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仮性彼女な私とボクと  作者: オーシャン
13/14

意地の張り合い?

俺たちは顔を洗い、呼吸も整えた。

先に戻ったリビングで、楓は棚の本が気になっていたようだ。


「ヴェーダンタ哲学、サーンキャ哲学、五大とドーシャ、グナ……なんか難しそうな本、置いてるね」

「それ。師匠から教わったことのお浚い用にもらったり、中古本屋で買ったやつだよ」

「師匠?なんの師匠?」

「なんのっ……て言われると曖昧だけど、哲学の師匠(?)かな。スイミング時代の縁で、ここから遠い関西に知り合いが出来て、サラちゃんたちや母さんの通夜の時に、何か心のケアに役立ててくれと、こういうの勧めてくれたんだ。日本の仏教とは別物だから、地元の坊さんは顔をしかめてたけど……」

「えっと、外国の仏教なの?」

「ざっくりいうと、これはアジア全土の仏教の源流っていうか原型で、お釈迦さまの教えの元ネタみたいなやつ。古代インドのバラモン教。ヒンドゥー教とチベット密教のルーツというか……それの訳本」


日本の仏教はお釈迦さまを見本にしたもので、そのお釈迦さまも元々はバラモン教のお坊さんなのだ。

古代インドもまた日本の八百万の神のように、多くの自然神を奉る多神教で、それに由来する伝承や哲学、独特の死生観が培われた。


日本の古事記に出てくる造化三神とインドの三神(ブラフマン、ビシュヌ、シヴァ)に共通点が見られることもあり、それぞれのルーツを考察したり考古学的にも唆る要素がある。

全ての神と繋がる神ブラフマン。東アジアで訛って「バラモン」。漢字を当てられ「婆羅門」。

 

まあそんな話は世間ほとんどの人が興味ないし、悪意は無くても楓に解ってもらえる自信はないので、セーブして、ここでも言わないことにした。


◇◇◇


「専門用語もいっぱい出てくるだろ?こんなの杏が読んだら1ページ目の途中で飽きて寝ちゃうだろな」

「まーたそういうこと言う」


楓がむぅっと少しむくれて手にとった本を棚に戻す。


「小椋くんが好きなのは杏ちゃんだと思ってたけど、ボクの勘違い?」

「半分正解。俺は好きな奴としか関わらないようにしてるから、杏はもちろん好きだし和田先生、頼斗、ヒロちゃん、みんな好きだよ」

「でも、でもさあ、さっきの話だと、杏ちゃんに距離置いてたのはソラくんへの義理だけだとは思えないんだよなあ。さんざん遠くから守っておいてさあ、今は僕のこととかで近寄られてるのに、異性として全く好意湧かないのはおかしいよねえ?杏ちゃん、小椋くんのこと絶対好きだと思うし」


あーらら……。元気出てきたようで何よりですこと。

小難しそうな哲学本より、こういう話のほうが興味湧くのは、楓も年頃の女の子って解釈でいいのだろうか。


「あー。そういうことか」

「え?……、な、なに?」

「楓が自分の性別の話した時に言ってたじゃん?楓が俺の好きな女子の着替えとかお風呂とか見たかもしれないって」

「あ、うん」

「あれって、楓は杏のことだと思ってたんだな」


図星。楓は途端に顔を赤くして口ごもり、ぷいっと背中を向ける。

そんなところもまた可愛い。


「楓こそ杏のこと好きだったんじゃないか?いとこ同士だけど」

「ふぇっ!?」

「あ、でも、いとこ同士でも結婚は出来るんだよな、たしか。それならそれで結構お似合いか?」

「ももももっ何いってんの!お、おこるよっ」

「お、おちつけって。ジョークだよジョーク。とととっ……、うわっ」


振り返って勢いよく詰め寄る楓に押されて後ずさりした俺は、ソファーに膝裏がぶつかって仰向けで倒れ、楓はそのまま俺を押し倒すような体勢になった。


「ご、ごめん。ケガしてない?」

「大丈夫。や、柔らかいだろ……このソファー、クッションも」


柔らかいのはソファーとクッションだけか?と脳内で自問自答。久々に楓の体温を感じて心臓の、鼓動が早まる。

顔と顔が近くて、手足が絡み合って互いの息と息がかかるくらい密着をした。にも関わらず、俺たちはその場を動けない。

というか、楓が動かないと俺も身動きがとれない。


「杏ちゃんの部屋の前では、あんなお芝居したけど」

「か、楓?」

「ぼ……ボクだって……、そ、そういうことに全く興味ないわけじゃないし……」

「か、楓さん!?もしもーし」


そっ……、


そういう気分になってるってこと!?


「ボクと出会う前、ソラちゃんと杏ちゃん、どっちが好きだったの……?」


壁ドンならぬソファドンで楓が詰め寄る。

これ以上近寄られると、芝居の台本じゃなく、本当に…


「あっ……待っ……」

「教えてくれないなら…」


「んなーん」

「!?」


猫の鳴き声にびっくりして俺たちが視線を向けると、観察者は猫を右肩に乗せてスマホを構えて現れた。


「んなーん」

「ゆっ柚葉さん?ぼたちゃんも!」

「杏から聞いてたけど、楓ちゃん意外と大胆なのね。おばさん興奮しちゃった」

「なに撮ってんですか!?」

「早めにお店閉めて差し入れに来たけど、私のほうがご馳走になっちゃいました」


慌てて身なりを正す俺達を観て、マダムは嬉しそうに微笑んでいた。


◇◇◇


とりあえず敬礼の姿勢を取って挨拶した。


「マダム。危ないところを助けていただき、感謝します」

「ふう〜ん。助けて良かったのかしら。ねえ?楓ちゃん」

「あうう……」

「杏はもう寝ちゃったから今日はもういいわよって伝えに来たんだけど」


時刻は4時半。まただいぶ暗くなってきた。

つーか、頼斗のやつも、まだ寝てんのかな…。


「柚葉さん。申し訳ないんですけど楓を家まで送ってもらえますか?」

「もっちろん。そのつもりで来たのよ。もう1人の子、起こすの手伝おっか?」

「頼斗はぼくが起こして自転車で帰しますから気にしないで行ってください」

「あら〜。お気遣いも出来て、翔ちゃん、ちょっと見ないうちに紳士さんになったのね。おばさん、キュンってしちゃった」


そういうと柚葉さんは俺を軽く抱き留めてほっぺに軽く口づけして車の方へ行った。


去り際に、楓にも何か言ってたようだけど小声で聴こえない。

車の中が温まるまで待っててね、みたいな感じかな。

それにしては楓から睨まれてるような。


◇◇◇


時間にして5分くらい?

楓の無言ジト目が早々にきつくて目を合わせづらいので俺の方からアクション。


「どったの?」

「べつに。小椋くんって女たらしだなって。親子丼ねらい?」

「なんてこと言うんだよ。女の子が親子丼なんて隠語を覚えるんじゃありませんよ」


ツッコミを返すも、ラリーは続かず楓はまたプイッと背中を向けたがる。


「楓、帰る前にハッキリ言っておくけど」

「なに?」

「俺が一番好きなのは楓だからな」

「ほっぺにでっかいキスマークつけてる人に言われても説得力ないんですけど!?」

「そんなに神経質になるなよ。外国では、ほっぺちゅーなんて挨拶みたいなもんだっての。リラックス。リラ〜ックス」


両手を広げてゆらゆらポーズを取り、リラックスを勧めたが寧ろ逆効果だったかな。


「小椋翔太くん。ひとつお願い、じゃなくて、命令します」

「な、なんでフルネームで敬語!?はい、何でございましょうか」


手を腰に当てた楓から指差しされて、反射的に「きをつけ」の姿勢になってしまう。


「小椋くんの本心を確かめたいので、杏ちゃんが治ったらデートしてください」

「デート!?楓と?まじ?よっしゃー」

「ちがうちがう。小椋くんは杏ちゃんとデートするの。ボクはそれを尾行します」

「はあああ!?どんな意向!?」


ガッツポーズに握ろうとした両拳が情けなく開かれて俺は頭を抱える。これじゃオーマイガのポーズだ。

そんな俺を見て不敵に笑みを浮かべながら楓はたたみかける。


「おばさんに許可はとっておくから、杏ちゃんには小椋くんから申し込んでね。もちろんボクのことは伏せてね」

「あ、あのー、拒否権は?」


そこにおばさんが車で迎えに来て、楓はさっさと乗りこむ。

顔半分みえるくらい車の窓を開けて、一言。


「じゃあな。逃げんなよ」

「はひ……。ま、またねー……」


乾いた作り笑顔の俺に構うことなく、楓は帰って行った。

うっかり怒らせてしまったけど嫌われたわけでもない。望まずして楓との勝負になってしまった。


どうすれば誤解なく気持ちを解ってもらえるか。

あるいは本当に楓が正しいのか。

これからどうするかを考えながら、俺は忘れかけてた頼斗を起こすことにした。

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