小椋家の午後
投稿ミスが発覚したので一度削除し、内容そのものを変えて再投稿しております。
削除前はコピー貼り付けの作業ミスで元の原稿から大幅に文章が欠如していた為に前話と次話の状況繋がりが無い文章の羅列になっておりました。
削除前に読まれた方々には申し訳ありませんでした。
削除前に読まれた方々、これから読む方々に配慮させていただきます。
家というものは人が住まなくなると途端に内側から傷み始める。
普段は何の変哲も無く開け閉めしていたドアだって、1ヶ月も空き家にすればギィ〜と音を立て、フローリングの床も軋み、シンクやトイレの水も異臭がしてくる。
俺は姉ちゃん夫婦の家に居候をしてから、用事で無人の実家に戻る度に家の傷みを懸念するようになった。
以来、最低でも月2回は帰宅して手入れを欠かさないようにしてきた。
仏壇に霊魂が住んでるわけじゃないけど、母さんの写真が飾られてる部屋に埃が溜まったり家の中が臭かったら来たとき気分悪いからね。
「ふぃ〜。生き返るぜい」
そんな我が家の浴室に反響するのは頼斗の声だった。
「イナカに泊まろうじゃないんだが!?」
「自由に寛いでくれって誘ったのは翔太だろー?朝風呂くらい、いいだろ」
もちろん風呂場も綺麗にしているけども、トイレ以上に他人が使う機会もそうは無い場所なので、多少は遠慮してほしいものである。
「一之瀬さんのお母さんが訪ねてくるかもしれないし、つーか夕方に挨拶に行くし、綺麗にしておかないとね」
「女みたいなことを言う……」
「出来ることならお店の手伝いをしたいんだけど」
「まあさすがに受験生で中学生の俺らに実質昼間のアルバイトみたいなことをさせるわけにもいかないし、昨日の頼斗は特例だったんだろうな」
とはいえ頼斗は杏の様子が気になって勉強どころじゃなくなると言うので、今週末は隣家のうちに来て勉強することにした。
もちろんそれは楓も同じなのだけど……。
「本橋さん、こっち来るの遅いな」
「まあ色々あるんじゃないの。女の子同士だし」
「そうだよな。一之瀬さんの身体を拭いたりとか着替えを手伝ったりとか、身体を拭いたりとか…」
「身体を拭いたり2回言ってるんだが!?」
そんな頻繁に拭くほど杏が汗だくになるかはわからないけど、
「杏ちゃんにそういうの頼まれたら、ボクがしてもいいの?」と、楓からは聞かれた。
対しておれは「楓にしかできないことだから、たのむ。大丈夫。自信もって」と応えたわけだが、
こういう部分で楓が気後れするのを見ると、まだ男の子の部分が残っているんだなと実感させられる。
いとこ同士なら気にしないかなとも思うけど、杏は黙ってれば普通に可愛いし、男子なら異性として意識するには十分すぎるほどに女子なのも確かではある。。
◆◆◆
楓が来たのは、午前11時を過ぎた頃だった。
「ごめんね。遅くなっちゃって……」
「気にしなくていいよ。杏のお世話、おつかれ」
「うん。……あれ?頼斗くんは?」
「2階の部屋で仮眠してる。昨晩は心配で寝れなくて、仕方なく深夜まで杏のために加持祈祷に没頭してたんだとさ」
「そ、そうなんだ」
リビングのダイニングテーブルは広く、食事のほかに参考書やノートを広げるには申し分ないスペースがあるほか、テレビや本棚、ソファーもある。
楓が座る椅子も背もたれ肘掛け付きで全体が布製クッションシートで覆われた柔らかいリクライニングチェアだ。
(もちろん事前に念入りに掃除した)
「んなーん」
「あっ!猫さん。大きくなってる」
「はーい大恩人の楓さんに挨拶してね。名前は、ぼた」
「だ、大恩人だなんて……」
もちろん、猫と戯れるにも十分な空間だったりする。
でも楓はリビングには向かわず和室に行き、仏壇の前に座り、手を合わせた。
俺が頼みにくいことで、してもらって嬉しいことをしてくれる、楓のこういう気遣いには大人だなあといつも感心する。
杏の体調は本人の体力の高さや楓の適切な処置もあってか、週明け二、三日で復帰できるとのことだった。
懸念事項も減った俺は、図らずも楓と二人きりのリビングで勉強という嬉しい時間を過ごすことになった。
お昼はお弁当を持参してくるという流石の楓だったけど、うちの自家製カレーの匂いには抗えず…
「ちょっと下さい……」
「素直でよろしい」
お弁当の空きスペースに、ハンバーグとチーズも付けてやったら、さらに目を輝かせてくれた。
食休みや勉強の合間には、スマホゲームで対戦したり、テレビをつけたり、リビングの棚に置いてある本を読んだりして、俺たちは普段以上に時間を気にせず、快適に過ごせた。
なかでも楓が興味を示したのは、俺が小さい頃のアルバムだった。
「かわいー。これも、小椋くん?女の子の水着きてる。フリフリだね」
「うう……。当時3歳。この頃はまだわけもわかってなくて、大人たちが面白がって着せてたんだよ……」
「こっちは保育園の卒園式で、こっちは入学式に、スイミングスクールかあ。杏ちゃんと一緒に映ってる写真も結構あるね」
そりゃ隣近所ですからね。
「なんかさー、意外だった」
「意外?」
「ボクは杏のいとこだけど、杏ちゃんからも聞かされてない、小椋くんのことって、ずっと多いんだなって」
まあ知り会う前から1から100まで知られててもそれはそれで困るけどね。
「この写真、あ、こっちの写真にも映ってる金髪の子なんて、日本じゃ珍しいと思うのに、杏ちゃん全然話してくれなかったよ。やっぱり秘密主義なのかな」
「……」
「小椋くん?」
ふいに発した楓の疑問だったけど、
俺は静かにソファーに座り、一度深呼吸して、少し俯きながら口を開く。
「楓」
「はい?」
「おれも人間で男だから、好きな人に嫌われたくないって思うことは日頃しょっちゅうあるよ。それでも欺くようなことをするのは心が痛むし、つまらん話でも言うか言わないか迷ったりもするよ?」
「……」
「ごめん」
ああー……なんかしんみりした空気に……。
「じゃあ、スッキリしよっか。出しちゃおうよ」
「ふぇっ!?だ、出すって」
「あ。うん。『つまらん話』かどうかは、ボクが決めるから、言うか言わないかで迷ってる小椋くんの昔の話、スッキリするまで吐き出しちゃってよ」
そういう意味かいっ!
「ほら、もー、硬くなってる。抜こ。抜こ。リラックスして」
「か、肩の力がって主語をつけてくれますか!?」
いつの間にか背後に立って俺の両肩を軽く揉んでくる楓。
その無垢な優しさに己の汚れを痛感させられたら俺は降参するしかない。
「じゃあ話すけど……」
「うんうん。素直でよろしい」
「まず俺は純血の日本人じゃなくて、父方の爺ちゃんがハワイ人なんだ」
「えっ!?えええっ!?は、はーふ?じゃなくて、えーと、くおーたー???」
「クォーターの半分だから1/8だね。ほぼ日本人と思ってもらえれば…」
リアクションを見るかぎり、つかみはオッケー?かな。
ソファーの足に頬をすりすりしていた猫のぼたも、楓にびっくりして和室の方へと駆けていった。
「むむむ……」
楓は顔を近づけて、俺の顔をまじまじと覗き込んでいる。
気まずさと照れ臭さが混在しつつも、俺は話を続けた。
◇◇◇
俺は戸棚の引き出しから、手帳と紙をそっと出して楓に手渡す。
「これって、お薬手帳と診断書?」
「そう。書かれてる通り」
「小椋くん、病気なの?」
「伝染る病気じゃないから、楓は安心していい」
成長ホルモン分泌不全症
脳下垂体からの成長ホルモンの分泌が不足し、身体の成長阻害、代謝異常、生殖能力の低下などの症状が表れる。
先天性、外傷やストレス等による後天性、原因不明のケースもあり、治療には成長ホルモンの注射など補充療法を用いる。
成人まで無自覚または治療を行わない場合には、心臓や脳、内臓系の疾患リスクが増加。
平均寿命が平均の10〜15年ほど短くなる可能性も報告されている。
「母さんに聞いた話によれば、しんだ爺さんが俺を溺愛していたみたいで……」
「……」
「爺さんは遺言書にまで書くほど私財を注ぎ込んで俺は4歳くらいからこれの治療やってきたおかげで、どうにか標準より幼いくらいで済んでて、……って」
手短に持病の説明しただけなのに楓の顔が見る見る青ざめて悲しげに見えて、俺は焦った。
「何で楓そんな深刻な顔してんの?」
「だって、ボク……」
「何だよ」
「小椋くんの容姿のことで弄ったりして」
ああ、そのことか。
「気にしなくていいよ。杏もクラスのみんなもよく弄ってるし俺も女装コスプレしたし」
「小椋くんは嫌じゃないの?」
「まあ全く嫌じゃないとまでは言い切れないけど、可愛いとか似合うっていうのは褒め言葉でもあるわけじゃん?どこまで本気かはわからないけどさ」
楓は、それを聞いて、はっとしたような反応を見せる。
「物の見方しだいで楽しくなるってこと?」
「まあ楽しさ嬉しさが勝ってたんだろな。それに自分の好きな人には、どんな形でも喜んでもらえたのなら、俺はそれで万事めでたしだ。うん」
「お、お人よしが過ぎない?」
まあ嫌なことを根に持ってネチネチめそめそいじけて居るのと、
楽しいことを思い出せて明るく過ごせるのなら俺は後者の方を選ぶ。
単純、短絡的それだけなんだと思う。




