セリム・フォスターの休日
セリム・フォスターの眠りは浅い。
むしろほとんど眠ることはない。
一時間くらいの短い睡眠を何度か取ってそれ以外は基本的に夜中でも起きて何かしている。
それは剣や魔法の鍛練だったり、勉強だったり様々だ。
「……」
その日も夕食後にハイネ達と別れるとすぐに自分の部屋で机に向かいその日の授業のおさらいをしていた。
ハイネには自身が勉強をしているところを決して見せることはない。
しているという素振りを見せることすらない。
それは一概にハイネにその姿を見せる必要がないと判断しているからだ。
鍛練しているところも、勉学に励んでいるところも誰かに見せる必要はないしそれは誇れることでもない、リューデスハイム家に仕える自身の評価が悪ければそれはリューデスハイム家、ないしはハイネの悪評へと繋がる。
だからこそすべての努力はして当たり前、それが昔から変わらないセリムの思考だった。
して当たり前、やれて当たり前、セリムは周りが思っているよりも自己肯定感がとても低い。
適当にやっているように見えて実際は誰よりも色々なことを考えている。
多分それに気付いているのはよく周りを見ているアベルくらいのものだろう。
「……ダメだなこれじゃ」
一通り用意していた問題を解いて、それから自己採点してその結果にセリムは眉をひそめる。
結果は何の問題もなく生徒達の上位に入れる点
数ではあったがそれでもセリムは満足しない。
実力テストでシグナと同列一位だったことも、見た目上は気にしていない素振りをしていたが内心では自身のいたらなさに辟易していた。
「明日は朝鍛錬して、そのあとまた教材読み込んで……」
「セリム、失礼するよ」
今の結果を加味して明日の予定を詰めるセリムにノックして部屋に入ってきたアベルが声をかける。
「どうしたアベル」
セリムは机の上の教材に適当な布をかけて見えないようにするといつもの調子で聞き返す。
ノック後何の躊躇もなく扉を開いて勝手に入ってくるアベルにはたまに物言いたくなる時はあるがまぁ、それだけ信頼されてるのかと思えばセリムもそこまで悪い気はしない。
「明日の休み、ハイネが買い物行きたいらしいんだけど都合はどう?」
「……ああ、じゃあ行くわ」
セリムは事細かに明日の予定をすでにたて始めていたがアベルがハイネの名前を出せばすぐにそれを了承した。
それはセリムがハイネの騎士だからという理由だけでは片付かず、自分の何よりもハイネを優先する、そうあの日に決めているから出た台詞だった。
他の人間からすればハイネのしたことはそこまで大きなことではなかったのかもしれない、それでもセリムからすれば青天の霹靂だったことに変わりはない。
だから、ハイネがユーリのことをこれからも想い続けることを一番間近で知っていても変わらず、セリムは報われない努力を続ける。
たまに、自分の中の何かが壊れそうになりながらも。




