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71話 これは見たことのある展開です

「……」

 首にあてがわれた手、それは自分の命に手をかけられたも同然だった。

 喉が乾いて声が出なくなる、目を見ればよく分かる、この人が本当に私を殺すことを厭わないだろうということが。

「……やだなぁそんな顔しないでよ、ただの冗談殺さないって、今はね」

 だけどイルはまたパッと笑うとそんなことを言って私の首から手を離した。

 瞬間安堵からかどっと全身から力が抜ける。

「……私が、あなたから一体何を奪ったって言いたいの?」

 私はさっきまで触れられていた首に手をあててかすれる声で問い返す。

 私のハイネ・リューデスハイムとしての人生はあの日、9歳の誕生日から始まった。

 だからセリム以外のストリートチルドレン達との思い出はほとんどと言っていいほどにない。

 だからこそイルと何があったのかも分からなかった。

 作中でも別にピックアップされているキャラではなかったからゲームの知識にも頼れない今、本人から聞くしか知る術はない。

「えー、分からない?」

 だけどこちらを見ながらふざけたように笑うイルはその真実を教える気はないようで

「とりあえず君はずっとこの部屋にいればいいよ、この後のことは俺が勝手にどうにかするし、その間によく考えて、思い出して、俺から君が何を奪ったのかを」

 それだけ言い含めるとそのままベットから立ち上がる。

「それじゃあまた後で」

 そしてそのままひらひらと手を振ると部屋から出ていってしまった。

「っ……一体全体どういうことなの……でもこれ、なんか見覚えがある気がするんだけど……」

 イルがいなくなったことで一気に力が抜けて深くベットに沈む。

 私が誘拐されるイベント、これは確実にゲームの世界からは解離している。

 主人公であるユーリが誘拐されるシナリオはあるしそのフラグも最近本人から回収はした、でも脇役悪役令嬢である私が誘拐されるルートなんてある筈もないシナリオだ。

「……ん、ちょっと待って」

 そこまで考えたところで私はとある事実を思い出した。

 それはゲームのとあるシーンのこと。

『まだ分からないか? これは……復讐だよ、オレから楽しみを奪ったお前を地獄に突き落とす、その為だけの、茶番だ』

 さっきイルが放った言葉を少し改編した台詞、いや、元ネタとなった台詞と言ったほうが正しいだろう。

 これはスターダストインパクト事件を引き起こせなかった世界線のセリムがユーリに放った言葉だ。

 勿論内包されている意味は全く違うもの、本来はスターダストインパクト事件をユーリが上手く回避した場合にセリムと出会うルートのなかでセリムがおふざけ半分に口にする。

 ゲームに順次したセリムはいつだって何事にも適当でこれもただのおふざけのひとつだったわけだけど、イルの台詞には本気の殺意が内包されていた。

「これ、もしかして……」

 そこまで考えて出た答え、それはひとつだけ。

 ユーリ誘拐イベントの代わりに何故か私が誘拐された、所謂言葉にするところのハイネ誘拐イベントが発生した。

 つまりは、そういうことだ。

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