シグナ・マグナスの休日
シグナ・マグナスの朝は鍛練から始まる。
起きて早々ベットに立て掛けてある剣に手を掛けアルミア魔法学園に設備されている鍛錬所へと向かう。
この学園は爵位の高い者が多く在籍していることから側つきも同様に在籍している率が高く、それもあって魔法以外の部分、設備にも力が入れられている。
「おーシグナ、今日も早いな」
「……ああ」
シグナが鍛錬所に着くとほぼ百の確率でセリムが先に到着している。
今日も早い、セリムは基本的にそう声をかけてくるがシグナはいつもそちらこそと思う次第だ。
「今日は何本先取で行く?」
「いつも通り5本先取でいいんじゃないか」
「オーケー」
二人の模擬戦は魔法禁止、木刀によって行われる。
実力テスト1位と2位の二人が魔法や本物の剣を使えばいくら強化魔法をかけられた鍛錬所でもただでは済まない。
そして怪我も打撲や軽い裂傷では済まなくなる。
何回か試行錯誤した末に出された最適解がこれだった。
「今日はオレの勝ちー」
その日の勝敗の結果はセリムの勝利で幕を閉じる。
今回はシグナ4本、セリム5本という白熱した結果、最近の勝敗はセリムが白星を取ることが増えてきている。
そしてセリムは魔法騎士である、魔法を使える状態であれば勝敗の天秤は思い切り片方に傾くだろう。
「……さすがだな」
でもそれを悔しいと思えど妬むようなことはない、何故ならセリムのここに至るまでの努力は一番シグナがよく知っているからだ。
同じ騎士として切磋琢磨してきたシグナはひとつの目標として内心ではセリムを掲げているがそれを知る人間は一人もいない。
「……旨いか?」
昼を過ぎた頃、誰もいない校舎裏でシグナは一匹の魔猫にミルクを与えて少しだけ微笑む。
シグナは動物や子供はそれなりに好きなほうだがこんなシーンをハイネにでも見られようものなら爆笑必死、だからこそこれはユーリにすら知られていない秘密だ。
とはいえユーリには実は知られているのだが本人はそれに気付いていない。
「さてと、それじゃあまた今度な」
シグナは暫く魔猫を眺めた後に一度頭を撫でると立ち上がる。
この後は部屋に戻ってノートと向き合う予定がシグナにはあった。
あの日みんなが助けてくれて、気持ちをぶつけられて、それからは自主的に机に向かうことも多くなった。
今度は迷惑をかけないように、と。
「……そろそろ寝るか」
夜、シグナは寝る前に少しだけ本を読むのが習慣になっている。
決して何十ページも読むわけではない、多くて十数ページかそれくらい。
読む本は図書館で適当に見繕ったそれでジャンルにもこだわりはない、ただ、少しだけ今を忘れられればそれでいいのだ。
別に疲れているわけではない、ただ毎日毎日届かない想いを抱えることに最近少しだけモヤモヤを覚える、それだけのこと。
シグナは早々に本をサイドテーブルに置くとそのまま目を閉じる。
「……明日は、もっと正直になれれば、そう簡単にいけば苦労はしないのだが……」
シグナの閉じた目蓋に写ったのは自分の主人の姿。
初めて会った幼少の頃からずっと、ひたすらに想い続けるその人に、明日こそは少しでも自分の気持ちに素直になれればと思いながら、シグナは深い睡眠に落ちていった。




