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【プロローグ:指先に残る砂】


 夜の静寂を切り裂くのは、調子の外れたギターの音色だけだった。

 古びたクリーニング屋「西洋洗濯舗 菊池」の軒先。海堂直也は、かつて天才と謳われたその指先で、錆びついた弦を弾く。

 指先からは、パラパラと、乾いた灰のような砂がこぼれ落ちた。

「……ちっ。またかよ」

 海堂は忌々しげに吐き捨て、震える右手をポケットにねじ込んだ。

 オルフェノク。人間が進化した姿。

 その実態は、緩やかな死へと向かう「砂の器」に過ぎない。

 かつて、この場所には賑やかな声があった。

 口の悪い猫舌の男。

 理想を追い求めた馬面の男。

 理屈っぽくて鼻につくカイザの男。

 そして、優しく笑っていた少女。

 今、海堂の隣にいるのは、冷たくなった夜風だけだ。

「なあ、木場。巧。お前らがいない世界ってのは、退屈すぎて欠伸が出るぜ」

 ふと、遠くで爆発音が響いた。

 闇の向こうから、冷徹なフォトンブラッドの光が、自分を呼んでいるような気がした。

 海堂はゆっくりと立ち上がり、傍らに置かれたボロボロのギターケースを担ぐ。

 その中に入っているのは、楽器ではない。

「……行くか。俺にしか歌えない、最悪の歌を聴かせにな」

 月光に照らされた彼の影が、一瞬だけ、蛇の姿をした怪物の形に伸びた。

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