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となりの王子は腹黒でした。  作者: 水嶋陸


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うさみんの事情聴取2



 宇佐美の見立てでは、九条が朱里に何らかの特別な感情を抱いていることは明らかだ。それは朱里が会社で倒れた時の九条の反応を見た時から勘付いていた。そして今夜、特殊な事情があったとはいえ朱里と同居した話を聞いて確信した。


 「『それに』何?」

 「ん~内緒です」


 平淡とお酒を飲んで食を進める宇佐美の潔さに感心しつつ、朱里はグラスに視線を落とした。三ヶ月後には九条の隣にいられなくなる。こうして宇佐美に愚痴を零すことも難しくなる。それは想像よりずっと心細いだろう。


 「もしもの話だけどさぁ……仕事と恋愛どちらかを優先しないといけない時がきたらどうする? 好きな人と離れて、温かい居場所を手放しても迷わず仕事に打ち込める?」

 「極端ですね。どうしてそこで両方掴み取るって選択肢が出ないんですか」

 「……!!」

 「先輩は女としてだけじゃなく、同僚として――ビジネスパートナーとして九条さんに認められたいんでしょう? だったら仕事に打ち込んで、それを見守ってもらったらいいじゃないですか。それとも、離れたら先輩の気持ちは変わるんですか?」


 ぐっと言葉に詰まった。宇佐美の主張はもっともだが、両方欲張れるほどの技量がない朱里にその発想はなかった。


 「……変わらないと思う。でも、九条さんは周りの女が放っとかないからあっという間に掻っ攫われそう。そのうち『結婚します』報告を異国の地で受け取ったわたしは砂漠の塵と化すのよ」

 「異国の地? 先輩、異動するんですか?」

 「!! い、いや例え話だよ」


 もごもご口ごもる朱里の事情を察し、宇佐美は前のめりになった。


 「誰かにとられるのが嫌なら告白すれば」

 「無理」

 「じゃあ告白させる」

 「もっと無理!」

 「はぁ―――――筋金入りの非モテ卑屈根性ですね。先輩が恋愛に対して臆病なのは過去の失敗のせい? 何があったか知りませんけどいつまでも図々しく受け身でいたら独身街道まっしぐらですよ。黙ってても手を差し伸べられるのは私みたいな美人の特権です」

 「その通りだけどぉぉぉお」


 いじけに拍車がかかった朱里はジョッキの底でゴンゴンとテーブルを叩いた。宇佐美は呆れ混じりに嘆息し、艶やかな髪を肩から払う。


 「そんな風に腐ってないで喜んだら? 社内で指折りのいい男が二人も捕獲圏内にいるんですよ? 羨ましい限りです」

 「それって三好もカウントしてる?」

 「当然! 三好さん捨てがたいですよ~。せっかくだし一回くらいデートして味見したらどうですか。相性大事ですよ色んな意味で。ご無沙汰な先輩にはちょうどいい相手じゃないですか。遊んでそうに見えて誠実っぽいし、優しくリードしてくれそう」

 「う、うさみん? 話聞いてたよね? 私は九条さんが……」

 「だから何です。現時点で九条さんに操立てる必要ないですよね。付き合ってるわけじゃないんだし問題ナッシンですよ」


 しゃあしゃあとGOサインを出した宇佐美は突然、綺麗な唇の端をつり上げた。


 「あーでも九条さん涼しい顔して独占欲強そうだな~。もし恋人になって、過去に三好さんと関係したってバレたら三日三晩くらい足腰立たなくさせられそう。気をつけて下さいね?」

 「ブフォ!! げほごほっ」

 「毎度な~んでこの手の話になると恥ずかしがるんですかね。中学生みたいな反応してないでさくっと行動! 固く閉じちゃったシジミみたいに食べ残されたまま捨てられたいんですか!?」

 「せ、せめて砂を吐かせて……!!」 


 朱里は息も絶え絶えにおしぼりで口元を拭った。


 「もう結婚意識してもおかしくない年齢なんですからこじらせてないで一皮むけて下さい。ツルッといけばいいんですよツルッと」

 「実が全部皮にもってかれて種になりそう」

 「種になったら拾ってあげますよ。で陽当たりのいい畑に蒔いてあげます」

 「来世で報われるフラグをありがと」


 できれば今世で報われたい。胸の中で呟いて残ったお酒を飲み干した。


 「先輩はお堅いですけど、九条さんと三好さんを天秤にかけたくないなんて少女漫画のヒロインぶってないで、どちらが自分に合うかしっかり見定めて下さい。付き合ったら結婚するかもしれないんですから、投資先を吟味するのは当然です。人生の一大博打ですよ」

 「た、逞しいね……」


 へっぴり腰になった朱里は二人の顔をほわんと思い浮かべた。


 「三好は同期として信頼してるし、好きか嫌いか聞かれたら好きだよ。付き合ったらきっと大切にしてくれる。安心して側にいられると思う。たぶん性格的には三好の方が合ってる」

 「ふんふん。じゃあ九条さんは?」

 「九条さんは何を考えてるのか分からないから時々不安になる。意地悪で腹黒いし俺様男で腹立たしい。でも……」


 わたしの心を動かすのは九条さんなんだ。


 改めて気持ちを整理してみると、やはり九条が好きだという結論に達する。無意識に恋する乙女全開の表情を披露した朱里は可愛らしく、宇佐美はニヤニヤした。 


 「相手は社内1の超優良物件。難易度、競争率ともに最高ですが頑張って下さいね? 私ならとにかく、ポッと出のトンビ女に横取されたら色々、"うっかり"口が滑るかもしれません。先輩、まだ命惜しいですよねぇ」

 「うっ……!!」


 悪魔だ――――!! 


 宇佐美は楽しげに笑っているが、目が本気だ。朱里は震える奥歯を噛み締め、神妙に頷いた。






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