第三十六章:食卓の「運用管理」を徹底する
真依は、裕太の食事において「感覚の調整」と「身体のリズム管理」を軸にした運用を徹底することにした。
1. 血糖値と消化リズムの安定(定時運用)
裕太の脳と身体を安定させるため、1日3食と軽食の時間を決めた。
空腹時間の最小化: 空腹による血糖値の低下がパニックのトリガーになることを防ぐため、3時間から4時間おきに、胃腸に負担の少ない軽食を摂取する。
ジュースのコントロール: 100%リンゴやオレンジジュースを、1日合計200mlまでと決める。これは、糖分の過剰摂取による血糖値の乱高下と、肝臓への糖代謝負荷を抑えるための境界線だ。
2. テクスチャの階層化(感覚入力の管理)
裕太が「食べられる」と感じる食感のリストを作成した。
第一段階: ゼリー、豆腐、滑らかなポタージュ(口腔内での摩擦が最小限のもの)。
第二段階: よく煮込んだ野菜、豆(少し形があるが、押し潰せるもの)。
第三段階: 肉類や繊維質の野菜(咀嚼が必要なもの)。
新しい食材を導入する際は、必ず第一段階のテクスチャに近い形に調理し、咀嚼の負荷を最小限に抑える。
3. 内臓へのリスク回避(医学的安全性)
SNSで溢れる「腸活サプリ」や「特定の栄養素療法」については、徹底的に排除した。
サプリメントの禁止: 自己判断によるサプリ摂取が、成長途中の裕太の肝臓や腎臓に与える未知のリスクは、どんなメリットよりも大きい。真依は、「栄養は病院での診察に基づき、医師が必要と判断したものだけ」というルールを自分の中に定めた。
純一パパは、真依の徹底した管理体制を記録する。
『摂食障害へのアプローチにおいて、栄養学的理想を追うよりも、個体ごとの消化代謝能力に合わせた「運用管理」が優先されるべきである。リズム、量、質、そして温度という物理的条件を一定に保つことこそが、身体というシステムの暴走を防ぐ唯一の手段だ。』
「食事は栄養を取り込む作業ではない。本人の身体が拒絶しない適度な入力を、適切なタイミングで提供し続ける運用業務である」
真依は、栄養素の偏りを心配することよりも、まずは「胃腸が正しく動き、血糖値が安定しているか」を確認することに集中した。食事を「教育の場」ではなく「身体の保守運用」の場と捉え直すことで、食卓からは焦りと苛立ちが消えていった。




