CreatorS WarS ~The second day~
The firstday.の続きとなります。
まずはそちらを御覧ください。
その後、興味を持たれたかたはお読みください。
夢を見ている。
森の中を、走り回っている双子。
それを見て笑う若い男の姿。
日本ではない、別の国の光景。
緑の葉が、陽の光に濡れている。
それは何処にでもある、ありふれた光景だった。
湖の近い、深緑の森。
吹き抜ける風は幸福の音色を奏でていた。
まるで絵本の一頁を永遠に封じたような、そんなイメージを受ける。
双子は笑う。
あどけなさの残る顔で、終わりなく。
若い男も笑う。
疲れからだろう、少しやつれた顔で。
幸せが満ちていた。
この情景、この幸福に入り込める隙間などありはしない。
だが。
その終わりは突然だった。
降り注ぐ光に包まれた双子は、蒼空へと昇っていく。
笑いながら、そうすることがさも当たり前のように。
当然、若い男は嘆いた。
あの子たちの何が悪かったのかと。
その言葉に、『主』は応えた。
「汝が童子に名を問うた。その者、全天を守護する者にして――――――」
☆ ☆ ☆
「―――ズキ。―――カズキ」
……誰かが遠くから僕の名前を呼んでいる。
幸せな景色が遠ざかる。
最後まで若い男は哀しみの声を上げていた。
その男の上。
蒼空の双子は笑い、踊る。
いつまでも、いつまでも。
蒼空には燦々と照る太陽。
その輝きに包まれるように景色は消え、僕は眼を醒ました。
頬に感じた冷たさに、惚けた表情を浮かべる。
「カズキ?大丈夫?」
横からかけられた声に振り向けば、サンが心配そうな顔で僕を見ていた。
目尻に溜まっていた一滴がシーツに落ちる。
「うん、大丈夫だよ」
その言葉に、嘘偽りはない。
あの夢がなんなのか、解らないけれど。
きっと大丈夫。
「寝てたらダメだよね……さ、行こうサン」
「行くって何処に?」
ポカンとして問うサンに笑いかけながら。
「この馬鹿げた世界を壊しに」
そして、二日目が始まる。
☆ ☆ ☆
そんな大言壮語を吐いたところで、先ずはもっと詳しくこの世界を知らなければならない。
それはサンも同意だった。
そもそも、何も知らずに闘おうと思わないし。
そういったわけで、リビング。
サンから、より詳しい情報を聞くことにする。
「この世界の始まりは、カズキが想像を書き記したことだよ」
サンは淡々と語る。
「その書き記した想像を具現させる何かが起きた。だから今のような現状になってる。その何かがなんなのかはボクも解らない。所詮ボクは形ある想像だからね。カズキは6人の友達と想像を書き記したはずだよね?だから、戦う必要があるのは最低1回。まあ、昨日の夜戦ったわけだけど。でも、あの黒騎士はおかしいよ。あれはどんな英雄なのか解らない。フルンディングを持ってて、太陽に包まれても死なない英雄なんていないんだ。」
確かに、そんな英雄は存在しない。
フルンディングはベオウルフのシンボルだ。
黒騎士がベオウルフだというのならば話は別だ。
だが、明らかにベオウルフではなかった。
アレは他の何かだった。
「超常を無視するなんてあっちゃいけない筈なのに……」
「超常?」
「そっか、わからないよね。そうだね、仮にこの家を常識とする。つまり、この家のルールや、家具の配置、全てが常識なんだ。とすれば、隣の家はこの家と異なっているから、隣の家は異常になるよね」
ここまではわかる?とサンが僕に聞く。
「うん、なんとか」
「了解、じゃあ続けるね。何年も経って、この家を売ったとする。そして、この家に赤の他人が住むことになった。異常が常識の中に入ってきたわけ。すると、異常は最初、常識を異常に思うんだ。でもいつしか最初感じた異常は常識に変わって行くんだ。超常は、異常でありながら常識になっているもののことを言うんだ。僕の技は太陽を模してる。太陽も超常に分類されるひとつなんだ。だから、異常や常識は超常を無視出来ない。でも黒騎士はそれを無視した。考えられることは、黒騎士自身が超常の存在、若しくは超常の更に上……神秘の存在なのかっていうことだね」
仮に黒騎士が神秘の存在だとしよう。
だとすれば、黒騎士を打倒する可能性はあるのか。
そこが肝心になる。
サンの返答は至極簡単なものだった。
「ボクは黒騎士を倒せない」
「神秘……神の秘術によって産み出されたものは、神の秘術でしか壊せない。もし想像の中に神の力を持つ英雄が存在するなら、その誰かだけが黒騎士を倒せる。」
例えば―――と、サンは名前を挙げる。
「イアソン、ヘラクレス、カルナ、ワイナモイネン……そういった神の血が流れている英雄がいれば」
金毛羊皮のイアソン
大英雄ヘラクレス
太陽神子カルナ
老いて不抜なるワイナモイネン
いずれも世界に名を馳せる英雄である。
しかし所詮この世界の根幹は子供の想像だ。
今だからこそ知っているものの、当時は知らない英雄だった。
果たして友人たちが神秘に該当している英雄を想像しているかが黒騎士を倒す唯一の手段だ。
―――?
あれ?
この世界が終わるのは勝者がでたら。
なら、勝っても負けても結果は同じなんじゃないか?
「サン、負けたらどうなるの?」
「―――――」
サンは俯き、真一文字に口を結んだ。
「サン?」
「―――――ぇる」
「……な、に?」
掠れた声で、サンは確かに言った。
消える、と。
「は、え。あ、そうか、この世界から消えるんでしょ?つまり、元の世界に帰るんだよね。じゃあ―――」
「結幻実界」
「……なにそれ?」
「幻と現実を強制的に繋げる結界だよ。幻実と現実。片方で起きた事象はもう片方にも顕れる」
「―――――」
頭が真っ白になった。
つまり、僕は。
生き残るために過去の友人たちを殺さなければならない―――?
そして負ければ。
「それはダメだ。僕は、戦わない」
歯を食いしばって声を絞り出した。
同時に理解した。
これは本物の死戯だと。
「でもカズキ、逃げたところで戦いは避けられないんだよ。逃げは苦しみを長引かせるだけで、根本的な解決には至らない。だから、戦わないと」
「そんなこと分かってるさ!ああ、いやになるほど分かってる……でも自分が生き残るために友人たちを殺せ?出来ないよ!残された人の悲しみを知ってる僕には出来ない!父さんと母さんが事故で死んだころの僕の気持ちを誰かに与えるなんてダメだ!人殺しはダメなんだ!」
「……」
「サンはどうせ死んだところで本当の死じゃないからそんなことが言えるんだ!でも僕は、僕たちは生きてる。本当の意味で生きてるんだよ!だから―――――」
「黙って聞いてりゃゴチャゴチャ五月蝿ェんだよ。とっとと腹ァ括れや羽切ィ」
突然に部屋に転がった声に僕は口を閉ざし、声のした方向を見た。
黒い服装に食わえ煙草の男が窓に座って僕を見ていた。
「君は、昨日の」
昨日の夜、僕を引き摺った男―――――
「てめェ変わったなァ?ガキん頃の……なんだ、覇気ってェのか?それがねェ。ッたく詰まらねェヤツんなったなァ?やっぱアレか?ママの乳が恋しいってか?それともパパの高い高いが忘れられねェってか?」
「お前―――――」
「おーおー、そんな怖ェ顔すんなって。オレァもうてめェに会えて嬉しいんだからよォ。水指すなや 」
「……カズキ、誰だい?」
サンは右手を握り締めて警戒心を隠そうともせず僕に聞いてくる。
「おいおい、サン……だったか?オレァな、こいつの昔のダチだ。だが、こいつオレを覚えちゃいねェ。いいか羽切ィ、思い出せよ?オレの名はなァ―――――」
「黛謙嗣ってンだ」
☆ ☆ ☆
黛謙嗣。
あの頃つるんでいた友人たちの一人。
と言ってしまえば簡単だ。
だが、謙嗣はそれだけでは語れない。
その背中に背負う罪は、誰にも理解出来ないだろう。
そもそも、一人にのし掛かる罪ではない。
浅ましき人類の業とでも言うべきか。
その背中に―――――果たして何人の夢希望怨念妄執が覆い被さっているのか。
謙嗣は、昨日の夜のことをひたすら知りたがった。
主にサンへの質問攻めだ。
黒騎士はどうだったやら、手応えはどうだったやら、アイツの正体はなんなのかやら。
「……はァ、そーゆー訳ねェ?」
あらかた質問しつくした後、謙嗣は言った。
「神秘の存在……あァ、そんなら納得だ。ジジィがあんなに呆気ねェ殺られ方したンも頷けらァ」
「謙嗣さん、ジジィって……?」
サンが謙嗣に聞いている。
「ン?あァ、オレの想像だよ。ベオウルフ。ッたく、英雄の名が泣くぜあのジジィめ。ひとっつも良いとこなんざありゃしねェ」
まァ神秘が相手じゃなァ、と謙嗣が溜め息をつく。
「ベオウルフ!?ベオウルフって言った!?彼が負けたの!?」
サンが猛烈な勢いで畳み掛ける。
これには謙嗣も驚いたようだ。
「お、おィ、ちィと待て!ッつかお前見てねェんかよ!?」
確かに、あの時サンは僕を追いかける形で黒騎士と対面した。
あの空間で最も異常であった黒騎士に意識が向き、消えかけていた老騎士を見ていなくても不思議ではない。
「負けたのか……彼の剣を彼の黒騎士が振っていたから、まさかとは思ったんだけど……」
「あァ、見事に一太刀だったぜ。栄華散る龍刃の閃光の中を駆けてきて肩から股下までバッサリだ」
トスッという気の抜けた音とともに、サンはソファに体を預けた。いや、脱力仕切った体をソファが支えたという方が正しいのか。
「龍殺しが効かない……?龍殺しは限りなく神秘に近い……それが効かない……?そんな風に神を否定することができるのは亡霊船長くらいのはずなのに……」
「ファンデルデッケン?」
「彷徨える阿蘭邪人……北欧に於いて神を冒涜したために永遠の航海を与えられた亡霊の事だよ。昇穹霊霧・彷徨幽城って言えばわかる?」
その名前は耳にしたことがある。
数年前の海賊の映画にそういう名前の海賊船が出てきたのを覚えている。
その海賊船の船長の名がファンデルデッケンだったはずだ。
「彼のみが持つ特性が涜神宣言。神秘を異常の域にまで貶める絶対特性だよ」
つまりそれは神秘を自分と同じ土台に置くということ。
神と対等に渡り合うことのできる唯一の力だ。
「おい、サンって言ったかァ?てめぇはいつまで隠し続けてンだよ?」
「え?」
隠す?
何の脈絡もない唐突の会話についていけない。
なにを?誰に?何故?
「おい羽切ィ。てめぇはコイツを信じるか?てめぇの命ァ預けられンかよ?」
そんなこと考える必要もない、と首を縦に振った。
今の僕にすがり付けるものはサンだけだし、信じていくしか選択肢がないのが現状だった。
「……あァ、そォかよ。なら、オレもその賭けに乗るとするかねェ?」
謙嗣はそう言ってサンを見た。
サンは謙嗣を睨み殺さんとするように見ている。
それと対照的に謙嗣はその視線を楽しむかのように口元に笑みを浮かべてサンを眺めている。
一体謙嗣は何を知っているんだろう?
「だとよ、サン。期待はでけェぞ?」
「君に言われる筋合いはないよ。もとからボクはそのつもりだ」
「……」
口元をほんの少しつり上げ、謙嗣は視線を外した。
そしてポツリと。
「神のくせに、倒せないッたァなんなんだァ?」
サンが拳を握りしめる。
「貴―――――」
頬から飛散する塩辛い雫。
サンは分かりやすく―――哭いていた。
「――――ッ様アアアアァァァァアァァァアァッッ!!」
揺れる蒼炎に躍る影。
「ちょっ、サ―――――」
目の前を銀の光が横切った。
さながらそれは稲妻か。
空気を裂いて突き出される木の槍。
有り得ない角度、有り得ない距離、しかしそれは確かにサンの蒼炎を弾いていた。
実際の長さは二メートルにも満たないだろうその槍。
その槍は謙嗣を庇うように、サンと謙嗣の間に入り込んでいた。
「サンとやら、血の気が多いのは結構だが、此処では慎むべきではなかろうか」
謙嗣の後ろから男の深い声がする。
サンの蒼炎は未だに健在。
衰えない蒼炎を揺らめかせ、サンは声の方へ返す。
「……君が、四人目か」
「はて、どうかな。君が四番目に出会った者だということなら、そうなるだろう。だが私は私だ。私に四人目ではない」
「屁理屈を……」
「いや、心理だ。逆に問うが、君は表か裏か?」
「何を―――――」
「すまない、踏み込み過ぎたな。我が名はパーンドゥ五王子の筆頭、アルジュナ」
「な――――!」
何を言っているのか。
名とはつまり伝説を知らせること。
即ち己の弱点を晒すことだ。
「なに、私は王子であるが故に名乗らねば落ち着かぬのだよ。深い意味はない」
そう言って、謙嗣の後ろの景色が歪み、大柄な男が現れた。
身体を覆うのは真紅の甲冑。
頬に刻まれた傷痕。
瞑目しているにも関わらず感じられる異様なまでの眼力。
「アルジュナ……?」
僕の記憶には、アルジュナという英雄はない。
分かるのは世界に名高い英雄くらいだ。
「印度の英雄だよ、カズキ。間違いなく―――一流の英雄だ」
サンの声が耳にはいる。
しかしまず確認すべきは。
「謙嗣……彼は君の……?」
アルジュナと名乗る想像が、誰によって創造されたのか。
「あァ、違ェぞ?コイツは涼太の想像だ。オレんじゃねェ。―――オィ!隠れてねェで出てこいよ。懐かしの御対面だァ」
アルジュナの後ろから一人の男が顔を見せた。
おかっぱ頭に黒縁眼鏡。
記憶の引き出しの中、確かに男は存在していた。
夏野涼太。
僕の友人の一人。
「や、やあ、羽切君、久しぶり、だね?」
おどおどした話し方。
ああ―――彼を僕は知っている。
「久しぶり……なっくん」
いつも教室の隅で本を読んでいるような、自分の世界を持っているように見えた彼。
離れていくのも突然でびっくりしたっけ。
「羽切君の、想像は、強そう、だね?」
その言葉に誰よりも早く反応したのはサンだった。
「ラーマーヤナの大英雄の前で言えるほど高尚な想像じゃないよ、ボクは」
その言葉に含まれる嫌味。
アルジュナはサンを見て一言。
「……太陽に私は敵わない」
そんなことを呟いた。
☆ ☆ ☆
取り敢えず、その場で戦闘になるようなことはなく、これからの事について話をした。
敵対するはずのサンとアルジュナが居るだけで空気は重かったが、サンはつとめて明るくしていたし、アルジュナは逆にあまり口を開かなかった。
不思議なもので、数年ぶりの再会であれ、気が重くなるようなことはなかった。
それどころか、過去の話で盛り上がれたくらいだ。
そして話はやはり今回の件に辿り着く。
「なァ、結局俺ら以外に誰がいんだァ?」
3人とも顔を見合わせた。
六人いた。
それだけは間違いないのだ。
もうひとつわかっていることは、うち二人が女であること。
これは先程の話し合いの中でわかったことだった。
新瑞宮蘭奈
兼原愛
この二人だ。
もう一人の男がどうしても思い出せなかった。
顔どころか、3人とも「いたっけそんなやつ?」という感じなのだ。
女二人の名前は覚えていたのに、3人ともあと一人だけがどうしても思い出せない。
「まぁ何年も前のことだし。」
ということで、話は闘いに移る。
先程サンから聞いた結幻実界の話は、二人に驚きをもたらしたようだった。
当たり前だろう。
これは遊びじゃない。
お互いの命のやり取りなのだと思い知らされたのだから。
「じ、じゃあ、羽切君は、僕を、殺すの?」
なっくんはおどおどしながら僕に聞く。
「ば、馬鹿言うなよ。僕がなっくんを殺すなんて―――」
あるわけない、と言い切れるのか。
思わず言葉につまった。
言い切れない。
言い切れる筈がない。
この世界が勝者だけに傾くならば、がむしゃらに勝者を目指すだろう。
僕もそうするに違いない。
なっくんは眼に見えて震えている。
その時、これまで沈黙を貫いていたアルジュナが口を開いた。
「安心せよ、涼汰。お主は私が護ろう。炎が襲うなら壁になろう。水が襲うなら舟になろう。そして―――」
一拍おいて、
「太陽すら、この身と引き換えにしても崩して見せよう」
そんなことを口にした。
「へぇ、そう。じゃあ試して見るかい?」
サンの右手は握りこまれている。
少しでも力を籠めれば、蒼炎がそれを覆うだろう。
しかしアルジュナは首を横に振った。
「いや、止めておこう。いまはまだその時ではない。相容れぬ英雄同士、その時が来れば嫌でも刃を交わしあう事になるのだからな」
アルジュナはその腰を上げた。
「じきに夜更けだ。私達はこれで帰投するがよろしいな?」
「……好きにすれば」
サンは唇を尖らせて返した。
「そうか。ではな」
アルジュナはしっかりと玄関から出ていく。
それを追ってなっくんも走っていく。
謙嗣もそれに倣った。
ただ、帰り際に、
「俺はもう助からねェからよォ、好きにさせてもらうぜ?」
そんな言葉を残していった。
☆ ☆ ☆
残されたのはサンと僕だけになった。
する事もなく、あれから随分長い間座っていたように思う。
未だに僕は半信半疑ではあった。
あまりに眉唾物。
どんな物語を書いていたにせよ、こんな筋書きを当時の自分が考え付く筈もなかった。
明らかに誰かの陰謀とでもいうべき何かがあると確信していた。
根拠は僕の確信だけ。
謙嗣のベオウルフ。
涼汰のアルジュナ。
僕のサン。
誰かの黒騎士。
そして未だ見ぬ二人の英雄。
この中で一人を除いて死ぬ。
仮に僕が残ったとしても、これまで通りの生活をしていくなど不可能だろう。
己が命のために友人たちを切り捨てた自分を自分自身が許せないだろうから。
そこで一つの可能性が見えた気がした。
この世界が僕たちの想像で創造されているのならば。
想像を破壊することで創造が崩れていくのならば。
この死戯のルールを想像した誰かを倒せたなら、この世界から抜け出せるのではないか?
「サン、この世界を構築しているのは僕たちの想像なんだよね?」
確認の意を込めて尋ねた。
「そうだよ。この世界はカズキを中心とするネットワークによって形作られている。それがどうかしたの?」
思った通りだ。
だとすれば、この仮説は現実味を帯びることになる。
つまり。
「このルールを想像した誰かを倒したら、結幻実界は崩壊するんじゃない?」
「……」
サンは目を見開いた。
やはりそうか。
なら、やることは決まった。
窓から月光。
星は遠い。
冬の息吹を微かに孕んだ風は冷たく、素肌には厳しい針を刺している。
誰も消さず、誰も罪を背負わぬ結末を。
そう心に誓った。
★ ★ ★
箱庭を臨む山の頂にソレは腰掛けていた。
銀の髪に金の瞳。
白い肌に紅の舌。
幼い身体に纏うのは薄いベール。
月を背に片膝を抱き、眼下の街を俯瞰している。
腰まではあろうかという長い銀髪は星の光に濡れている。
背に輝く月よりも鋭い金の眼光は一点のみを見つめていた。
心臓を貫かれた男が倒れ、その横には女が短剣を自身の胸に突き立てていた。
これが人間か。
これが人間の在り方か。
ただ少し背中を推してやっただけなのにとソレは嘆いた。
自身の干渉の大きさに涙した。
何をしようと崩れていく世界に吐き気がした。
何のためにここにいるのか、何をしようとここにいたのか。
わからぬ。
ソレは思った。
同時に己の力に酔っていた。
思い通りに世界に干渉することのできる力に酔っていた。
名すら解らぬ己の在り方を知った。
靄のかかった思考に光が射した。
つまりは己は王なのだ。
世界はこの手の中にある。
在り方を知らぬのなら与えればよい。
王であるのなら全てを赦せよう。
しかしてソレは『王』となった。
月の光に風が乗る。
街中の女は粒子になって消えていった。
道端には倒れた男だけが残っている。
……今さらながら届いた女の嘆叫は、『王』の口から漏れ出た笑いに掻き消され、遂に誰にも届かなかった。
漏れた笑いは風に運ばれ、暗い夜空へ融けていった。
その姿を、一人の少女が見上げていた―――――
☆ ☆ ☆
・残騎数五
黒騎士 サン(????) アルジュナ ????
・脱落騎数二
ベオウルフ
Den Lille Havfrue
残日数五
終末の巫女顕れず
終笛確認済
☆ ☆ ☆
The second day is end. And next third day.