表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/14

第六話:雨の日の迷い子


 激闘から数日。

 海堂は、菊池クリーニング店の二階で、全身に包帯を巻かれたまま死んだように眠っていた。新フォーム『ゼロ』の負荷は、想像以上に彼のバイパスを焼き切っていた。

 一階では、真理がハルに温かいスープを出し、少しでも彼を安心させようと努めている。

 外は、あの日と同じ、激しい土砂降りの雨だった。

「……誰?」

 ハルが、店のガラス戸の向こうを見つめて呟いた。

 雨の中、一人の男が立ち尽くしていた。

 泥だらけのトレンチコート。ボサボサの髪。

 男は力なくふらつき、まるで何かに導かれるように、店のドアをゆっくりと開けた。

「……すまない。ここは……」

 聞き覚えのある、少しぶっきらぼうで、けれどどこか優しい声。

 真理の手から、スープの入った皿が滑り落ち、床で高い音を立てて割れた。

「……え……嘘……。そんな、はず……」

 真理の瞳が大きく見開かれる。

 そこに立っていたのは、数年前、確かに砂となって風に消えたはずの男。

 園田真理が、そして海堂直也が、一生忘れるはずのない――乾巧の顔をした男だった。

 だが、その瞳に以前のような鋭い光はない。

 ただ、深い霧の中を彷徨っているような、空虚な色を湛えている。

「あ、あんた……巧……なの……?」

 真理が震える声で呼びかけるが、男は困ったように眉を下げた。

「タクミ……? それが、俺の名前か。……分からない。気づいたら、雨の中にいたんだ。自分が誰で、どこから来たのか……何も思い出せないんだ」

 男はそのまま、糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。

 階下の異変と、あまりにも「近すぎる」気配に、二階で眠っていた海堂が跳ね起きる。

 痛みを堪え、階段を転げ落ちるように降りてきた海堂は、床に倒れた男の顔を見て、息を呑んだ。

「……巧……。てめえ、なんで……生きてやがる」

 海堂の震える右手から、また砂がこぼれる。

 再会。それは祝福ではなく、さらなる巨大な悲劇の幕開けに過ぎなかった。

 九条暦が言っていた『完璧な部品』。

 もし、この男さえもがスマートブレインの「調律」を受けた存在だとしたら――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ