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翌日は朝から身支度に大忙しだった。
朝から女官たちの手によって念入りに湯あみをされ、真紅の牡丹の花弁のように幾重にも重なる豪華な紅の絹を着付けられた。
一枚一枚は向こう側が透けて見えるほど薄い羅紗の布も、ここまでその数を重ねると重く、まるで戒めのように身体の自由を奪っていった。
赤はめでたい色であり、悪いものを祓う色だと言う。それ故に花嫁は赤い衣を纏う。だが、梨香にはあまりに主張の強い色に思えて、自分にはふさわしくないように感じた。
衣の着付けが済み、今度は髪結いと化粧が始まる。
「貴妃様は化粧など必要ないほど、透けるような美しい肌をしておられます」だとか、「貴妃様の御髪は艶やかな黒髪で、髪飾りが映えます」と言った世辞の言葉を紡ぎながら、女官たちは巧みに梨香を飾っていく。
そうした言葉に、梨香は曖昧に笑って答えた。
梨香の緊張を解そうと女官たちが気を使ってくれるのが嬉しかったが、同時に、世辞に慣れていない梨香はどう返事をすべきかわからず、申し訳なく思っていたのだ。
煌娟はそんな梨香の様子に気づいて、一碗の温かな茶を容れてくれた。
「貴妃様、お疲れではありませんか?もうすぐ支度も終わりますゆえ、あと少しだけ、お待ちください」
梨香は礼を言って茶杯を受け取り、まずはその香りを楽しんだ。
そして茶杯にそっと口を付ける。すると、ほんのりとした甘味が口内に広がった。そのあまりの美味しさに、思わずため息が零れる。
「とても美味しいお茶ね。こんなに美味しいお茶は飲んだことが無いわ」
「梨茶でございます。陛下が貴妃様のためにと、取り寄せさせたのでございますわ」
「陛下が?どうして陛下はそこまでしてくださるのですか?」
梨香の問いに、煌娟はニコニコと笑う。
「それだけ、陛下に大切に思われているということです」
「けれど、私は一度も陛下にお会いしたことがありません。家も貧しい田舎貴族で、陛下のお役に立てるような力を持っていません」
不安そうに梨香は俯いた。理由の無い好意が、どこか恐ろしかった。後で返せと言われでもしたら、梨香にはどうすることもできないのだから。
「貴妃様は心配される必要はありませんよ。貴女様は陛下に望まれているのです。それは誇りこそすれ、恐れる必要はないのです」
「……ありがとう。あなたは本当に気遣いが上手なのね。とても緊張して、不安だったのだけど、なんだか慰められたような気がするわ。お茶も、本当に美味しかった。どうか陛下にお礼を伝えておいてください」
「貴妃様、お茶のお礼は、貴妃様が直接陛下にお伝えになるとよろしいですよ。きっと陛下もその方が喜ばれます」
「そうかしら。……でも、そうね。きちんと自分の口からお礼を申し上げたいわ」
そう言って梨香が微笑むと、つられるように煌娟も笑ったのだった。