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仮性彼女な私とボクと  作者: オーシャン
10/11

スナオなキモチ

時間は少し遡って、

杏の家に到着する前に楓と頼斗からあるお願いをされた。


「へ?素直に話せって?」

「うん」

「杏と?」

「そうだ」


目を見て言うようなことか……?


「二人とも何言い出すんだよ。おれはいつも素直だよ?杏は幼なじみだし」


「う、うーん……」

「……」


楓は何やら物言いたげに苦笑いを浮かべる。

一方で頼斗は両肘を曲げて、はぁ〜やれやれみたいな手振りで呆れる。

そしてこちらを振り向くと真剣な面持ちで俺の肩に手を添えた。


「認めたくはないけど、このなかで一之瀬さんのことを分かってるのは翔太だ」

「そ、そうかな?」

「でも身内みたいに親しいからこそ、普段は絡まれると照れくさくなって粗雑な物言いや態度を取っちゃう時があるのもわかる」


ぬっ……

言いおる。

真剣な物言い+当たってるだけに反論出来ない。

まあ、頼斗は楓こそが杏の親戚だとは知らないしな……。


「一之瀬さんは無理して明るく振る舞う所あるけど翔太には素の自分でぶつかってると思うし、一番心を許してる表れだと思う。だから。その、つまりあれだ」

「出来れば、小椋くんも杏ちゃんには素直な気持ちで接してほしい。具合が悪いときだから特別ってわけじゃないけど……」

「そう。それそれ。って、ライバルに塩送ってどーするよ。はぁ〜…」


同意してため息かよ。

そしてライバルにされてる。


「わかったわかった。いいよ。でも杏を心配する気持ちは、俺もお前らも皆同じだよ。少なくともおれは自分が特別だなんて、これっぽっちも思ってないからな」


素直に……。

……か。

痛い所を突かれたなあ。


頼斗はともかく、

楓は俺のこと、どう思っているんだろう。

またひとつ悩みを抱えつつも、


「ゆーびきーりげんまん、うーそつーいたらはーりせんぼん…」


俺は2人と約束した。


◇◇◇


おびき出されて部屋の前で硬直した杏の表情は、想像してたより元気そうだった。

しかし妙に慌てている。


「い、いま私に近づいたら、だめっ!ふたりとも、びょ、びょーきになっちゃう!」

「杏ちゃん?どこか具合わるいの?」

「そ、それは……」


杏は楓の問いにも言葉を詰まらせ視線を真下に落とす。

視線の先はなぜか、素足でベチャベチャに濡れてることに俺は気づいた。


「杏、ちょっといいか?」

「ひゃっ!だめ!」


触れたわけではない。なぜか剥き出しで水びたしの足に顔と手を近づけただけで、いつもの杏とは思えない焦りを示している。


部屋のドアも何やら明けしめのスピードがやたら早い。普通なら部屋の中の空気が反発してドアはもう少しゆっくり動く。


「窓が全開……!」

「さ、さむい!」


極めつけは、ベッド前の床だった。


「タライに、水?じゃない、氷水……?」

「わああああ!見ないで見ないで見ないでーーーっ!」

「……」


10秒か20秒くらいの、無言の間を置いて、俺は杏の両肩に手を添えて言った。


「杏、俺は杏のことは幼なじみで、家族同然に思ってる」

「いっ!?いきなり何言い出すの翔ちゃん」

「だから杏からなら病気を伝染されても、嫌いになったりしないし、杏のことを知れて良かったと思える」

「え……?えっと、それって、つまり……?」


言ってて恥ずかしい気持ちは当然あるので、

杏に聞き返されて当然、次の言葉がスムーズに出なかった。


「つ、つまり……その……」


そんな俺の様子を見かねて、楓は目配せと口パクで、『ヤ・ク・ソ・ク』と俺に伝え、背中を後押しした。


「そのくらい、杏のことは、大切に思ってる……ってこと」

「翔ちゃん……!」


杏の大きな瞳から止め処なく溢れる涙は、頬を伝って、やがて俺の両腕にまで滴り落ちる。

一雫ごとに、杏の心の氷が融けていくようだった。


「話してくれるか」

「うん……あのね……」


◇◇◇

水虫


白癬菌はくせんきんというカビの一種が足の皮膚の角質層に感染・繁殖する。

強いかゆみ、皮むけ、水ぶくれ、皮膚の硬化を伴う。

高温多湿を好み、スリッパやマットの共有、汗をかいた靴などを媒介に感染・悪化する。

治療には抗真菌薬が用いられ、日頃の清潔と乾燥が予防、治療の基本。


「かゆくなったら、氷水で足冷やしてたの。冷たくすると汗かかなくなるかなって、窓も空けて、寝る時にも足だして冷え冷えにしてた」

「あーなるほどお〜ってなるか!タライに水虫菌培養してるし。つーか、いつ氷を補給していつ捨ててたんだよ…」

「ボク、これ捨ててくるよ。お風呂場の排水溝でいいよね?」

「あー、たのむ、楓。こぼさないように気をつけてなー。ついでに、綺麗なタオル何枚かと洗面器、お湯も沸かして魔法瓶に入れてきてくれー」


俺たちはとりあえず、来客用のスリッパを履いていれば伝染することはないだろう。

床は雑巾で拭いて、窓を締めて、部屋の暖房もつけておこう。


「翔ちゃん!あ、暖かくしちゃだめっ」

「いいから。じっとしててくれよ。必ず良くなるから、俺を信じて待ってること、いいな?今度はドアの鍵しめるなよ?」

「う、うん。わかった」


杏の自転車を借りて近くの薬局まで行き、水虫の薬を購入。

足浴をして綺麗にして、水気をよく拭いてから、患部に薬を塗布。


「痒くなるたびに洗って、拭いて、薬を塗る。塗ったら浸透するまで10分か15分置く。基本これでいい。部屋の掃除もしておくとなお良し」

「スリッパとかはどうするの?」

「スリッパは洗えるサンダルに替えておいて2足用意、日替わりで使う。古い方のサンダルを60℃のお湯で1秒消毒するか、次亜塩素酸ナトリウムの消毒液につけてから水で濯げばOK。もちろん、ちゃんと水気を切って乾かしてからね」


考えてみると、同級生の女の子の生足に触れてるのって結構やばいのではという疑念が頭を過ぎらせた。

でも杏は家族みたいなもの、医療行為なら仕方ないと、今は自分を赦すことにした。


「で、薬を塗り終わったら手洗いを忘れずにね」

「はーい」

「はーい」


楓と杏。こうして2人同時に返事すると姉妹のようでもある。まあ、又従姉妹(又従姉弟?)なんだけども…。


「二人とも、ありが……ふェ……、ふぇ……へ……」

「へ?」

「へっきし!」

「お、おい。杏、顔赤いぞ。熱あるんじゃないか?」

「そ、そういえば、今朝からなんか背筋が寒い……」


熱測ったら38.8℃。

今回の足冷やしと寒い部屋は、いくら杏でも風邪を患うには充分すぎた。

足は第二の心臓とか言うもんな……。


頼斗は心配するだろうけど、店を手伝わせて風邪までうつらせたとなっては杏も杏ママも負い目が大きくなりそうなので、事情を説明して帰すことにした。

なお、水虫のことは口外しないようにと、杏から釘を刺された。


◇◇◇


「楓。頼斗。今日はごめんな。色々手伝わせてしまって」

「気にするな。友達だろ」

「そこは、『ありがとう』でいいんだよ」

「あ。ああ……。ありがとう」


御礼かお詫びか微妙なところだけど、せめてもの気持ちとして2人に用意した物があった。


「ちょっとこっち来てくれるか?」

「?」

「?」


その一軒家は杏の家の隣にあった。

まだ灯りは点いてないので、俺はスマホで遠隔操作して点ける。


「これでよし」

「よし……じゃねーー!」

「えっ!?どゆこと?」


ああ、まだ説明してなかった。


「ここが俺の家なんだ。知っての通り両親亡くなってから姉ちゃん夫婦の家にしばらく居候してたんだけど……」

「そうだよねえ?」

「おかしいよなあ?」


「お盆に子猫の里親になってから、こっちで飼うことにしてた。でも家の中に一人ぼっちだと寂しがるから、けっきょくこっちに住むことにした」

「一之瀬さんちの隣かよおおおお」


もともとお隣さんなんですけどねー。サーセン。


「そういえば、だんだん思い出してきたかも」


楓が遠くを見るような目で、ニヤァ〜っと笑みを浮かべて言った


「杏ちゃん、小さい頃から嬉しそうに隣に住んでる子の話してくれたことあったけど」


うっ。

ギクッ……。


「あれは小椋くんのことだったんだねえ。小5あたりからその話しなくなってたけど」

「ま……、まあ、翔太の両親のこともあるから配慮してくれたんじゃないか?」

「うん。そうだね」


半分は正解だと思う。

でも楓にへんな邪推させたくないから、こっちに戻ってからは杏に口止めしてました。すみません。


「とりあえずこれやる。2人とも今日は早く家に帰った方がいい」

「これやる、って……、電動アシスト自転車……シノマ製の限定モデルじゃないか!」

「どうしたのこれ」


ガレージの中から出したそれを見て唖然とする頼斗。

(しかし当然のように楓も分かるのか……)


小中男子の欲しがる乗り物の中で実用性安定の電動自転車。

パチモンは数知れず、国産メーカーの純正品は中古のスクーターよりも高嶺の花なのだった。


「親父と母さんが居なくなってから親戚の人たちから色々もらった見舞品や慰労品やらの中で置き場所に困ったやつがこれだった」

「乗らないの?」

「乗ったら確実に盗まれるから乗らない」


ああ……そゆことかあって反応する2人。

話が早くて助かる。

それが2台もある。


「失くしても俺は構わないから、やるよ」

「だっ、だめだよこんな貴重なもの…」

「ありがとうございまぁあああす!!!うひょおおおおおおお!はええええええ」


一目散に頼斗は駆け出してその影は道の彼方へ小さくなっていった。


「……」

「か、必ず返しに来るから……っ」


いろいろあって本来の予定は台無しになったけど、

遠慮がちでも、何やらウズウズと興奮を隠せない楓のリアクションが可愛くて、

今日はそれだけで満足だった。







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