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悪魔か天使  作者: 桃太郎
7/7

続き

ジュッワッと黄色い液体が熱を持った鉄の上でおどり、バターの香りを含んだ湯気があがる。

トン、トン、と慎重にフライパンの柄をたたき、フワフワのオムレットをつくると千切りキャベツの横にのせ、マグのなかに熱湯を注いでスープを作る。

焼きたてのトーストを、食べやすいよいにカットしたところで、雪華の部屋から目覚ましの音が響いた。

丁度に出来た朝食をテーブルに並べて待つことしばし………。



「遅い………」

(よもや二度寝か?起こさねばまずいかもしれ!イヤイヤイヤ!奴の自業自得だろう。流石に今回の事では俺を罰したりはできないはずだ!)

雪華の事を気にするのはやめにして、半額シールの貼られた己の朝食を手に取ると、最初に此れをわたされた時の怒りと、真実を知ったときの衝撃が思いおこされた。




「あんたの朝食と昼食様に、此れを渡しとくから。昨日みたいな事をしないように。私の清楚可憐で完璧美女なイメージを汚さないように!分かった?」


「………此れが飯だって言うのか?」


「それは一本で一食分の栄養を補うかもしんないということを目指して作られた、それはそれは凄いものなのよ?それを手にいれるには運と金、体力と金、力と金が必要という選ばれし者の食べ物!ベストオブナンチャラにも選ばれた、まさにあんたにぴったりな食べ物なの。有り難く頂戴したさい。」

自信ありげに胸を張る雪華。

きっと、本気で誤魔化せると思ってるのだろう。

だが天使は騙されたフリをして、全ての文句をのみこんだ。

罪を犯した天使は、その罪の重みによって見せしめのように羽が黒く染まる。

黒一色ならまだいい、だか、純白の中に汚点のように染みが現れるのだ。

そんなおぞけが走る事態を未然に防いでくれたのが雪華なのだから。

機嫌よく出掛けていく雪華の背中をみつめながら、苦い思いと共に飲み下し、ゴミ箱へと投げ捨てた。

そんな行動を後悔したのは、掃除を終えてソファーで寛ぎながらテレビを見ているときだった。




テレビに映る人の群れ。

「開店一分まえです!列からはみ出したひとは後ろにまわってもらいますよ!係りの指示に従って、今しばらくお待ちください!」


そこでは言葉を交わし

「やればできる、出来るはずだ。手にいれてみせるんだ!」

「ん?新入りか………今日は新色が顔をみせる日で、激戦になるだろう。俺も手加減するきはないが、手にはいると良いな。」

「有り難うございます、新色のことも知ってはいたのですが、誕生日ですからね、諦めたくなかったんです。」

「―――――開店だな、行こう。」

「はい!」


拳を交わし

「がぁあ!!……くそ!いつの間か入り口に戻されてる………こうなったら!」

「冷た!油?いや!ワックスをまいたのか!!定員に目をつけられ、次回から係りのものに言い掛かりのごとく後列にまわされる技を未だ日本で使うやつがいるとは……新人侮りがたし。だか、「「「「俺達をなめんな!!!」」」」

「な!?く、靴が。まるでスッぽ抜けるがごとく脱げて…………あ、そ、そんな。靴下に、穴だと!?」

「素肌と布。二つで床をつかみ、滑りをねじ伏せる!使うものの居なくなった技だからといえど、穴のあいた靴下を履かぬ道理はない!それがプロのハンターだ!!」

「くっ!それでも、それでも手にいれてみせる。今日という日を祝うためにも!」


目指すワゴンは遠く、何度も弾き飛ばされた。

傷付いた己の身体を引きずりながらたどり着いた時には、求めていた大豆でバーは……無い。

胸を張ってレジに並ぶものたちを見るのが辛くて伏せたしせんに、プロのハンターの証たる親指丸出しのソックスをはいた足が映った。


「手ーだせ。」

「え?」

思わず上げた視線のさきには、何処か照れくさそうな顔をした、開店前に少し話をした男が立っていた。


「手だよ手。ほら、半分やるよ――――誕生日、だからな。」

半分に割ったスティックを食べ、笑みを浮かべる男たちの後ろからテロップが飛び出す。


“大豆でバーで、貴方も健康と友情を手にいれろ!”


『―――知らなかった』

フラリと立ち上がった天使は、ゴミ箱からぐしゃぐしゃになった大豆でバーの袋をそっと取り出した。


なぜなら俺は知っていたから。

テレビとは、本当にあった事を映し、流している事を。

つまり、大豆でバーを求めるこの闘いは、何処かで本当におこったという事だ。


『雪華――――お前という奴は。』

≪大豆でバーの袋はゴミじゃない。勝ち得たものの、勝利と友情の証だったのだ!≫

盛大な勘違いをしたまま、天使は袋を自分の部屋へ大切に保存したあと、天界へ料理の技能取得を要請したのだった。

手元には、あの日から変わることなく渡される……否。

成熟し、手にいれる難易度がはねあがると言われているらしい半額シールつきの大豆でバーがあった。

正直に言えば、成熟して味が良くなっているかは天使には分からない。

分からないが――――尊いそれを、天使は優しく撫でた。


「――――フッ。しゃーねーなー。起こしてやっか。」

そう呟く天使の顔は、胸が痛くなるほど優しかった。

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