアの下から差し入れて……、ってあれ?入らない」


なんかドアの向こう側で何かに挟まってる止まったような……


「もしかして杏ちゃんそこにいるの?」


楓がドアノブを回そうとするも、開かない。中から鍵が閉まってるらしい


(廊下の床に置いて帰るのもなあ……)


下では頼人と杏ママが杏の為に頑張ってると思うと、なおさら退きたくなくて、楓も同じ気持ちだったらしい。


くいくいっと、俺の袖を掴んで、スマホを見せる楓。

これは、…筆談だ。


『あのプラン、やってみようよ。うまくいくか、分からないけど。ダメもとで』

『まじ……?』


◇◇◇


「仕方ない。帰ろう」


「待って、小椋くん」



楓は小声で喋ると、壁に備え付けてあるスイッチを操作して廊下の照明を落とした。


「え。ここで?帰り道とかじゃダメなのか」


俺も小声になる。


「わかってないなあ……。今ここでするから、ドキドキするんだよ」

「まあ、帰り道よりは人目も無いし、楓がしたいなら……」

「目、閉じて……」

「んっ……」


じっ───


部屋の主は、静かに解錠したドアの隙間から廊下の様子を伺う。しかし、


「!!?」


そこに俺達の姿はなく、


「いまだっ!!!捕まえて!」

「やっぱり狸寝入りか!観念しろ杏」

「わあああああ!ず、ずるい!ずるいいいいい」


こうしてドアを空けさせられた容疑者は俺たちに確保されたのだった。

共同の芝居(?)アフレコ(?)だとしても、杏のみならず俺まで楓にドキドキさせられたのは、秘密である。

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