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79話 脅されても屈しません

 一旦の考察を終えてやることもなく部屋で時間を持て余しているとイルの使いの男がやってきて食事の準備が出来、イルが待っていると告げられた。

 勿論最初は拒否したけどほぼ無理矢理連れてこられてそのまま卓につかされてしまった。

「やれやれ、もう少し大人しく卓につけないのかな、君はそれでも公爵令嬢だろう?」

「残念だけど、いけすかない男との会食は断ることにしてるから」

 既に私の前の卓に座っていたイルはそんなふざけたことを抜かすけど、残念ながらいけすかないヤツとの食事は前世の頃から避けて生きてきたわけで。

「そんな強がってられるのも今のうちだけだよ」

「別に強がってるわけじゃないわ」

 煽るイルに私は即答で言葉を返す。

 実際に私は今、強がっているわけではない。

「まぁそう言いたいなら言ってればいいよ、ほら早く食べないと冷めちゃうよ、あ、もしかして毒とか疑ってる? 何なら毒味してあげようか?」

「結構よ」

 イルが言いながらこちらに手を伸ばすからそれを無視して私は食事に口をつける。

 考察の中でまだ殺されないと結論付けたから少し余裕があるというのもあるがここでビビっていると舐められるのも癪に障る。

「……」

「どうかしたのかしら? その無駄にお喋りな口をもう使わなくていいの?」

 私があまりにも自分の思う通りに動かないからなのかずっと饒舌だったその口をイルが物言いたげに閉じるから、私はわざと挑発し返す。

 これでも口の悪さには自信があるので。

「……そんなことを言ってられるのも今のうちだけだって言ってるだろう、君はそんなことよりこれから自分がどうなるのか、それだけを考えたほうがいいよ」

「別に考えるまでもないわね」 

 パスタをぐしゃぐしゃとかき混ぜながら並べられる強がりを私は一刀両断して自身のパスタを口に運ぶ。

「もしかして、助けて貰えると思ってる? それは無理な話だな、国は動いてくれないよ、君のためには」 

「へぇー、で?」

 この件で国が動いてくれないという事実は既に知っていた。

 あくまでこのイベントがユーリ誘拐イベントと同じ順序を踏むのであれば理由はどうあれ国は動かない、それでも私は全く絶望していないわけだけど。

「……そうだな、まずはどうしようか、こんな話聞いたことない? 人が一番痛みを感じる行為は強く引っ張られることなんだ、まずは脱臼する、そして腱が千切れて肉が裂ける、その勝ち気な表情が絶望に染まる瞬間は見物だろうね」

「それはとても楽しそうなことね」

 一人楽しそうに語るイルに適当に合図ちをうちながらもう一口パスタを口に運ぶ。

「……本当にやらないとでも思ってるのかい?」

「まぁ、あなたなら何の躊躇いもなくやるでしょうね、でも私がそんな目に会うことは今後ないから安心してー」

 この男は既に犯罪に手を染めている、それならそれくらいのこと嫌いな相手であれば簡単にして見せるだろう、でも私がそうなる未来は殆ど無いと言ってもいいだろう。

「だからっ、助けなんて来ないんだよ、どうしてそういう目に合わないなんて断言出来る……?」

「……私もそんなに前から知ってたわけじゃないんだけど、こんな私のために動いてくれる人って意外といるのよ、だから、国が動かなくても助けに来てくれるって……信じてる」

 少しずつ化けの皮が剥がれていったイルがフォークを持った手で思い切りテーブルを叩くから、私も最近知った事実を口にする。

 私本意にただ生きてきたのに私の為に動いてくれる数奇な人達というのは意外と身近にいるものだ。

 きっとあの人達なら助けてくれる、そんな自信が私にはあった。

「…………それには、セリム・フォスターも含まれてる?」

「だったら何?」

 名指しされたセリムももちろんその中の一人に含まれている、だけど肯定した途端に明らかにイルの纏っている空気が変わるのが私でも分かった。

「………………興が削がれたな、俺はもう行くけど、ゆっくり食べるといいよ、こんな風に食事を取れるのも……今のうちだけだから」

 イルは私の首に手をあてがった時と同じ声色でそれだけ言うと手に持っていたフォークを床に落としてそのまま席を立った。

「今回は、あなたの負けね」

「勝手に言ってろよ」

 後ろから刺すように投げ掛けた言葉にイルは振り向くこともなくそれだけ吐き捨てて部屋を出ていった。

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