序
雪の様な儚く白い世界が広がっていた。
辺り一面、真っ白な雪梨の花弁が見事なまでに散っていた。
さらに今もなお、ひらりひらりと新たな花弁が降り積もる。
こんな美しい景色を見たのは初めてだった。
柊影はゆっくりと足を踏み出した。
白い世界は静寂に満ち、彼をそっとその腕に抱いてくれるようだった。
一歩、また一歩と先へ進むたび、穢れきった自分の心が浄化されるようだった。
とその時、一陣の風が吹いた。心地よい風だ。
柊影はそっと目を閉じ、風に身を任せるようにその流れを感じていた。
するとその風の中に、ふと、雪梨の花の香りをかいだのだった。
その香りは甘かったが、決して不快な、纏わりつくような甘さでは無い。柔らかく、やさしい香りだ。
その香りのもとを辿るように目を開くと、前方の雪梨の木の下に美しい娘が立っていた。
彼女はこちらに気付くことはなく、雪梨の木々の間をゆったりと歩き出す。
彼女の纏った白い衣はふわりと風を孕んで揺れ、腰に届きそうな長い漆黒の髪は、辺りの景色と対をなすかのようにどこまでも黒く艶やかに風に踊っていた。
娘は、つと腕を空中へと伸ばした。舞い落ちてくる雪梨の花弁をその掌に掬おうとしているようだ。
彼女の意を汲んだかのように、一枚の花弁がその掌中に舞い落ちる。
その瞬間、娘はこちらがハッと息を飲むほどの美しさで、端然と微笑んだ。
薄紅に染まった娘の唇が綻んだその一瞬で、柊影は恋に落ちた。
よろしくお願いします。