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70話 気付いたら何故か恨まれていました

「……ここは」

 私が重い瞼を持ち上げると豪華な天井が映った。

 その構図には少しだけ既視感を覚える、私が初めて昔の記憶を思い出した時も最初に見たのは豪華な天井だった。

「おや、目が覚めたかな?」

「あなたは……っ……」

 だけど一人の男に声をかけられたことですぐに現実に引き戻された。

 瞬間ベッドの端に腰かける男から距離を取るために後ろに後ずさる。

 確か卒業式後のパーティーで声をかけられて、そこからは記憶がない。

「嫌だな、そんなに緊張しないでよ、そんな風にされたら俺が怖いみたいじゃん」

「……人を誘拐しておいてよくそんなことが言えるわね」

 あくまでパーティーで話しかけてきたときと同じ人の良さそうな笑顔で話しかけてくる男に警戒心は強まる。

 それでも私は強気に言い返した。

 折れたところを見せれば相手の思う通りになってしまうから。

「いやいや、言い方が悪いなぁそれは、別に俺は誘拐したわけじゃないよ、ただ少しだけ話をしようと思って連れてきただけ、だって俺達友達じゃん」

「なんで、あなたと私が友達になるのよ」

 男は笑いながらそんなことを言うけど私はこの男に見覚えは全くない。

 早々忘れることのない目立つ見目、それを忘れているわけはないしそうなればあの日道でぶつかるまで接点はないはずだ。

 でも、やっぱりその暗く淀んだ瞳だけは見覚えがある気がするのは変わらない。

「えー、もしかして本当に忘れてる? 確かに俺は彼ほど君に入れ込んでいたわけじゃないけどストリートチルドレンのなかではそれなりに仲良いほうだったでしょ」

 男の匂わせのような台詞にかちりと頭のなかで嫌な音がしてピースがハマった。

「…………あなた、もしかしてイル?」

「なんだ覚えてるじゃん、そうイルだよ、久しぶりだよね、あれは丁度彼がいなくなってからだからもう八年も経つのか、時間が経つのはやっぱり早いね」

 おずおずと聞き返す私に男、イルは昔を懐かしむようにその淀んだ瞳を細める。

 イルはセリムが仕切っていたストリートチルドレンのチームに所属しているあまり目立たない少年だった。

 大人になったセリムの犯罪集団にも確かにいたけど作中での目立った活躍や行動はなかった筈で、そもそもそんなに笑うようなキャラじゃない、どちらかと言えば寡黙なキャラだった、だからこそ、私もそこまで覚えてはいなかったし気付けなかった。

 唯一記憶に残っていたのはその瞳だけだ。

「……何が、目的なの」

「……本当にそんなことも分からないの?」

「っ……」

 この人物が本当にイルであった場合なんでユーリを狙い私を拐ったのか答えが出ない。

 イルがどういう気持ちで犯罪集団に所属していたのかすら作中では出てこないからだ。

 だから、聞き返した、でもその瞬間にずっとにこにこと人の良さそうに笑っていたイルの瞳が感情を消した。

 いや、その瞳の奥には明確に敵意が揺れている。

「まぁ、分からないなら仕方ないか、まずはネタバレをしてあげよう」

 だけどイルはすぐにまたその笑顔を浮かべる。

 一瞬本心を見てしまった今、その人の良さそうな笑顔はただただ胡散臭い。

「まず、アルミア魔法学園で起きたあの二つの事件の主犯は俺達だよ、愚かな男、ジーク・エルメルダを使ってユーリ・ローレライを狙った、一度目は誘拐、二度目は殺そうとしたけど全て君に邪魔された」

 イルは言いきると困ったように息を吐き出して自分の髪の毛をかきあげる。

「そんなことして、あなたに何の得があったの? ローズクォーツの姫に興味があったわけじゃないわよね」

 ローズクォーツの姫に興味を示していたのはジークで、そのローズクォーツの姫を対価にジークは助力した、それは本人が言っていることだ。

 だからこそイル自身がローズクォーツに興味があるという線は薄いだろう。

 そもそも価値を見出だしていたなら殺そうとしている時点で矛盾が生じる。

「……そうだね、俺は別にローズクォーツの姫には欠片も興味ない、あの男やこの組織の一定数の人間は興味津々みたいだけど、人を集めるには充分過ぎる撒き餌だったね」

 イルは淡々とそこまで語ると一度口を閉じて、少しだけ考えた後にまた口を開く。

 そして

「話が少し反れたか、まぁそもそも最初から俺の狙いはハイネ・リューデスハイム、君だけだ」

「っ……」

 笑顔の消えた無表情で私の名前を呼んだ。

 今度こそは明確に向けられている殺意に私は小さく息を飲む。

 恨むとか、多分そういうレベルではないその感情を前に自ずと身体が震える。

 誘拐されたわけだから少なくともすぐに殺されるわけはない、そんな考えがあまりにも甘かったことを知るには充分過ぎた。 

「どうだった? 自分のせいで大切な人が危険に晒される恐怖は」

「……あなたは一体、何が目的なの」

 またパッと笑顔に戻るとイルはそんなことを聞いてくる。

 でもその質問の意図は理解できず、私は微かに震える声でそう聞き返した。

「まだ分からないかなぁ、これは……復讐だよ、俺から全てを奪ったお前を地獄に突き落とす、その為だけの、茶番だ」

 そしてイルはそれだけ言うと、私の首に手をかけた。

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