69話 もう入学から一年経つなんて時間が経つのは早いですね
アニの卒業のお祝いをした日から暫く、時が経つのは早いもので二学期の終わり、私達は終業式と卒業式を迎えていた。
「たく、流石に息苦しいっすね、こういう行事は」
終業式と卒業式を終えてこの後のパーティーに向かう前に話があるからとセリムに声をかけられて私とセリムはユーリ達と一度別れて会場の外に出ていた。
「卒業式なんだから当たり前でしょ、そういうこと言わないの」
セリムは堅苦しい場は得意じゃないしそういうカチッとした服装も好まない、だからこういう場の後はへとへとになっていることが多いけど流石アルミア魔法学園の卒業式、格式高すぎて私ですら少しの疲れを覚えていた。
でもせっかくの卒業式という晴れの舞台にそういうことを言うのはあまり頂けない。
「アニはまぁ、流石というかなんというか、あんなしんみりしてたのが嘘みたいでしたね」
「あの人は、そういう人だったじゃないずっと、この先もあんな感じでうまくやってくんじゃないのー」
アニはあれだけ私にセンチなところを見せておいて当日は全くもっていつもどおりだった。
さっき見かけた時もファンクラブの女の子達に囲まれてあの嘘くさい笑顔を浮かべて対応していたしまぁ大丈夫だろう。
それに私は卒業後にアニがどうなるかも知っているから本当に心配はしていない。
「そうでしょうねー」
そして多分セリムもその後を知らないとはいえ気持ちは同じだと思う。
「で、そろそろこんなところに呼び出した理由を教えてくれない? もうすぐパーティーが始まるわよ」
「もうすぐ分かりますって」
とりあえずアニのことはこれで一旦いいとして、会場を出てから少し経つ、流石にパーティーに遅れるわけにもいかないから私はセリムに理由をせっつく。
だけどセリムは理由を教えてはくれなくて
「やぁすまない待たせたね」
答えは私の後ろから聞こえた声で自分で理解した。
「お父様……」
振り向くとそこに立っていたのはアダムで、これがセリムの戦場行きの話し合いの場であることはすぐに分かった。
「いえ、オレも今来たところです」
「あれ、ハイネちゃんも呼んだのかい?」
私がいることに気づいたアダムは少しだけ驚いた様子を浮かべた後にこっちに向かってヒラヒラと手を振ってくる。
アルミア魔法学園は沢山の貴族が生徒として在籍している、一学期最後のダンスパーティーと同様にこういう大きな行事ごとでは爵位のある人物達も多く集まる。
それは勿論アダムも例外ではない。
「いてもらったほうが色々手間が省けるので」
「……」
セリムは言いながら一瞬こちらに視線を向けたけど、それ以上私に何か言おうとすることもなかった。
「なるほど、それで、戦場に行くか行かないか、決まったかな」
「その件なんですが……」
アダムの言葉にセリムは頭をゆっくりと下げると口を開いて
「申し訳ありませんが今回はお断りさせていただければと思います」
「っ……」
私の目の前で戦場行きの話を、断った。
セリムの一言で緊張の解けた私は小さく息を飲む。
確かに二人でちゃんと話し合ったけど、それでもセリムは一度も断るとは明言しなかったし、それが少し不安だったのは事実だ。
「ふむ、理由を聞いてもいいかな?」
セリムの言葉にアダムは顎に手を添えて聞き返す。
その声色からは何を考えているのかは全く読み取れない。
「……自分の力不足は自分が一番理解しています、ですがオレはハイネ様の騎士です、大切なお姫様がオレがいないことで少しでも心を乱すのなら、オレは離れることは出来ません、卒業するまでだけでも、それに、わがままかもしれませんが……オレもまだ、ここにいたいです」
「セリム……」
それでも、セリムは何も臆することなくアダムに物を申す。
私の気持ちを優先してくれたこともうれしかったけど、私はただ、セリムが自分の気持ちをちゃんと加味して考えてくれて、それを口にしてくれたことが嬉しかった。
「……そうか、君の助力が得られないのは残念だが、君がそれを選んだのであれば何も言うまい」
そして、アダムも以前にも言っていた通りセリムの気持ちを優先してくれる。
戦場は劣性とは言っていたけどそこまで急を要するとは言っていなかったそれは事実だったのだろう。
「ありがとうございます、ですがもし、本当にオレの力が必要になった時はいつでも仰ってください、オレ程度の力でも役に立つなら拾っていただいた恩に報いる為に心命を賭して戦います」
「ああ、その時はお願いするよ」
セリムの進言にアダムはうれしそうに笑って見せる。
本当に力が必要になったとき、セリムは戦場に行くと言った、その時はきっと私でも止めることはできないだろう。
だって、それはセリムの意思だから。
「ハイネ! セリムー! もうすぐパーティー始まっちゃうよー」
少し和んだ空気のなかふと、少し離れたところからユーリに名前を呼ばれる。
「さぁ、友達も呼んでいるしもう行きなさい、せっかくのパーティーだから楽しんで、私もすぐにララと向かう、それにしても時が経つのは早いな、もうお前達も二年生か……あんな小さかった筈なのに、大きくなったものだ……ハイネ」
私達に行くように促すアダムはずっと優しい笑顔を崩すことなく浮かべていて、最後に一度私の名前を呼んだ。
「はい、なんでしょうか」
「ここまでお前のことを想ってくれる相手なんて早々いない、ちゃんとその絆は大切にしなさい」
振り返った私の肩に手を置いて、アダムはそんなことを言うけど
「……勿論そのつもりです」
私は既にその決意は決めた後だった。
「ハイネ様ー、早く行かないとマズいですよー」
「待って、今行くわ!」
私より少し先に会場のほうへ戻る足を進めていたセリムに呼ばれて、私はゆっくりと駆け出す。
「ユーリ、早く行きましょー」
「まだ始まってはいないからそっと合流しようか」
「全く、緊張感がないんじゃないのか?」
「ハイネ様、ありがとうございます、オレとちゃんと話すことを選んでくれて」
「……こちらこそこれからもよろしくね」
みんなと合流するとそれぞれがそれぞれに話し出して、一気に私の周りは騒がしくなる。
そしてセリムにお礼を言われて、私は笑顔で返事をした。
こうしてみんなと何の気なしに話をすることが、当たり前の日常ではなかったことを実感したのは、この後すぐのことだった。




