第二話:蛇と少年。灰色の逃避行
「お前の夢は何だ?」
公園の片隅、火花を散らして沈黙した機械の兵士――次世代型擬似ライダー兵器『ミューズ・プロト』を背に、俺は変身を解いた。
灰色の皮膚が人間の肌に戻る。だが、右手の震えは止まらない。
目の前で腰を抜かしているガキ――中学生くらいだろうか――は、ガタガタと歯を鳴らしながら俺を見上げていた。
「ゆ、夢……? そんなの、わかんないよ。僕、急に体が変になって……そしたらあんな化け物に襲われて……」
「ねえなら、俺が適当に決めてやろうか。……とりあえず、『明日まで生き延びる』。そいつを当面の目標にしな」
俺は少年の襟首を掴んで強引に立たせると、逃げるように公園を後にした。
スマートブレインの息がかかった連中だ。すぐに次が来る。
俺たちは、かつて俺が仲間とたむろしていた、今は誰もいない高架下の廃バスへと逃げ込んだ。
「名前は?」
「……ハル。佐藤ハル」
「そうか、ハル。お前、自分が何になったか分かってんのか」
「化け物、ですよね……。さっきのあなたみたいに、灰色の」
ハルが震える手で自分の顔を触る。その肌は、一度オルフェノクとしての変身を遂げたことで、元の青白さを失っていた。
だが、俺はある違和感に気づく。
こいつの体――砂がこぼれていない。それどころか、心臓の鼓動が不気味なほどに力強く、バスの静寂の中に響いている。
「……ハル、お前。スマートブレインに何をされた?」
「……分からない。ただ、入院してた病院で、変な注射を何度も打たれたんだ。そしたら、『王のゆりかご』になれって、あの社長みたいな女の人が……」
――王のゆりかご。
その言葉を聞いた瞬間、俺の背筋に冷たいものが走った。
かつて木場たちが、そして乾巧が命を懸けて封じた「オルフェノクの王」。
スマートブレインは、死にゆく種の保存のために、人為的にその力を宿す「器」を造り出そうとしているのか。
その時だ。
廃バスの屋根を、重い金属音が叩いた。
「――見つけました。逃亡体第4号、および接触したイレギュラー」
頭上から響く、冷徹で、聞き覚えのある……だが、決定的に「魂」が欠落した声。
バスのフロントガラス越しに、月光を背負って降り立った影が見えた。
銀色のボディ。黄色い複眼。そして、全身を走る二本のフォトンストリーム。
それは、俺が世界で一番嫌いな男の姿をしていた。
「カイザ……!? いや、違う。お前……草加じゃねえな」
そこに立っていたのは、仮面ライダーカイザ。
だが、指先で顎周りに触れ、首を傾けて戦闘スーツのフィット感を確認する仕草も…
ただのプログラムに従って動く、殺戮専用の「草加雅人の模造品」だ。
「……ったく、どこまでも最悪な再会だぜ」
俺はギターケースから、一本の注射器を取り出した。
巧が残し、真理が密かに保管していた「オルフェノクの進化を一時的に強制加速させる」劇薬。
これを打てば、10秒間だけ、俺は加速の領域に踏み込める。……命の砂を代償にして。
「ハル。耳塞いでろ。……こいつは、俺の知ってる史上最高にムカつく男の、特等席なんだわ!」
俺は迷わず、自分の喉元に針を突き立てた。




