第四話:漆黒のプレリュード
――暗い。
視界から色が消え、世界がモノクロームの静寂に包まれる。
だが、不思議と心は落ち着いていた。
全身を駆け巡る白い光――『ルナ・ホワイト』のフォトンストリーム。
それは、かつて巧の纏った赤い光のような熱さではなく、月光のように冷たく、研ぎ澄まされた「拒絶」の光だった。
「……これが、俺の『終止符』か」
漆黒の鎧を纏った俺――仮面ライダー零は、ゆっくりと顔を上げた。
バイオレットに輝く複眼の端に、ノイズが走る。このベルトは、俺の肉体を砂に変えながら、その崩壊エネルギーを力に変換している。
「不明なコードを確認。……システム照合、失敗。排除対象として再設定します」
偽物のカイザが、機械的な冷徹さでカイザブレイガンを構える。
奴が放った強化クリムゾンスマッシュの余波――黄色の光弾が俺を襲う。
だが、俺は動かなかった。
「……うるせえよ。その音が、一番耳障りなんだわ」
俺が右手をかざした瞬間、大気の色が変わった。
新能力『リフレイン・エコー』。
放たれたエネルギーの周波数を一瞬で解析し、真逆の振動をぶつける。
――パリンッ!
まるでガラスが割れるような音と共に、カイザの光弾が空中で霧散した。
「なっ……攻撃が無効化されました。計算に……誤差が生じています」
「計算? ああ、そうだな。俺の人生、いつだって計算間違いだらけだったよ。……だがな、ここから先は俺の独奏だ」
俺は背負っていたギターケース――『ゼロ・スリンガー』を手に取った。
ケースが瞬時に展開し、身の丈ほどもある漆黒の大剣へと変形する。
一歩、踏み出す。
加速装置など使っていない。だが、俺の意識が加速を望んだ瞬間、世界がスローモーションに沈んだ。砂化を代償にした禁忌の加速『エンプティ・アクセル』。
「……っ!」
偽カイザの反応速度を超え、俺は奴の懐に滑り込んだ。
ゼロ・スリンガーの刃が、カイザの胸部装甲を浅く切り裂く。火花が散り、デジタルなノイズが周囲に撒き散らされる。
「エラー、エラー……。戦闘行動を、継続……」
「終わらせてやるよ。……お前のその、空っぽな音をな」
俺はベルトのサイドにあるスイッチを叩き込んだ。
『EXCEED CHARGE』
ルナ・ホワイトの光がゼロ・スリンガーの刃に収束していく。
背後に、巨大な蛇――スネークオルフェノクの幻影が、とぐろを巻くように立ち上った。
「ハル! 真理! ……目ぇ、瞑ってろ!」
俺は大きく剣を振り抜いた。
「スネーク・デッド・エンド……!!」
漆黒の斬撃が、偽カイザを真っ向から両断する。
爆発。だが、それは火炎の赤ではない。月光のような白い光の粒子が、廃バスの車内を真っ白に染め上げた。
光が収まった時、そこにはもう、機械のライダーの姿はなかった。
残されたのは、真っ白な灰の山と、かつてカイザギアだった鉄屑だけ。
「……はは、最高にひどい演奏会だったぜ」
変身を解いた俺の膝から、力が抜ける。
倒れ込む俺の体を、真理の温かい手が支えた。
「海堂! 大丈夫!? 海堂!」
「……真理。……今の俺、ちょっとは……カッコよかったか?」
真理の顔が見えなくなるほど、視界が急速に白んでいく。
だが、その腕の中で、俺は確かに聞いた。
助けた少年、ハルの……小さな、だが力強い心臓の音を。




