2章エピローグ 誘拐されてしまいました、ユーリではなく私が
「疲れた……セリムのこと言えないわねこれ」
あの後パーティーには無事に間に合って、一学期の時のダンスパーティーとは違う完全な社交場に疲れた私はバルコニーで夜風に当たっていた。
前世ではこういう場に来ることはなかったからいまだに慣れない。
「やぁ、この間はごめんね」
「……あなたは」
ふと、横から声をかけられてそちらを向けば立っていたのはあの日の暗い瞳をした青年だった。
「ほら、覚えてないかな、前に道でぶつかっちゃったの」
「ああ、あなたアルミア魔法学園の学生だったのね、だからまたねって……でも校内で会ったことないわよね?」
いつからここにいたんだろうか、そんなことをふと考えていれば困ったように笑うから、私は慌てて取り繕う。
特徴的な瞳と真っ青な髪の毛が珍しくて覚えてはいたけど校内でこんな印象に残る人を見た記憶はない。
「そうだね、俺は三年だからフロアも違うし、でも君はよく目立つから俺は君のことを知ってたんだ」
「……あの日はなんであんなに急いでいたの?」
アルミア魔法学園は大きいから、そう言われてしまえばこちらは何も言い返せない。
私が目立っているというのは事実だし。
だから別に彼は変なことは言っていない、それなのに何かが妙に引っ掛かって、より深い場所に触れようと私は聞き返す。
「いやぁ新しい本の発売日だったんだよね、小説なんだけどずっと楽しみにしてて、それで走ってたら君とぶつかってしまって、すぐに周りが見えなくなるのは直さないといけない俺の癖だなぁ」
青年は特に変なことも言わずにただ普通の理由を上げて、それから困ったように笑って見せる。
「そう、あなたは本が好きなのね」
「うん、好きだよ、本は俺に新しい世界を教えてくれるから」
毒気のないその笑顔と穏やかな話し方に私の考えすぎなのかとも思い始めてきた頃だった。
「それにしても風が気持ちいいな」
「……」
青年はいきなり吹いた風を正面から受けて笑顔で呟く。
でも、軽く吹いたその風に青髪がなびいて、髪で隠れていた首もとが晒された時、その首に彫られた刺青を見て私の心臓の鼓動は早くなる。
確かに、そのマークには見覚えがある。
「どうかした?」
「そういえば、三年生ってことは卒業生よね?」
風が止んでこちらを向いた青年に問いかけられて、出来るだけ悟られないように普通の会話を振る。
多分、ここで気付いたことに相手が気付けばアウトだ。
ユーリのためにもそれだけは避けなくてはいけない。
「うん、そうだけど」
「……この後三年生は集合写真撮るでしょ? 行かなくていいの?」
三年生はパーティーの最後にみんなで記念写真を撮る、だからそれを理由に会場に戻るのが最善策、そう考えて促してはみたものの
「……ああ、それは気にしないで」
青年は笑顔で頭を振る。
「それって、どういう……っ……」
「君を捕まえたらすぐにここから消えるから」
一歩、男と距離を取るために下がった私の腕を痛いくらいの力で掴まれて、男の顔から笑顔が消える。
そしてその顔を見て、私はいつどこでこの顔を見たことがあるのかを嫌でも思い出した。
「っ……もしかしてあなたはっ――」
男の正体を暴こうとしたその瞬間、ぐらりと強く視界が揺れる。
これは多分精神系の魔法だ。
ダメだ、早くみんなに伝えないといけないのに、目蓋が重い。
それにこの男は今なんて言った。
私を、捕まえると言わなかったか?
「静かにしててね、あまり騒がれるとバレちゃうから」
そして、男のその声を最後に、私の視界は暗転した。
2章End
To Be Continued...




