75話 話す決断をした努力は認めてもいいかもしれません
「……で、話したいことってなんですか?」
「セリム、一応相手は教員だよ」
魔法薬学準備室に着くと早々にオレは態度悪く詰め寄るがアベルにそれを軽く窘められて、腹の虫がまた騒ぎ出す。
「だから? オレには関係ないことだな」
「騎士である君の行動発言はすなわちリューデスハイム家、ハイネの評価に直結することを忘れてないか?」
「当の本人が今ここにいねぇんだからそもそも関係ないだろ」
そう、確かにオレの評価はお家に直で繋がる、でも今はオレが支えている当の本人は行方不明、ということはどう思われようと知ったことではない。
それに普段だったらこんな風に人を責めるような窘めかたをしないアベルの言葉だからこそ、癪に障った。
「……止めよう、こんなことしててもハイネが知ったら悲しむだけだよ」
「っ……」
今にも掴みかかって喧嘩しだしそうな男二人の間に華奢な身体で割って入って震える声でハイネの名前を出すユーリに気圧されてオレは一歩後ろに下がる。
「……まずは、先に謝らせてください」
「……何を?」
一瞬場が落ち着いた瞬間を逃さずにジークは話し出すけど、オレの返事はいまだにトゲを孕んでいる。
「彼女との約束もありますので細かく伝えられない部分もありますが、ここで黙って放っておいたらそれこそ自分を許せなくなる」
「だからっ、お前は何を知ってるんだよ……!」
「落ち着けセリム」
話す云々江陵言っておいて全然話そうとしないジークにイラついて怒鳴れば今度はシグナに肩を掴まれる。
「……オレはいつだって冷静だよ、だから離せよ」
「……」
オレは一度深呼吸して、それから肩に乗せられた手を払い除けた。
「……皆さんで喧嘩をする必要はありません、責めるなら自分だけを責めてください」
シグナも黙り込んでしまいまた一触即発の空気、そんな中、またジークが意味ありげな言葉を述べる。
「……それはこの失踪に、あんたが関係してるってことで確定していいのか?」
自分だけを責めろなんてそれは一概にコイツがこの件に関与している、そう言っているようなものだ。
「少なからずですが、そうなりますね」
「……とりあえずこれじゃあ話が進まないから、一旦ジーク先生の話を聞こうよ」
「……分かってる」
ハイネの失踪に関与しているヤツが目の前にいる、それだけで腸が煮えくり返りそうになるのに、アベルが先手を打ったことでその膨れ上がった感情も音を立てて萎んでしまう。
「まず、利害の一致もあり彼女には黙ってもらっていましたが魔法祭の一件と校舎が魔法で襲われた一件、少なからず自分が関与しています」
「……は?」
ジークの告白を聞いて漏れた声は自分でも驚くほどに低かった。
「もちろん、悪い意味でですが……」
しかも悪い意味で、ということはハイネにあれだけの痛みと苦痛を与えたのはコイツのせいでもあるということになる。
「それをハイネが黙っていたのは、貴方に脅されていたからですか?」
もちろん頭に血は昇るし行動に移しそうになる、普段だったら耐えられるそれもハイネが絡めばオレにとっては耐えられないことになる。
でも掴みかかるより前にアベルが言葉でジークに詰めた。
多分、アベルはオレがキレるって分かってるからタイミング見計らって話を振っている。
こういうとき長年の付き合いを実感させられて仕方がない。
「まさかそんな、普段の態度を見てもらえれば分かると思いますがあくまで利害の一致から、それだけが理由です」
「……じゃあ今回ハイネがいなくなったのは、あまりにも都合が良いってことか?」
普段のハイネのジークにとっての態度、それは簡単に言えば見下しているというか良い感じの手足として見ているというか、それくらいにしか感じない、はっきり言って主導権は完全にハイネが握っている、だからこそ脅す云々はなくても脅している側みたいなハイネがいなくなればジークにとってはありがたい限りでしかないはずだ。
「それは違います、そもそも自分が関係あったらわざわざこんなこと言いませんし、自分は……自身がしたことに今では後悔しかありませんし、たとえ奴僕のように扱われても彼女に怒りの感情を覚えたこともありません……怖いときはたまにありますけど」
オレの言葉にジークは慌てて頭を振る。
確かにまぁ、少し考えればジークがこの事件に関わっているならわざわざオレ達にこんなこと言うわけはない。
っていうかやっぱりハイネのこと怖がっているのかという事実には呆れはしたが。
「……要点が掴めないな、つまりは何を言いたいんだ?」
なかなか要点を得ないジークの言葉に待つのが苦手なシグナが追求する。
そうすると、ジークは一度目を強く瞑ってから覚悟を決めたように目蓋を持ち上げるとついに話し出した。
「……ここから先の話は約束もありますから濁しますが、もしかしたら、私の持っている知識を使えば今回彼女の身にふりかかったことの答えにたどり着けるかもしれないんです、だから、自分はあなた達と協力したい」




