アベル・ラインハルトの休日
アベル・ラインハルトの学校の休日は用事がなければ午後から始まる。
「頭重い……」
かといって次期国王候補である彼に用事がない日のほうが珍しく、大体はこうして身体を起こしてベットサイドに置いてある水を飲んで無理やり頭を覚醒させるのが常なのだが。
「……この後はシグナとセリムと三人で朝食を取って、その後は帝王学の前に昨日のおさらいをしておかないと」
低血圧で朝にとことん弱いアベルは基本的にその日の予定を口に出して確認する。
1日は限りがある、間違えてからでは時既に遅しだからだ。
「食堂でユーリに会えたら嬉しいんだけど……」
休みの日の朝食は基本用事がなければ男子組と女子組に別れて適当に取ることが多いがその度にアベルはユーリとたまたま遭遇することを願っている。
幼少期に出会ってからアベルの頭のなかからユーリが消えたことはない。
たまたま会えればその日1日笑顔で過ごせる程にはハイネ同様ユーリにお熱だ。
「アベルー、起きれたかー?」
「あ、セリムとシグナ、大丈夫だよ、今日は起きれたから」
ふと、ノックも無しに開かれたドアから飛び出してきたセリムの頭にアベルは驚くこともなく返事をする。
休日、アベルはたまに低血圧のせいで本当に死んでいる時があるのである程度の時間でこうして確認作業が入ることがある。
「……目の下に隈があるが、また夜更かししたのか?」
「ちょっと昨日までに片付けたいのがあってね」
部屋を出るとセリムの横で待っていたシグナに指摘され、アベルは困ったように笑い返した。
アベルは基本的に自分に厳しい性格をしている。
だからこそたまに無茶してはセリムやシグナにどやされることも今に始まったことではない。
「いつも言うけどあんまり無理するなよ、さてと、今日の日替わりモーニングはフレンチトーストだってよー、早く行こうぜ」
「そうだね」
アベルを心配しながらも無駄だと知っているセリムは既に朝食に感情をシフトチェンジさせている。
そんなセリムにアベルは頷くと続いて歩きだした。
「…………」
「あれ? 談話室にいるの珍しいねー」
「こんな時まで紙面に向かってるなんてそこまでいったらもう病気ね」
朝食も取り終えて午後に差し掛かろうという時間、談話室で軽く公務と向き合っていたアベルは声をかけられてそちらを振り向く。
「ユーリとハイネ、そんな君達は何をしてるんだい?」
今日もまたこうしてユーリに会えた事実に喜んではいるもののあまり感情が表に出るほうではないアベルが何を考えているのか、それを知るものはアベル本人しかいない。
「明日の魔法生物学で使う本を図書館から借りてきたところよ」
「分からないところがあったから」
病気云々と言いながら自身も明日の復習をしていることに笑いたかったがそれをすれば鋭い刃が飛んでくることをアベルはよく知っているからそんな見える地雷を踏むことはしない。
「せっかくならみんなでここでやったらいいよ」
「……あんた、ユーリと話したいだけじゃない」
言いながら早々に手元の紙面を片付け始めるアベルにハイネは目敏く突っ込む。
でも
「あははっ、そんなことないけどね」
ユーリがいるから、それだけの理由で手を止めたわけではないこともまた、知るのは当の本人だけの話である。
「……さて、これでいいかな」
朝はセリムとシグナの三人で朝御飯を食べたこと、ユーリとハイネの三人で雑談していれば自ずと魔法生物学の話になり、今度動物園にも行ってみたい、そんな話をしたことを既に夜の帳が降りた部屋のなか電球の明かりを頼りに1文字1文字丁寧に黒い装丁の施された日記帳に書き付け終えるとアベルはパタンっと音を立てて本を閉じた。
多分、誰もバカにするような人がいないことはアベルも理解しているが、それでもどこか気恥ずかしくて自身が日記をつけていることはアベル自身だけの秘密だった。
カチッと小さく音を立てて電球の明かりを切るとそのままアベルはベットに潜り込む。
朝、起きれば週に一回の休みは終わりまた学校という日常が始まる。
休みの終わりを悲しむものは多いがいつだってアベルはその逆だった。
休みが終わればまたみんなとああして集まれる、だから実のところ休日よりも平日のほうがアベルは好きだ。
また何か楽しいことが起きるのだろう、そう確信しながらアベルはゆっくりと眠りに落ちていった。




