ヤパナジカル物語
剣と魔法の国、ヤパナジカルに住む六歳のウララは、髪をツインのお下げにした優しい女の子です。
今日は、お友達のサッフォーと遊ぶ約束があります。ウララのおうちは城下から少し離れた、山に囲まれた広々した地にあります。お城へ続く山道をてくてく歩いていくと、向こうからサッフォーが右に大きく傾いた異様なポーズで、あわててこっちにかけてきます。彼女はお下げのウララとちがい、短い髪を肩の上で切りそろえた少年ぽいボブヘアです。右手になにやら長いものを持っていますが、それが大きく傾いているので、それにあわせて、体も右斜めにせざるを得ない様子。
「ど、どうしたの、サッフォーちゃん?!」
ウララが驚いて聞くと、サッフォーはあせりまくった顔で叫ぶように、「こ、これ、アネクドテンのアイスなの!」と言いました。
よく見ると、手に逆三角の長いコーンを持っていて、その上に色とりどりのドーム型のアイスクリームが十個ほども縦に積みあがって、それがあまりに高いので、右に大きく傾いているのです。アネクドテンは城下町にあるアイス屋さんで、国いちばんのおいしさだと評判で、サッフォーは一度でいいから食べたい、と前に言っていたのです。でも、こんなに積むのは、いくらなんでも積みすぎです。
「よ、欲張ったんじゃないの!」とサッフォー。「ボタンを二回しか押さないのに、アイスの機械からポンポン出てきて、こんな木みたいに高くなっちゃって!」
それで、こんな曲芸みたいな動きで、ここまでよたよた走ってくるしかなかったのです。長大なアイスの塔は、あっちへゆらゆら、こっちへゆらゆら、今にもまとめてダーッと地面に落っこちそうです。
「な、なんとかして」と泣きそうな彼女がかわいそうで、ウララは近くの岩に差してある魔法の杖をとって、そっちにかざしました。
このヤパナジカルには魔法の杖があちこちに差してあり、用があるときはいつでも使えるようにしてあります。子供が使うのは禁止なのですが、今はそんな場合ではありません。
ちなみに、この国の魔法はモジックと呼ばれ、こっちの世界のマジックと同じように、呪文をとなえて杖から光を発して、対象に魔法をかけます。
「モジカル・バーズ!」
叫びとともにウララの杖から出た白いビームが当たり、十個のアイスはたちまち十羽の鳥になりました。コーンから十羽の鳥が上につながって生えている異様なものでしたが、鳥なら羽ばたくから落ちないので、とりあえずは安心です。
ところが、十羽もの鳥が羽ばたいたものだから、コーンを持ったサッフォーもろとも、空へふわりと飛び上がったのです。「きゃああー!」と驚くサッフォーと一緒に、鳥の塔はぐんぐん上昇して、雲の上まで来てしまいました。
困ったウララは、自分に「モジカル・バルーン!」とかけて気球になり、サッフォーを追いかけました。すぐ後ろまで迫ると、自分のカゴをモジって巣箱にしましたが、今どき巣箱に入るような鳥はいないので、ムダでした。
しかし、このまま鳥の巣に連れていかれて、ヒナに食べられちゃう、というようなことにはなりませんでした。子供のかけるモジックは効く時間が短いので、鳥たちはすべてアイスに戻ってしまい、サッフォーは高度三千メートル上空から、まっさかさまに落ちていきました。
ウララはあわてて追いかけましたが、気球では遅いので、一かバチかの賭けをしました。いまは手がなくて杖が使えないので、口だけで「モジカル・バード!」とモジックを発して、落ちていくサッフォーにかけました。しかし杖なしでモジるのはかなり高度な技で、熟練した大人でも難しいのです。サッフォーは右半身しか鳥にならず、そのまま小さくなって、見えなくなりました。
地表に降りて人間に戻ったウララは、親友が死んだと思ってわんわん泣きました。ところが、その肩を後ろからちょんちょんつつくものがいます。
振り向くと、サッフォーが五体満足で立っていました。
「お、落ちたんじゃなかったの?!」
驚くウララに、にこにこと言うサッフォー。
「羽根が片方しかなかったんで、最初は落ちちゃうと思ったけど、右の翼だけでも必死にバタバタ羽ばたいてたら、そのうちゆっくりになって、無事に降りれたのよ」
「よ、よかったあー!」
ウララは抱きついて喜びました。サッフォーも泣いて感謝しました。
「ありがとう、ウララのおかげよ」
でも、その光景を見かけた人がお上に訴えたため、ウララはお城に連行されました。人にモジックをかけるのは犯罪なのです。しかし、一部始終を見ていた別の人の証言で、ウララが人をモジったのは「人命救助のため」だったと分かり、放免されました。
ウララはサッフォーのご両親から感謝され、なんでも欲しいものをあげるというので、アネクドテンのアイスを買ってもらいました。
こうしてウララはサッフォーと一緒に、国いちばんのアイスを食べることができたのでした。
(「ヤパナジカル物語」終)




