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友人転生

 「ー…っ何で俺が女なんだよォオ!!?」

「へへ、いいじゃんかよ…似合ってるし」

「嬉しくねーよ!!」


 ひらひらのスカートをふわりと風に遊ばせながら、幼馴染の優馬が顔を真っ赤にして抗議した。実際、甲高い声や真っ白な素肌は転生前の優馬とはほど遠く、どこからどう見ても可愛らしい女の子だ。その姿に若干見とれつつ、俺は口元がニヤけるのを止めることができなかった。


「いやあ、良かった…俺じゃなくて」

「ふざけんなよ!?もう一回転生やり直しだろ!」

「まあまあ、命があっただけ良かっただろ?それに、もう異世界への旅は始まってるんだし」


 沸騰したヤカンの如く叫び続ける「優馬ちゃん」をよそに、俺は見渡す限りの草原に目をやった。地平線の彼方に、小さく風車が見える。あそこに村があるのだろうか。


 ここが、異世界「グローディア」。地球以外の世界を見るのは、これが初めてだ。この世界に蔓延る悪を倒すため、俺達はM県T市の南病院前バス停から、ついさっき転生してきたのだった。






「転生して、私達の住む世界を救ってくれませんか?」


 人気のないバス停で、俺達は見知らぬお婆さんにそう話しかけられた。ちょうど、部活が終り自宅に帰っている途中だった。初め、俺はポカンと口を開けるだけで何も反応できなかった。優馬は呆気に取られ、持っていたバスケシューズを落とした。


「え…?」

「今なんて…?」


 俺達は顔を合わせた。いきなり何を言い出すんだこのお婆さんは。「小説家になろう」の読みすぎなんじゃないか。戸惑ったまま、もう一度顔を戻すと…なんと、一瞬のうちにお婆さんの姿は消え、目の前に妖精のような羽の生えた、銀髪の女の子が立っていた。俺達は腰を抜かした。


「「!!」」

「…もう一度お尋ねします。転生して、私達の住む世界を救ってくれませんか?」

「え…ええっと…」

「貴方は?」


 恥ずかしながら俺は同い年くらいの、見たこともないくらい美しい少女にタジタジになってしまった。すると、優馬が果敢にも質問を繰り出した。


「私はハイネ。ここではない世界、グローディアから来ました」

「転生って?何で俺達に?」

「それは…別に、誰でもよかったんですけど…」

「誰でもいいんかい!」


 俺達はずっこけた。てっきり自分が特別に選ばれた人間になったのかと思ったが、「小説家になろう」の読みすぎだったようだ。目の前をトラクターが走り抜けていった。


「誰か暇そうな人いないかな、って見渡して、最初に目が入ったのがあなた達で…」

「うーん…」

「別に、俺達だって暇してるわけではないよな…学校だってあるし」


 俺達はもう一度顔を見合わせた。銀髪の少女が複雑そうな顔をして目を伏せた。


「それに…向こうの世界に干渉するには、まだまだ不確定要素が多くて…。そういう危険も、特にいいかな、って人を探してて」

「それが俺達だったのか…」


 俺は二、三歩後ずさった。何だか面倒なことに巻き込まれそうな気がする…。


「一体どんな危険なんですか?」

 バスケシューズを拾い上げながら、優馬が尋ねた。3個先の信号に、目当てのバスが停車しているのが見えた。

「それは、色々です。運良く勇者に転生できればいいですが、失敗して魂が消滅したり、性別や年齢が変わってしまったり…」

「魂が消滅…」


 そんな最大級レベルの命の危険を、「特にいいかな」って思われる俺達ってどれだけ下に見られているんだろう?俺は若干引き気味だったが、優馬は逆にノリノリだった。


「いいじゃん!やろうぜ!」

「やろうって…そんな気軽に…」

「いいんですか!?良かった!」


 俺の言葉は待たずに、優馬とハイネが勝手に盛り上がった。


「おい!ちょっと待てよ!そんな簡単に決めていいのかよ」

「いいだろ別に。学校はいつでも行けるけど、異世界は中々行く機会なんてないぜ」

「でもよ…」

「では、今彼方から向かってくるバスに乗る時に、このチケットをかざしてください」


 ハイネはそう言って銀色に光るカードを取り出した。ちょうど定期券くらいの大きさのカードだ。俺達がそれぞれ受け取ると、ハイネはにっこりと微笑んだ。


「ではお二人とも、良い旅を。無事に魂が定着しましたら、グローディアでお待ちしております」

「あ…おいちょっと…!」


 …瞬きしている間に、少女は目の前から姿を消してしまった。俺達はまたしても顔を見合わせた。狐に抓まれたかのような話だが、手のひらの中には銀色のカードが残されていた。信号が青になり、目当てのバスが震えながら停車すると、目の前でゆっくりと扉が開き始めたー…。








「…さあ行こうぜ!まずは『幻獣の森』を抜けるんだ!」

「待てよ!歩きにくいんだよこの服…ったく、なんでお前の方がテンション高くなってんだ」


 ぶつくさ言いながら、優馬が後ろからついてくる。無事勇者に転生した俺は、女僧侶に生まれ変わった野郎と共に最初の目的地へと歩き始めていた。気分はロールプレイングゲームの主人公だ。俺は『始まりの村』でもらったパンフレットを開いた。


「惑わされんなよ!ここの獣は幻術を使うんだ」

「わあってるよ…」

「おい見ろ!」


 森に一歩足を踏み入れると、早速魔物が目の前に飛び出してきた。なんともレベルの低そうな、岩でできた魔物…ゴーレムだ。俺は腰に備え付けられた剣をさっと引き抜いた。


「下がってろ優馬!お前は今女の子なんだ!戦いには向いてない!」

「うるせえ!いちいち言うな!」


 いちいち反応するのがおかしくって、俺は優馬をからかいながら魔物の相手をした。魔物の方は、案の定というべきか、俺達の姿を見た瞬間驚いたように尻餅をついてしまった。序盤にありがちな、弱い敵なのだろう。モゴモゴと理解できない魔物語で命乞いをした後、俺が振りかざした剣を見て一目散に逃げ出そうとした。


「追うぞ優馬!」

「はいはい…」


 すっかり興の醒めた優馬を置いて、俺はノリノリでゴーレムを追い回した。数十メートル先の大木の根元にまで追い詰めた所で、俺は勢いよく剣を振り下ろした。声にならない断末魔を上げて、なんとも呆気なく、土の魔物は絶命してしまった。


「おい、早く来て見てみろよ!」


 俺は森の入り口でダラダラと付いてくる優馬に呼びかけた。ゴーレムは倒された後白い煙に包まれ、その姿を此処から消そうとしていた。いつか見たゲームと同じだが、現実でこの目で見ると何とも不思議な現象だ。金貨にでも変わるんだろうか。じっと目を凝らしていると、やがて魔物はアイテムへと変化した。


「あれ…これって…」


 俺はそのアイテムを拾い上げた。どこかで見たことのある…ただのバスケットシューズだ。一体どこで見たのだろう…。


「…だから教えたでしょう?望んだものに転生できるとは限らない、って」


いつの間にか後ろにいた優馬が、俺の背中で聞いたこともないような甘ったるい声で囁いた…。

 


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