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おやつの時間は、和菓子じゃなきゃ!

この物語はフィクションです。

ここは今日も平和な町、桜花町おうかまち。その名の通り、春になるとたくさんの桜の木たちが一斉に花を咲かす。桜の木がどこの町よりも多くあるため、桜一式に染まる桜花町は春の観光スポットとしても有名な町なのである。

そしてもう一つ。この町には、知る人ぞ知る有名なお店があるのです。


◇◆


「いや〜、今日も良い天気なのです」


(青空を眺め、誰に話しかけるわけでもなくいつものように独り言を言うこの女の子…そう、私こそがこのお話の主人公、天乃小春あまのこはる

ちょぴり猫目なぱっちりりおめめに透き通った白い肌。ぷっくりとした唇。まさに美少女とも言える顔立ちに加え、肩より少し下まで伸びるさらっとして艶っとした栗色の髪。そしてモデルのような体型。これはもう完璧としか言いようがないのです。あえて欠点を言うなら身長が平均より低いことと童顔なことですね。

と、まぁ自己紹介はこれくらいにしておいて、早速お話の続きに戻りましょうか。)


「さてと、そろそろ開店の時間ですね。」


店内と店頭のお掃除を慣れた手つきで終わらせた小春は、店内から看板を出し、お店の扉にかかっている表札をCLOSEからOPENの文字に変えた。


和風喫茶まろん。それがこのお店の名前である。


◇◆


「こっはるーん、おっはよー!」


扉が開き、元気良く入ってきたのはお客様ではなく、この店の従業員の一人。山里紅葉やまさとくれは。ボーイッシュな見た目をしているため初対面の人にはよく男の子と間違えられる。そのせいなのか、中身は人一倍女の子らしい子なのだ。ただ、外見を変えるつもりは全くない、と本人は口癖のように言っている。


(あれ、今日は紅葉さんは当番ではないはず…。)


「おはようございます、紅葉さん。今日は非番ですよ?」


首を傾げる小春に、紅葉はニコッと笑い、今日はお客として来たのだと告げた。その答えに納得した小春は対応を接客モードに切り替え、いらっしゃいませ、と笑顔で歓迎した。


ここのお店の内装はもちろん外装も和風で統一されている。席は座敷席とカウンター席。正座が苦手なお客にもご来店していただけるよう、あえてカウンター席を設けている。というのは建前で、本音を言ってしまえば、ここは小さい敷地なので全てを座敷席にすることが出来なかったのである。


「ここって本当に居心地が良いよねー」


カウンター席で一人、お茶を飲んでほっと一息つく紅葉。その言葉が一番嬉しいかもしれない、なんて思いながらも向かいで鼻歌交じりに新作メニューを考えている小春。

開店からもう数十分が経過しているのだが、お客はまだ紅葉のみ。


(けれど、紅葉さんと二人っきりの空間というのも私にとっては幸せなものなのです。)


◇◆


あれから数時間。二人で新作メニューを考えることに没頭していた。ふと気がついて時計を見ると、もう三時前だった。そのことに驚きを隠せないでいると


「すみません、予約とかしてないんですけど入っていいですか?」


急に開いた扉から顔を出したのは大学生くらいの女の子だった。私は笑顔で軽く頷き、いらっしゃいませ、と言う。

女の子が入ってくると、さらに後からもう一人の女の子が入って来た。こちらの子も大学生くらいに見えるが、一人目の女の子よりは少しだけ幼く見えた。


席は好きなところに座るように伝え、二人が席についたのを見計らって、お茶とおしぼりをそれぞれの相手の前に置く。


「メニュー表はこちらになります。」


決まりましたら声をおかけください、と言い、自分の立ち位置に戻った。


「本日、初めてのお客様だね」


カウンター席のほうに戻ると、紅葉さんが嬉しそうな声でそう言った。私も弾んだ声で返事を返す。そんなやりとりをしている間に、すみません、と声がした。すぐお客様のもとへと行き、サロンエプロンに付いているポケットから紙とペンを出した。


「あの、ここってケーキは無いんですか?」


予想していなかった質問なのか小春は首を傾げたまま黙った。質問した当の本人たちも、そんな小春の反応を見てどうしたらいいのかわからなくなり、困った表情でお互いの顔を見合わせた。


「ここは和風喫茶。申し訳ございませんが、洋菓子ではなく和菓子を取り扱っております。」


そう口を開いたのは二人組のお客でもなく小春でもない。紅葉だった。しばらくの間、二人組は不思議そうに紅葉を見つめる。紅葉は自分が私服だったことに気付き、自分がここの店員の一人であることを話した。すると納得したのか、そうですか、とだけ返事を返すと再びメニュー表に目を向けた。


「…なきゃ」


先ほどから黙ったままだった小春が小さい声で何かを言ったかと思いきや、今度はテーブルをバンっと叩き、


「おやつの時間には、和菓子じゃなきゃ!」


はっきりと聞こえる声でそう言ったのである。

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