85話 処刑の日がやってきましたが皆も来てくれました
毎日同じような日を繰り返しているだけでもその日は嫌でも、やってくる。
「さて、待ちに待ったこの日がついに来たね、楽しみで仕方ないな」
「……楽しそうで何より」
今が何時なのかは知らないけど多分まだ夕食の時間じゃない、でもイルは部屋にやってくると心底嬉しそうにそう溢した。
最近は何故か頭のなかに霞でもかかったように上手く頭が回らなくて、私はそれだけ返すので手一杯だった。
「楽しいに決まってるだろう、だってこれで君という異物とおさらば出来るんだから」
「っ……あなた、何でそれを付けてるの?」
それでもイルに何か少しでも言い返そうと重い頭を何とか持上げた。
そしてイルの首もとで照明の光を反射してキラキラと輝く蒼い石を見付けて、一瞬時が止まる。
「ああこれ? 綺麗だろう、あの人から送られたサントライトのペンダント、あまりにも君には不釣り合い過ぎる、それに死んだらもう必要ないだろう? だから貰うことにしたんだ」
「……このっ」
何の躊躇いも罪悪感も見せないイルに私は気付いたら掴みかかって、ペンダントを奪い返していた。
「っ……何するんだ!」
「これは私が貰ったものよ、あなたに付ける権利は、ないわ」
憤慨するイルを無視してサントライトの石を胸元で庇うように握りしめる。
チェーンは今ので千切れてしまったけど、どうしたってこの石だけは渡す気はない。
これは私が貰ったものなんだから。
ぼんやりと霞がかった頭でも、それだけはしっかりと理解していた。
「……この! 返せっ!!」
「……っ、これは、私の物だから返すもなにも無いわよ」
イルは私が思っていた何倍も憤慨した様子で私の手を掴み上げる。
無理やり掴まれて手は痛みで悲鳴をあげるけどそれでもこれを離す気はない。
これはセリムに貰ったもの、これを持っていればどこにだって来てくれるって、肌身離さず持ってて欲しいって、言われたのはイルじゃない、他の誰でもない私だ。
「……もういい、渡す気がないならその手ごと貰っていく」
こめかみに青筋を浮き上がらせたイルは静かにそう呟くと腰の剣を引き抜いて大きく振り上げる。
「っ……セリム……!」
死に直面したその時、私の口から出た名前は、いつも頼りになる大切な幼馴染みの名前だった。
「……え」
次の瞬間来るであろう痛みと衝撃に耐えるように目を瞑ったけど一向にその気配はなくて、恐る恐る開いた瞳に映ったのは、ずっと、ずっと待ち望んでいた光景だった。
「いつもそうやって呼んでくれれば見つけるのも楽なんだけどなぁ、待たせてごめん、ハイネ」




