バウ!バウ!
バウ!バウ!
犬の必死な鳴き声につい、人の敷地内なのに庭に入らせてもらってしまった。
そしたら、婆さんが苦しそうにうめいていて、犬が心配そうにその周りを走って一生懸命に吠えている。
「大丈夫ですか、おばあちゃん!ほら、経口補水液!りんご味だから美味しいよ、多分!」
おばあちゃんに緊急用のジュースを飲ませて、救急車をスマホで呼ぶ。
ジュースを飲み一息ついたおばあちゃんを木陰に運ぶ。
私はそんなに力持ちではないし、動かして良いかもわからないから迷ったけどやっぱり木陰の方が良さそうだったから。
犬はいつのまにか静かになって、尻尾を振って「はっ、はっ」と息は荒いが安心した様子で笑っていた。
「わんちゃん、おばあちゃんが心配で来ちゃったんだねぇ」
「わん!」
「あとは救急隊に任せてね」
「わん!」
そしておばあちゃんは救急車に運ばれる。
わんちゃんはこっそり救急車に飛び込んだ。
私は見えないふりをして、わんちゃんを見送った。
「それが私が初めて目に見えないはずのものに触れた瞬間ね」
「まさかの犬?」
「犬。ご主人様孝行のいい子だったわ」
「へー、犬が飼い主のために冥界から降りてくるねぇ」
「その後どうなった?」
私は首を横に振った。
「おばあちゃんに後日お礼を言われた時には、気配は消えてた。多分、力を使いすぎたのね」
「…」
「でもね。おばあちゃんは知ってたのよ。あの子が自分を助けてくれたこと」
「…そっか」
「もう何年も前の話よ。急にごめんなさいね」
私は笑って、札を渡す。
「さあ、次の依頼もよろしくね」
「うっす」
「はいっす」
離れていく二人組を見送った後。
私はゆっくりと目を閉じた。
今でも思い出すような、優しい力。
初めて接した怪異があの犬だったのは、幸運だったのだろう。
「わん!…くーん」
「はいはい、お前はいくつになっても元気だねぇ」
「わん!わん!」
「ほらほら、そんなに急ぐことないよ。せっかくの花畑だ、ゆっくり行こう」
「わん、わん!」
「うんうん、お前のおかげでこっちにくるのが遅くなったからねぇ。あ、じいさーん」
「ばあさーん、まっとったぞ!ちょびすけも!」
「わん!!!」
「ふふ、本当に。ああ、最後の夢としては、最高だねぇ」




