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――なぞなぞを解く鍵は、やっぱり数字の前の部分だよね。
そう考えつつ、ボクは文章へ目を走らせる。まず、生き物の名前。熊、蛇、蜘蛛、犬、魚、カブトムシ、狐。全く統一性のないラインナップだ。そして、それらの名前の後ろに子供か大人がくっついている。
――ここの部分が、数字とどう関連しているか。それが分かれば答えも導き出せるんだろうけど……。
「熊の子供、蛇の大人、蜘蛛の大人で十二。犬の子供、魚の子供、カブトムシの大人で十。狐の子供、熊の大人、魚の大人で八……」
取りあえず口に出してみるものの、全く想像がつかない。フィミアの代わりに、今度はボクが唸り声を上げる番だった。名前やら大人子供やら数字やら、様々な情報が頭の中でこんがらがって、一向に考えが纏まらない。
「何がどう関係してるのか、全然分からないよ……」
独り言を洩らすと、不意にフィミアが口を開いた。
「この子供とか大人とか、本当に関係あるわけ?」
「え?」
「だって、熊とか蛇とか、子供と大人でそんな変わらないじゃない」
「そういえば……そうかも」
「でしょ?」
強いて挙げるとするなら、体格くらいか。しかし、それもあまり数字には関係ないような気がする。
――よし、じゃあそこは気にしないで考えてみよう。
腕組みをして、ボクは再び思考に耽った。熊、蛇、蜘蛛で十二。犬、魚、カブトムシで十。狐、熊、魚で八。まだ、よく分からない。だが、しばらく悩み続けていると、先ほどの彼女の言葉がふとよみがえる。
『子供と大人でそんな変わらない』
――待てよ? それじゃあ、この中で似ているのはどれとどれだろう?
問題文を眺め、記されている生き物を分類してみる。熊、犬、狐は確か哺乳類ってやつだ。蛇と魚は仲間のような生物がいないような気がする。蜘蛛とカブトムシは同じ虫のように見えるが、実は少しだけ異なるのだと村の大人が言っていたような……。
――見ただけで分かる簡単な違いがあるんだっけ、確か……。
そこまで記憶の糸を辿っていったところで。
「……あっ」
パズルのピースがピッタリとはまったときのような、会心の感覚が電流のように脳内を走り抜けた。
「あああああっ!」
ボクが無意識のうちに叫び声を上げた途端、フィミアは目を丸くして地面から飛び上がった。
「キャッ! いきなり大声出さないでよ!」
「ご、ごめん。つい……」
「けど、もしかして」
と、彼女はボクの目を下からのぞき込むような格好で、
「答え、分かったの?」
「えっと、まだ確認してないんだ」
彼女にそう告げ、ボクは岩壁の文章に目を走らせる。うん、やっぱり間違いない。
「ねえねえ、どう?」
「えっと、数字が何を示しているのかは分かったと思う」
「ホント!?」
「うん」
ボクは深く頷いた後、少し間を置いてから、ゆっくりと告げた。
「これって多分、足の数を表しているんだよ」
「足の数?」
「ほら、見てみなよ」
可愛らしく小首を傾げたフィミアに、ボクは岩壁を指さしながら言った。
「まず、『熊の子供・蛇の大人・蜘蛛の大人』だけど、それぞれ足の本数を考えてみて」
「んーと、熊が四本でしょ、蛇は足が無いから」
「ゼロだね」
「それで、蜘蛛は八本……あっ!」
ボクの言わんとしている事に気がついたらしいフィミアは、そのパッチリとした瞳を大きく見開いて、
「合わせたら十二本じゃない!」
「そういう事なんだ。『犬の子供・魚の子供・カブトムシの大人』も……」
「犬は四本足で、魚はゼロ、カブトムシは六本だから、合計で十本」
「うん、それで最後の『狐の子供・熊の大人・魚の大人』は、狐と熊がそれぞれ四本ずつで合わせて八本ってわけ」
「エリット、スゴい!」
「いやあ、それほどでもないよ……」
賞賛に満ちた眼差しが照れくさく、ボクの頬は仄かに熱を帯びていた。
「それじゃ、問題の『カブトムシの子供・魚の大人・犬の大人』は、カブトムシと犬の本数を足して、十本って事よね?」
「普通に考えたらそうだと思うよ。でも、ちょっとだけ気になるんだよね」
「何が?」
「ほら、大人とか子供とかってところだよ」
確かに、生き物と数の関係は分かった。けれど、この部分の意味だけは未だ不明のままだ。
「もしかして、『引っかけ』とかあるんじゃないかな……」
そんな疑念が、頭の中から消えない。だが、フィミアはあっけらかんとした表情で、
「まー、あんまり気にしなくていいんじゃない? 実際、数は合ってるんだし」
「そりゃそうなんだけど……でも、やっぱり気にはなるよ」
「うーん、そうね……」
それからしばらく、ボク達は文章と睨み合いっこしながら、それぞれ問題について考えを巡らせていた。
だが、程なくしてフィミアの方が、何かを閃いた様子でパチンと両手を合わせた。
「分かったっ!」
「え、分かったの?」
「うん、エリットの言うとおり、この部分は引っかけだったんだよ。だって」
と、彼女は鉤爪で例の文章を示しながら、
「カブトムシの子供って、芋虫みたいでしょ? 足無さそうじゃない」
「……そ、そっか!」
ずっと悩み続けていた難題が解決した時の、頭の中に立ちこめていた暗雲がパアッと晴れていくような感覚がした。
「じゃあ、カブトムシの子供と魚の大人はゼロ、犬の大人は四本だから」
「そ、答えは四本!」
と、フィミアは自信の笑みを浮かべ、数字の四が彫られている岩を強く押した。
ブッブー。
忽ち、そんな擬音語で表されるような不正解音が虚しく響きわたる。
「……えっ、間違い?」
彼女は意外だというような表情で、目を瞬かせた。
「……みたいだね」
「うーん、考え方は間違ってないと思うんだけど。どうしてだろ?」
「って事はさ」
ふっと頭に湧いた推測を、ボクはそのまま口に出した。
「カブトムシの幼虫って、足があるんじゃ……」
よくよく考えれば、幾ら芋虫みたいだからといって、足が無いとはいえないだろう。
――いや、そもそも芋虫自体にも足はあるんじゃないか……?
「けど、あれって這ってばっかじゃん。歩いてるところなんて見た事ないよ?」
「んー、そうだけど。這うからって足がないとは言い切れないし」
「じゃあ、何本?」
「え?」
急に投げかけられた問いに、ボクは面食らった。
「カブトムシの幼虫の足。何本なの?」
「え、えと……」
故郷の森で捕まえた時の事を思いだそうとしたが、朧気な外見は頭に浮かびこそすれ、その細やかな構造なんて覚えているわけがなかった。
――そんなの気にした事もなかったし……大体、ひっくり返して遊んだりしなかったもんなぁ。
「ねえねえ、ダンゴムシみたいにビッシリくっついてたりしないかな」
「そ、そんなだったら嫌でも目についてるような……」
結構な時間を費やして考えたものの、一向に結論は出ない。
「……もう、大人が六本だし、子供も六本って事でいいんじゃない?」
いい加減に飽き飽きしたらしいフィミアが、疲れた口調で言った。
「そ、それはちょっと短絡的じゃ」
「だって、幾ら考えたってどうにもならないじゃない」
「間違いだったらどうするの?」
「その時はここを突破する別の方法を考えるのよ」
――諦めて引き返すんじゃないんだ……。
ボクが見守る中、彼女はやけくそといった様子で『十』の岩を荒々しく押した。
強い振動と共に、文字の書かれた岩が透けていき、やがて消失する。
「あれ? これで正解だったの?」
本人が、一番驚いている様子だった。
「そうみたいだね……」
ボクは肩を竦めながら言った。
「でも、それならわざわざ子供とか大人って書かなくても良かったんじゃないかな……」
「あ、分かった。それが引っかけだったのよ」
「え、どうして?」
「ほら、エリットみたいな人が難しく考えすぎて問題をややこしくするから」
「……ボクのせいなの?」
「だって、そうじゃない」
ジト目で見つめてくる幼なじみの姿に、ボクは何故か悪い事をしでかしてしまったような気持ちになって、
「ゴ、ゴメン……」
と、何故か謝ってしまったのだった。
「ま、いいわ。とにかく問題には正解したんだし」
ずっと閉ざされていた道が開け、すっかり機嫌を取り戻した様子のフィミアは、先ほどまでとは打って変わって明るい調子で言った。
「取りあえず、先に進んでみましょ」




